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波平さんがバトルロワイヤルを主催するスレ


磯野波平 [] 2007/08/06(月) 16:19:24:RKzmKgsu
         ζ
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    |/ _|||||||_\|  <   おまえたちに
      \  \_/  /     \  ころしあいをしてもらいます
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     ______.ノ       (⌒)
    //::::::::|-、 ,-/::::::ノ ~.レ-r┐
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   レ::::::::::::::::::|/::: ̄`ー‐---‐′
参加するカモさん [sage] 2007/08/06(月) 20:17:29:8BwrkEeO
うわーやられたー
参加するカモさん [sage] 2007/08/06(月) 22:36:26:yYZ9FEeC
主催:磯野波平

参加者:磯野サザエ 磯野カツオ 磯野ワカメ フグ田マスオ 磯野フネ フグ田タラ
    波野ノリスケ 波野タイコ 波野イクラ 伊佐坂難物 伊佐坂甚六 伊佐坂ウキエ
    伊佐坂オカル 裏のおじいちゃん 裏のおばあちゃん サブちゃん 三河屋店主
    中島ヒロシ 花沢花子 ハヤカワ カオリ 橋本 西原 先生 ホリカワ
    岡島さん アナゴさん アナゴ婦人 花沢花之丞 リカちゃん リカママ 課長 
    泥棒 警官 大工のジミー 大工の棟梁 全自動卵割り機 タマ ハチ 雪室先生

    39/39
参加するカモさん [sage] 2007/08/06(月) 23:48:16:jCJ7YgZp
地図地図
参加するカモさん [sage] 2007/08/07(火) 00:33:00:XPv0SM3E
ご町内でいいだろ
参加するカモさん [] 2007/08/09(木) 01:07:43:Fy/MSbvR
はだしのゲンバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1186587709/
JUMP CHARACTER BATTLE ROYALE 2nd -Part.5-
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1181473569/
波平さんがバトルロワイヤルを主催するスレ
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1186384764/
新システム制漫画アニメバトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1180288858/
ローゼンメイデンバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1186324761/
二次創作リレーでバトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1184426094/
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル第8部
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1183731158/
メカ・ロワイアル(仮)開催議論スレ
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185952109/
サンライズバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185898379/
2ch削除人バトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185707906/
母キャラ&美人先生キャラでバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185721650/
マガジンキャラクターバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185722747/
SUNDAY CHARACTER BATTLE ROYALE
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185723420/
赤松キャラバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185721146/
参加するカモさん [] 2007/08/09(木) 01:08:11:Fy/MSbvR
国会議員バトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185689688/
少年漫画でバトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185650876/
サッカー日本代表バトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185637739/
戦国武将でバトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185634156/
拉致被害者バトルロワイヤル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1185036325/
駄目元でこんなバトルロワイアルを提案してみる
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1184927484/
二次元キャラ・バトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1184822129/
戦闘少女バトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1181627911/
ドラえもんのび太のバトルロワイアル
ttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/event/1147937544/

参加するカモさん [sage] 2007/08/10(金) 03:08:53:WHaDJJyL
その場に集められた人間の中に、事態を理解しているものなど誰もいなかった。
何しろ全員が、夜寝ている間に連れ去られて今ようやく目をさましたばかりなのである。
彼らが目を覚ましたのは暗い倉庫のような密室だった。
「おい橋本、一体これはどういうことだよ?」
「俺が知るわけないだろ?」
小学生たちが恐怖におびえている。
「ばあさんや、一体何が起こったのかの?」
「さあおじいさん、夢でも見ているんですかね」
老夫婦が呆然と立ち尽くしている。
「親方、俺たち一体どうなるんすか?」
「ええい、大工たるものこんなことでいちいちビビってんじゃねえ!!」
大工の師弟が顔に青筋を浮かべている。
中でも一番騒がしい親子がいた。
「カツオ、これもあんたの仕業ね!!」
「そんなわけないだろう姉さん。ボクにこんな力は無いよ」
「そうですよサザエ。馬鹿なことをいうんじゃありません」
そのいつもは愉快な一家も、さすがに不安を隠せない様子だった。
「そう言えば、お父さんの姿がないですけど」
「本当ねえ、どこにいってるのかしら」
その時だった。薄暗い倉庫の中に光が灯された。そして天井の梁の上に一人の老人が立っていた。
「やあみなさん。今日ここに集まって貰ったのは他でもない、みなさんを罰するためだ」
その老人の姿に、全員が息を呑む。
「お、お父さん!!」
「磯野さん、これは一体何の冗談ですか?」
老人、磯野波平は淡々と答える。
「この中に許されざる罪を犯したものがいる。そう、昨日ワシの盆栽を壊していったものだ。
ワシは憎き犯人を捜そうとしたがどうしても見つからない。そこでワシは考えた。どうせなら全員しんでもらおうとな」
その告白に、全員が愕然とした。
「そう、思い返してみれば君達はいつもワシを軽視していた。ハゲだの電球だのと毎日のようにワシの頭をからかった。
もうワシは我慢の限界だ。これを期に、全員に死んでもらいたい。
しかしワシが直接手を下すのももったいない。そこでみんなにはこれから殺し合いをしてもらう。
最後まで生き残った一人は、命は助けてやるし商品としてワシの盆栽と髪の毛の一部をあげよう」
参加するカモさん [sage] 2007/08/10(金) 03:09:27:WHaDJJyL
「ふざけるな、だれがそんなものに従うか!!」
「そうですぞ磯野さん、馬鹿なことはおやめなさい」
青年と老人が波平の言葉に反駁する。それを波平は愉悦を込めた目で眺めた。
「やれやれ、反抗分子には早々に消えてもらいましょうかね」
波平がそう言うや否や、二人の首に付けられていた爆弾が爆発した。
宙を舞う二つの首。
「アニキ!!じいちゃん!!」
死体に駆け寄る少年。
「さて、ワシが本気なことはわかっただろう。それでは早速ゲームスタートじゃ。
ワシに逆らったものはああなるということを忘れずにな。なお、開始後三年以内に死者が出なければ全員の首輪を爆発させるぞ。
それでは健闘を祈ろう」
そして四十人の参加者たちは、それぞれ彼らが毎日暮らしている町内の別々の場所にワープしていった。


【ゲームスタート】
【中島のおじいちゃん  死亡確認】
【中島の兄       死亡確認】
残り40人
参加するカモさん [] 2007/08/10(金) 09:54:41:O5UO6cyb
あげ
参加するカモさん [] 2007/08/10(金) 22:13:53:zuKvY55P
omosiroku nattekitajaneeka
制限時間三年ならこのくらいのスローペースでいいだろ [sage] 2007/08/11(土) 02:42:29:/saY3I5a
いつもは家族の笑顔が並ぶ磯野家の居間も、今日ばかりは不穏な空気に包まれていた。
「全く殺しあいだなんて父さんも何考えてんのかしら」
「ええ、困ったもんだねえ」
顔を見合わせてため息をつくサザエとフネ。
「でもお買いもには行かなくっちゃ。夕飯の支度もあるし」
「いけませんよサザエ。三郎さんたちや花沢さんのおうちも殺し合いに参加しているんですよ。
迂闊に出歩いたりしたら大変じゃない」
「そうは言うけど母さん……」
その時だった。突如居間の窓ガラスが割れ、何かが部屋の中に転がり込んでいた。
それを見たサザエは悲鳴を上げた。
「イヤー、生首ー!?」
「あらまあサザエ、これは八百屋さんじゃないかい!!」
いつもサザエたちにおいしい野菜を提供してくれていた八百屋さんは、もはや物言わぬ頭部だけの亡骸に成り果てていた。
「だれがこんなヒドイことを……」
フネは窓の外を伺ったが、すでに誰の姿も無かった。
部屋の中には、ただ八百屋さんの無残な死に様を目の当たりにして号泣するサザエと割れたガラス、夥しい血、それを見守るフネと
八百屋さんのうつろな顔だけが残された。


「よし、これでいい。これで磯野家の連中は家族の中の誰かが八百屋を殺したと思い込み、疑心暗鬼に陥るに違いねえ」
夕焼けの中にたたずむ小さな公園。低い太陽が遊具の長い影を形作っていた。
その公園の水のみ場で血のついたノコギリを洗いながら、笑みを浮かべる男がいた。
彼は大工のジミー。かつて磯野家の風呂と物置を直した彼は、磯野家の造りについては熟知していた。
「八百屋の旦那も馬鹿なもんだ、自分は波平さんに呼び出されなかったから殺されないと思い込んで……
少し悪いけれど、これも家族の深い信頼で結ばれた磯野さんちを内側から崩すため。
こうでもしないと棟梁しか味方のいない俺は勝ち目がねえからなあ」
しかしそう悪態をつく彼の頬には一筋の涙が伝っていた。
人を殺したのだ。その事実はいくら心の中で正当化しても消えても小さくなってもくれない。
やがて日は沈み、公園も町も殺し合いが始まってから最初の夜を迎えた。
制限時間三年ならこのくらいのスローペースでいいだろ [sage] 2007/08/11(土) 02:43:13:/saY3I5a
【一日目 午後六時】
【磯野家】
【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:動揺・家族の安全を最優先

【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:動揺・家族の安全を最優先

【公園】
【大工のジミー】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:大工道具一式(カンナ・金槌・釘・ノコギリ)
思考:冷静を装っているが動揺

【八百屋さん  死亡確認】
残り40人
参加するカモさん [sage] 2007/08/30(木) 20:26:01:SFS743Vq
制限時間三年バロス
参加するカモさん [sage] 2007/09/03(月) 23:48:53:SYUN/RCg
参加者少ないのに終わりが見えなさそう
参加するカモさん [sage] 2007/09/17(月) 18:41:50:Ec7cclbM
一週間くらい何事もない日が続いたりすんのかw
これ読みたいwwwwwwwwwww
参加するカモさん [sage] 2007/10/11(木) 11:55:51:syW6jt1g
日常生活送りながらロワ。
・・・セカイ系?
参加するカモさん [sage] 2007/10/11(木) 23:13:14:zsjX+H8f
磯野カツオは、重い足を引きずって学校に向かっていた。
背中にはランドセルを背負い、頭には制帽を被っている。果たして今日は無事に家に帰ってくることが出来るのだろうか。
(幸い、うちの家族はまだみんな無事だけど……)
この三日間で、カツオのクラスメートのうち実に四分の一が犠牲になっていた。
ある者は学校で、ある者は家で、ある者は路上で無残な姿で発見された。
まだ中島や西原、花沢ら特に親しい友人たちは無事であるが、それを不幸中の幸いなどと言っていい状況でもない。
(父さんがあんなことをしなければ……いや、父さんをあそこまで怒らせた僕たちが悪いのか)
家族の中に殺人者がいるとは考えたくないが、町の中に殺人者がいることはもう疑いようが無い。だからカツオは学校へ向かう足も進まなかった。

「磯野のお兄様ー!!」
どこかで聞き覚えのある声を耳にしてカツオは振り返った。
「キミは……マホちゃん?」
忘れもしない、かつて中島にラブレターを出し(いや、正確には中島の兄にだったのだが)カツオと中島を散々振り回した
番組史上屈指のロリキャラである。
ツインテールにボーダーニーソックスという出る番組を間違えたとしか思えない容貌の彼女は、息を切らせてカツオのもとに駆け寄ってきた。
顔面は蒼白、足取りもおぼつかない様子だ。
「どうしたんだい、一体?」
「お、お兄様、中島のお兄様の弟が……」
そしてようやくカツオは気がついた。マホは背中から血を流していた。
参加するカモさん [sage] 2007/10/11(木) 23:14:18:zsjX+H8f
「磯野、そこをどいてくれ!!」
マホを追ってきたかのように姿を見せたのは、カツオにとって信じられない人物だった。
「僕はお前だけは殺さないから。だから、僕の言うことを聞いてくれ」
中島は手に鉈を持っていた。その刃には僅かながら血が付着している。それが意味すること。
「まさか、中島……」
マホは中島の姿を見たまま、まるで悪魔に魅入られたかのように固まっている。その背中には浅いながらもはっきりと切り傷があった。
「嘘だろ……」
「磯野、僕にはもう何も無いんだよ。じいちゃんも、兄貴も、波平おじさんに殺されてしまった。もう生きていても仕方が無い。
最初はさっさと死のうと思ったよ。でもどうせなら、最後に何か磯野、キミに残して行きたいんだ」
中島はいつものように平静な声で淡々と告げる。しかしカツオには、そこにいるのが中島の姿をした別のものとしか思えなかった。
「僕はキミを優勝させる。そのために他の連中を皆殺しにするんだ。まずはそこにいる、僕にふざけたラブレターをよこした生意気な女だ」
マホは震える手でカツオにしがみ付いた。カツオはただ呆然と親友の顔を見ることしか出来なかった。
「そいつを僕に引き渡してくれ、磯野」
中島が一歩歩み寄る。自分なんかのために殺人者になろうとしている彼の気持ちは理解できないものではなかった。
もし立場が全くの逆だったら、カツオも中島と同じ行動を取っていたかもしれない。
参加するカモさん [sage] 2007/10/11(木) 23:15:30:zsjX+H8f
(でも、だからってさ、中島)

カツオは歩み寄ってくる中島の目を見据えながら、マホの手を握った。
「今日は学校はサボろう。父さんに後で叱られるけどさ」
そう嘯いて、カツオはマホとともに走り出す。その後を中島が追った。しかし脚力ではカツオに分がある。
問題は怪我をしているマホの存在。カツオはひとまず角に逃げ込むと、そこにあったゴミバケツの陰に隠れてランドセルを向かいの家の塀の向こうに向かって投げた。
後から来た中島は、それを見てカツオたちが向かいの家の庭に逃げ込んだのだと思った。
狙い通りに中島が塀をよじ登って向こうに消えたのを見て、カツオはマホに囁く。
「今のうちだ」
二人はもと来た道を引き返した。


とりあえず落ち延びたのは花沢不動産の裏である。ただし今は花沢はいない。
花沢の父はいるだろうが、信用していいかどうかはわからない。
「磯野のお兄様……」
マホの顔はすっかり汗ばんでいた。幸い傷はさほど深く無いようだが、手当てくらいはしないといけないだろう。
「まずはうちに戻ろう」
「その後どうされるのですか?」
「やらなきゃいけないことが出来たみたいだ」
それはもう、最優先で。
参加するカモさん [sage] 2007/10/11(木) 23:16:06:zsjX+H8f

【三日目 午前八時】
【花沢不動産裏手】
【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・マホを連れて磯野家まで逃げる
2・中島の目を覚まさせる

【桜井マホ】
状態:背中に浅い切り傷
装備:支給品一式
武装:不明
思考:生き延びる

【かもめ第三小学校付近】
【中島】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
参加するカモさん [] 2008/01/12(土) 22:11:21:oXq1zGDC
NHKで大河ドラマとして太平記をやると聞いた時、當然主人公は大楠公(楠木正成)と思い、全巻をビデオに撮ろうと張り切っ
ていたが、逆賊足利高氏が主人公と聞いて愕然とした。原作(吉川英治、私本太平記)がそのようになっているそうであるが、「梅
松論」ならいざ知らず「太平記」と名付ける以上は、大楠公を無視したり足利高氏を賞揚したりすることは許されないのではなかろ
うか。足利高氏の肩を持って書かれている「梅松論」ですら、大楠公に對しては稱贊を惜しまないとのことであるのに、NHKドラ
マの楠木正成は足利高氏に阿諛追從する道化役にされている。役者も重みのある人を起用するならまだしも(演技は上手なのかも知
れないが)輕佻浮薄な役者を起用して意識的に「河内の田舎武士」を演じさせている。役者自身も、大楠公を演じている自覺がまるで
ないようであり、チャンネルを變えると馬鹿面を晒して「ラーメン」や「冷藏庫」の宣傳を行っているから始末が惡い。心ある日本人の
崇敬を一身に集めた大楠公を演ずる以上は、己も大楠公に成り切り、少なくとも放映期間中は輕佻浮薄なコマーシャルの出演を斷る
位の見識を示して欲しかった。昨年の西郷南洲(隆盛)役に續き、NHKは我々の崇敬する人物を意識的に侮蔑しようとするのか!

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ζ
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   /\   \   /|
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    /  \  介 ノ \ ||   .:||ー、
   / ヽ、  \| |/    ||     :||ニ、i
   /   ヽ       ヽ ||___,||ー_ノ\ 
 
参加するカモさん [] 2008/02/14(木) 21:47:07:p3wef8g8
これは映画化決定だな
参加するカモさん [] 2008/02/16(土) 23:52:11:paGmMrO9
 …続きまだかぁ
冨樫張りの休載っすね
参加するカモさん [sage] 2008/02/17(日) 20:31:09:nK7EuHIZ
続き待ってる奴なんかいたのかww


自ロワの手が開いたら書いてみるよ
参加するカモさん [sage] 2008/04/29(火) 14:24:21:NXhJqaHp
続きは?
参加するカモさん [sage] 2008/05/03(土) 00:57:15:I79sYmgc
魔性の宮ヴィ・アラガデロ
参加するカモさん [sage] 2008/05/30(金) 00:43:23:/y/02bj6
予約入れていいか?
エビフリャー [] 2008/07/01(火) 16:26:42:1DYmHJ+T
タモリ鉄道博物館
 ・名古屋市営地下鉄の車内搭載発車促進メロディーはフジテレビ系「なるほど・ザ・ワールド」の時間切れ前警報音を参考にして考案されたものです。
 ・ドレミファモーター(京浜急行)は芸能界の鉄道ファンタモリさんがテレビ朝日系「タモリ倶楽部」の中でで考案しました。
 ・名鉄パノラマカー7000系の発車音・走行音・減速音・停止音は日本テレビ系「欽ちゃんの仮装大賞」の不合格の時の効果音に似ている。
 ・西鉄のnimocaは歌手でタレントで倖田來未の実妹であるmisonoさんが考案したのもです。
タモリ空耳アワー
 ・高校三年生: あ、あー、あ、あ、あー 合ーコン三年生ーーーーーーーーーー
タモリさん名古屋大好き
 ・タモリさんはエビフリャーの名付け親です。
 ・タモリさんは日本の中で名古屋が一番好きであり、且つ地元の人以上に名古屋の文化や風習に詳しい人です。
 ・タモリさんは自分の第2のふるさとは名古屋であると言っており、将来名古屋市役所から名古屋親善大使として任命されると思います。
うきえ [] 2008/09/05(金) 09:59:15:7Kaeknyy
くそっカツオめ!!!!!!!
参加するカモさん [] 2008/11/03(月) 22:24:01:0Fr1b0c7
企画解除
参加するカモさん [sage] 2009/02/25(水) 20:11:08:C6HzWtQz
磯野家内が八百屋の生首のことで揉め、カツオがマホを連れて中島から逃げていたのと同日同刻。
一人の男が磯野家に侵入を試みていた。
「この匂いは……血!! やっぱりおじさんたちも殺し合いに乗っていたんだな」
そう玄関先で呟くのは、磯野家にとってもっとも馴染みのある客の一人であるノリスケだった。
しかし今日のノリスケは磯野家に昼ごはんをご馳走になりに来たわけではない。
その手には一本のゴルフクラブが握られていた。
「おじさんやマスオさんは無理でも、タラちゃんやフネさんくらいなら……」
そう言いつつも、動揺は隠し切れない。
今まで家族同然に付き合ってきた人々なのだ。簡単に殺せるわけがない。
しかし、そうしなければタイコやイクラにまで危険が及ぶ可能性がある。
磯野家は固い絆で結ばれているが、それゆえに万が一団結して殺し合いに乗った場合、とてもノリスケ一人では太刀打ちできない存在となる。
「そうだ。何も殺さなくてもいい。一人か二人を再起不能なくらいの重症にするだけでも十分なんだ……」
そう呟きながら、ノリスケは意を決して磯野家の扉を開け―――られなかった。
伸ばした右腕の肘から先が一瞬のうちに切り落とされたからだ。
「え?」
状況を理解できないノリスケの声。そして次の瞬間、ノリスケの体は十を超える肉塊へと切り刻まれた。
今わの際に愛する家族のことを思うことすら、ノリスケには許されなかった。
磯野家の玄関先に残ったのは、かつて磯野家を愛していた男だったモノ。それを屋根の上から見下ろす存在があった。

「本当に良く切れるのね、この糸」
ワカメはノリスケの血で赤く染まった糸を回収しながら呟いた。この『罠』を仕掛けておいたのは正解だった。
うっかり家族の誰かがひっかかる可能性もあったが、その時は玄関から出入りするのを止めて裏口を使ってもらえばいいだけのこと。
磯野家を訪ねる人間がほぼ必ずこの正面玄関を使う以上、このトラップは得物を選ばず必ず作動するのだ。
「さあ、これからが大変だわ。ノリスケおじさんの死体をどこかに隠さないと。お姉ちゃんやお兄ちゃんには特に気をつけておかないと……」
家族を守るために悪魔と化した少女は、かつて慕っていた叔父の亡骸を感情の無い目で見下ろしていた。
参加するカモさん [sage] 2009/02/25(水) 20:11:32:C6HzWtQz


【三日目 午前八時】
【磯野家正門】
【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・ノリスケの死体を隠す

【波野ノリスケ  死亡確認】
残り39人
参加するカモさん [sage] 2009/02/27(金) 19:33:26:8NXA2tzh
殺し合い三日目も正午を過ぎた。
居間に座り新聞を読んでいるのは、波平が不在となった磯野家では実質的な家長の任にあるとも言えるフグ田マスオである。
サザエとフネは買い物に出ている。うろつくのは危険だが、二人いればむざむざ殺されることもないだろう。
それに、殺されるのが怖いからといって何も外出しないでは生活できない。
大量に食料を買い込んで篭城するという手もあるだろうが、そんな量の買い物をすれば近所の人にもあっという間に狙いを読まれてしまうだろう。
もとよりこの家にしたって決して堅牢な城ではない。家に無理矢理押し入りでもされたら危険なのには変わりないのだ。
ならばむしろ今までどおりの生活を演じ、まるで殺し合いになど乗る気は無いというフリをしておくのが得策。
しかしマスオ自身は今までのように普通に生活を送るわけにはいかない。
波平は彼ら殺しあいの参加者に、この町から一歩たりとも出ることを禁じているからである。
それでも波平はどう手を回したのか、殺し合いの期間中はマスオの会社から十分な生活費が振り込まれるらしい。
(さて、殺し合いも三日目だ。ここまではなんとか全員無事でこれたけど、ここからはそうもいかないだろう)
すでにご近所では何人もの犠牲者が出ているのだ。しかしそれを捜査するための警察すら町内には入れないという状況。
(お義父さんもいったいどういうコネがあったんだか……まあ、あまりその辺のことは考えても仕方が無い)
何しろ相手は警察すらも意のままに操れるのだ。日本政府すらも支配していると思って間違いないだろう。
テレビや新聞でも、ここ数日この町で起きている殺人事件は全く報道されていない。
よってマスオは、波平の居場所を突き止めて説得し、殺し合いをやめさせるという選択肢はすぐに放棄した。
次善の策は、なるべく家族に犠牲者を出さないようにしてこの殺し合いをやり過ごすということ。
少なくとも猶予はあと三年あるのだ。その間持ちこたえてさえいれば、どこかで波平側にも綻びが生じるかもしれない。
参加するカモさん [sage] 2009/02/27(金) 19:34:56:8NXA2tzh
次にマスオは、この殺し合いに参加している人物の中で信頼に足るのは誰かを考えた。
まずは親友であるアナゴ。彼が殺し合いに乗るなどありえない。
続いて課長。あの人も殺人を犯すような上司ではない。彼らは信用に足るはずだ。
しかしこの町の住人ではない彼らには、こちらから居場所を把握できないという欠点がある。
町内をしらみつぶしに調べれば潜伏場所はわかるだろうが、そんなことをするリスクのほうが大きすぎる。
(だが、ノリスケくんはどうだろう……)
彼もマスオの親友である。しかしアナゴと違うのは、彼は妻子も殺し合いに参加させられていることだ。
もしかしたら、家族を守るために修羅になるという道を選ぶかもしれない。
考えたくは無かったが、ありうる展開だ。
(となると、ノリスケくんと迂闊に合うのは危険だな。あとはいささか先生や花沢さんの家族も同じ理由で危ない。
となると、今すぐ連絡が付きそうな中で、『利用』できそうな人間は……)
マスオの頭にはある人物が浮かんだ。
ちょうどその時、まさにその人物の声が狙い済ましたようなタイミングで磯野家に響いた。


「ちわーす、三河屋でーす!!」
参加するカモさん [sage] 2009/02/27(金) 19:37:02:8NXA2tzh
【三日目 午後二時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを仲間に引き入れ、利用する

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・注文をとる
◆C9xQKoU8ZQ [sage] 2009/03/16(月) 04:12:20:h6ztr2uF
泥棒 警官

予約していいですか?
参加するカモさん [sage] 2009/03/16(月) 07:21:17:K+3SdH61
どうぞどうぞ
名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2009/05/12(火) 17:38:01:HpO8bdd3
花沢不動産を経営する花沢家は、まだ一応は殺し合いからは距離を置いた生活を続けていた。
父親の花沢花之丞、娘の花子、そして名簿には記名されていない母親。
堂々と普通の生活をしているにも関わらず彼らが狙われないのにはそれなりの理由があった。
彼らはこの町では不動産屋としてそれなりの信頼と地位を得ている。
敵に回すよりは味方につけたほうが得策なのは明らかだし、他の参加者を皆殺しにして優勝を狙うにしても、
支援者の多い花沢家をまだ序盤の段階で攻撃するのは自分の首を絞めるだけの結果になる。
そして当然、そのことを利用しようとする者も現れ始めていた。

「花沢さん、本当に私達を匿ってくれるのね?」
「もちろんよ!! 私の家は町の中でもかなり安全な場所だから、しばらくはここにいて様子を見るといいわ」
花沢不動産の応接間にはランドセルを背負った少女が三人。
ここの娘の花子、その同級生のカオリと早川である。
花沢不動産が殺し合いに乗った参加者から標的にされにくいということは、子供でも気付いていた。
「それにしても、磯野君たちが心配だわ……一体どこにいっちゃたのかしら」
カオリが口にしたのは、今日一日姿を見せなかったカツオと中島のことである。
「やっぱりもう二人とも……」
「ちょっと、ハヤカワさん!!」
「そうよ!! 二人ともそう簡単に死ぬような奴らじゃないわよ!! 意外と今頃、何か波平さんを倒す秘策を練ってるんじゃないかしら」
カツオの嫁を自認する花子が断言するような口調で言う。それを聞いてカオリとハヤカワも幾許か安心した。
確かに勉強は出来なくともこういう状況下では頭が回りそうな連中だし、何より友情という強い絆で結ばれている。
きっと心配することは無い。
「それより、私達は私達で今後の方針を練りましょう。ちょっと待ってて、今ケーキとジュースを入れるから」
花子はそういうと、店の奥に引っ込んでいった。
参加するカモさん [sage] 2009/05/12(火) 17:38:47:HpO8bdd3


「あら、早川さんは?」
ケーキとジュースを三人分用意して戻ってきた花沢は、応接間にいるのがカオリだけなのを見て尋ねる。
「何か忘れ物をしたから、一旦取りに戻るって言ってたわ」
「そうなの? 途中で何も無ければいいけど……」
そう言いながら花子はカオリにケーキとジュースを勧めた。


数分後、カオリは息を引き取った。
机の上に倒れこみ、もうピクリとも動かない親友を見て花子はほくそえむ。
「あんたが悪いのよ……あんたが、磯野君をたぶらかすから……」
この光景を誰かが見たとしたら、自分を疑うだろうか? それは無いだろう。
何しろ、花子もカオリが食べたのと同じケーキを食べ、同じジュースを飲んでいたからだ。
さらに、三つあるケーキとジュースから自分の分を選んだのはカオリ自身である。
そう、この状況下なら誰も自分が毒を盛ったとは思わない。疑われるのは自分の父か母だ。
「にしても、ちょっと予定が狂っちゃったわね。やっぱり早川さんを待ってから二人まとめて始末したほうが良かったかな?」
そう思ったが、そもそも早川がちゃんと戻ってくるという保証は無い。
何より、憎き恋敵は少しでも早く始末したかった。この激情に押された判断が果たして今後にどう響いてくるか……
「まあいいわ。それより早くカオリちゃんの死体をどっかに始末しないとね。早川さんが今にも戻ってくるかもしれないし」

しかし結局、この日彼女が早川に再会することは無かった。


【カオリ  死亡確認】
参加するカモさん [sage] 2009/05/12(火) 17:39:36:HpO8bdd3
【三日目 午後四時】
【花沢不動産】
【花沢花子】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考:
基本・恋敵は殺す。他の人間は未定


【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
参加するカモさん [sage] 2009/05/12(火) 17:53:26:HpO8bdd3
殺し合いだなんて、そんなバカなことが本当に行われてるわけないじゃないですか。
実際に殺されてる人がいる? いえいえ、そんなこと私は信じません。
きっと他のみなさんは何かを勘違いしているか、私達親子を騙そうとしているんでしょう。
だって、ニュースでも全然言ってないし、お巡りさんとかも全然捜査に来ていないじゃないですか。
え、それは波平さんがマスコミや警察を牛耳っているから?
そんなわけありませんよ。それに私は昔から、新聞やテレビって言ってないことは信じないようにしてるんです。

それにね、私達親子がこうして今も平和に暮らしているのがその証拠。
あら、やっと娘が帰ってきましたわ。あら、そとでお花を摘んできたの?綺麗なお花ねえ。
さ、そろそろ晩御飯にしますから、手を洗ってらっしゃい。

え?
さっきうちの娘が手にしていたのはお花じゃなくて、人間の子供の手首みたいに見えたって?
いやあねえ、そんなわけないじゃないですか。
さて、このお花は花瓶に挿しておこうかしら。

【よく公園にいるガキ大将  死亡確認】(名簿外)
参加するカモさん [sage] 2009/05/12(火) 17:54:57:HpO8bdd3

【三日目 午後四時】
【リカちゃんの家】
【リカママ】
状態:健康、現実逃避
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・殺し合い?そんなの現実じゃありませんよ


【リカ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
参加するカモさん [] 2009/05/22(金) 17:29:12:QqdqYzSf
投下されててワロタwww

とりあえず乙。おもしろかったです
泥棒と警官と老人 [sage] 2009/06/16(火) 18:31:35:rjO9Dn6w
自分は生まれながらの悪人だった。
生まれてからこの方、泥棒という犯罪稼業以外はやった試しがない。
同じ家に何十年間も入り続けたりしているせいで前科も相当のものだが、それでも泥棒をやめることは出来ない。
それしか生きる方法を知らないからだ。

しかし、人殺しとなると話は別だ。
たとえ入った先の家で住人に騒がれても、そんなことは頭を掠めもしなかった。
それも、街の住人全員が参加しての『殺し合い』。狂っているとしか思えない。
しかし、今更犯罪者である自分なんかに何が出来るというのか。
他の連中と力を合わせて殺し合いを止める? 無理だ。自分を信用してくれる仲間なんかいるわけがない。
優勝して生き残る? もっと無理だ。盗みはしても、人を殺すのなんかごめんだ。
結局自分は、きっと何も出来ないまま誰かに殺されて終わるのだろう。

殺し合いが始まってから、すでに三回目の夜が明けた。
『今日、殺されるかもしれない』という思いは日増しに強くなっていく。
しかしそれでも生活はしないといけない。街中が事実上の無政府状態になっているのだけが泥棒にとって追い風といえた。
泥棒と警官と老人 [sage] 2009/06/16(火) 18:34:42:rjO9Dn6w
今更けちな盗みぐらいで騒ぐ奴はいないのだ。そう思い、さっそく一軒の家に忍び込もうとした時。

「こら、貴様何をしている!!」
振り向くと、そこにいたのは毎回彼を逮捕する顔馴染みの警察官だった。
「不法侵入の現行犯で逮捕する!!」
そう言って手錠を取り出す警官。
「ひいっ、か、勘弁してくださいよ!! 今更逮捕だなんて、大体あっしみたいな小悪党に構ってる場合じゃねえでしょ!?」
「何を言う!! どんな状況下だろうが、犯罪は犯罪だ!!」
警官はこともなげに言った。
「確かに現在、わが派出所には『今後三年間、この町内で起こる犯罪は、殺人等の重犯罪を含めて一切の捜査を禁ずる』という指令が出た。
しかし、本官はそんな指令に従うつもりはない!! たとえ三年後に警察官の資格を剥奪されるとしても、この街で起こる犯罪は全て一人で捜査する!!
そして殺人犯も含め、全員を逮捕してみせる!!」
その言葉を聞いて、泥棒は膝の力が抜ける気がした。
自分が『あくまでも泥棒稼業に徹する』という決意をしたのとはわけが違う。
この警官は、自分自身の誇りにかけて自分の職務を全うしようとしているのだ。
(あーあ……こんな立派なお巡りさんになら捕まっても構いやしねえや。それに、
もう塀の外も中も一緒だ)
泥棒と警官と老人 [sage] 2009/06/16(火) 18:40:00:rjO9Dn6w
観念した泥棒は、大人しく警官に連行されようとした。
その時、二人はすぐ近くから、破壊音としか言いようの無い騒音が聞こえるのに気が付いた。

突如、泥棒が侵入しようとしていた家の垣根が音を立てて崩れ、その向こうから巨大な乗り物が姿を見せた。
慌てて飛びのいた二人がよく見ると、それは一台の巨大なロードローラーだった。
見るとすでに家は破壊された後。更にロードローラーが走ってきたと思しき道は、家も車もすべからく整地されていた。
そしてその操縦席を見た警官は驚きの声を上げる。
「あ、あなたは、磯野さんの家の裏のおじいさん!!」
ヘルメットも付けずに操縦桿を握っているのは、白い髭を蓄えた、いつもは優しい老人だった。
「これはこれはお巡りさん。今日もお仕事ご苦労様ですじゃ」
まるで世間話のように言う老人。その様子は、一見普段とどこも変わらないようにも見えた。
「お、お爺さん……一体何を……」
「いえ、これは波平さんからワシに支給された武器ですじゃ。せっかくですから乗り心地を試そうと思いましての」
「い、いけません、すぐにやめてください!! さもないと、器物損壊と道路交通法違反で……」
「ほっほ、聞けませんのう」
泥棒と警官と老人 [sage] 2009/06/16(火) 18:42:08:rjO9Dn6w
そういうと老人は、再びロードローラーを発進させた。
警官は腰を抜かしている泥棒の手を引いて逃げる。

「そんな……どうして、あのおじいさんが……」
「お巡りさん、もうこの街の人間はとっくに普通じゃねえんですよ。あの爺さんも正気を失っているだけだ……
もうおしまいです、この街は」
言いながら、泥棒の胸には郷愁にも似た諦めがこみ上げてきた。
(ああ、やっぱり俺は、この街とこの街の連中が好きだったんだな)
泥棒はがっくりと膝をついて、もう目前に迫った死を受け入れようとしていた。
(ごめんよ親父、お袋……情けねえ生き方の末に、こんな死に方しちまって)
だが、警官はそんな彼の手を引いて立ち上がらせた。
「本官はあの車を止める!! お前は安全な場所に逃げ、他の住人たちにこの事を伝えてくれ!!」
「え、えええええ!! お巡りさんそれは無茶ですぜ!! あんなのをどうやって……」
「出来る出来ないを議論している暇は無い。どんなことをしてでも市民の生命と財産を守るのが本官の職務だ!!」
そう言って腰の拳銃を抜く警官。けっして向こう見ずでもやけになっているわけでもない。
心から、住民を守るための最善策を考えている男の顔だった。

「……お巡りさん」
「どうした、早く避難しろと」
「いいんですかい? あっし、ひょっとしたらそのまま逃げちまうかもしれませんよ?
それにあっしも体力と悪知恵には自身がありやす。一人よりは二人でしょう?」
「お、お前……」
泥棒と警官と老人 [sage] 2009/06/16(火) 18:45:37:rjO9Dn6w
警官は少し思案していたが、やがて諦めたように肩を竦めた。
「犯罪者に背中を預けることになるとは、きっと始末書ものだな」
「できればあっしの罪も帳消しにしてくれませんかね?」
二人が話している間にも、ロードローラーは電柱やゴミ箱をなぎ倒して二人に着実に近づいてきた。
「ほっほっほ、ぶっちぎりにしてやりますぞ!!」

【四日目 午前十時】
【磯野家から見て街の北側の路上】

【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:拳銃、警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1:裏のおじいちゃんを止める

【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官と一緒に裏のおじいちゃんを止める

【裏のおじいちゃん】
状態:錯乱
装備:支給品一式
武装:ロードローラー
思考:???
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 18:49:06:rjO9Dn6w
それは、彼にとってはあまりに長い旅だった。
足は棒になり、持ってきたジュースとお菓子も底をついた。
それでも彼は必死で、町内で自分の行ける所まで歩こうとした。
自分と、大切な「友達」を守るために。


「ここならもう大丈夫ですぅ」
フグ田タラオはそう言って、町外れ、つまり出入り禁止区域との境界線ギリギリのところにある公園のベンチに腰を下ろした。
一人でこんな遠いところまで来たのは初めてだった。
出発したのは朝早くだったのに、もう太陽が随分と高く昇っている。
そして、タラオは背負っていたリュックサックから「友達」を取り出した。
『ありがとう、タラチャン。でも、本当に良かったの?』
ようやく外の空気を吸えた全自動卵割り機は、疲れをタラオに気付かれないように隠しながら尋ねた。
「はいですぅ。ママもパパもおばあちゃんもワカメおねえちゃんも、なんだか様子がおかしいですぅ。
だからみんなが元の優しいみんなに戻るまで、ここに隠れるですぅ」
三日前、ジミーが磯野家に投げ込んだ八百屋の首は、磯野家に確実に波紋を呼んでいた。
みんな一見すると平静を保っているが、その実薄々ながらも
(磯野家内に殺人者がいるのではないか?)
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 18:51:40:rjO9Dn6w
と思い始めていた。まだ幼いタラも同じだった。
そして一方で、マスオとワカメは何か家族に隠し事をしているとしか思えなかった。
二人ともどこか様子がおかしいし、突然理由をつけて家からいなくなったりする。
そして昨日の晩、ついにタラオは見てしまったのだ。
ワカメが夜中、こっそりと庭を掘って、そこに前から埋めてあったらしいノリスケの死体を掘り出すのを。
見たものが信じられず、呆然とするタラオの目の前で、ワカメはノリスケの死体を一輪車に積んでどこかに持っていった。
その時だった。タラオが家出を決意したのは。
それは幼い子供なりに考えた、自分と友達を守る手段だった。

『それにしても、僕はまだ信じられないよ……優しい磯野家の人たちが、そんなことをするなんて』
歩き疲れてベンチに横になったタラオの横で、全自動卵割り機は不安そうな口調で言った。
『波平さんだってそうだよ……僕を買ってくれた時の波平さんの嬉しそうな顔、僕は忘れてないよ。
今まで僕たちを買っていくお客さんたちは、みんなどこか面白半分というか、冗談の種に買っていくような感じだったけど、
あの人だけは心から僕を必要として買ってくれたんだ。僕にもわかるよ。
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 18:57:14:rjO9Dn6w
それに、磯野家に行ってからもずっと大事にしてくれた。それなのに……』
「大丈夫ですよ」
タラオはいつものように、無邪気な笑顔で言った。
「きっと、おじいちゃんもワカメお姉ちゃんもみんなも、たまたまちょっとだけ悪い子になっているだけなんですぅ。
だからきっと、すぐにみんな元に戻るですぅ。死んだノリスケおじさんだってきっと帰ってくるですぅ」
『タラチャン……』
そんなことはありえない、とは言えなかった。
なんでこの子はこんなに強いんだろう。
機械である自分には人間の気持ちなんかわからないけど、ここまで家族を信じることが出来るのって、やっぱりすごいと思う。
『ねえタラチャン、どうして僕を連れてきたの? 僕なんか、さっさと壊してしまえば、タラチャンたちが生き残れる可能性は上がるのに』
「そんなの出来ないですぅ!! 全自動卵割り機は、僕の大事な友達ですぅ!!
だからいつまでも一緒にいるですぅ!!」
『……そうかい、ありがとう』

所詮は子供の戯言と、侮る気持ちもどこかにはあった。
実際には、自分は「ずっと大事に」されてきたわけではない。
買ってしばらくすると、自分は台所の棚の奥にしまわれて滅多に使われなくなった。
だからこの子の気持ちもじきに冷めるんじゃないかと思っていた。
しかし、ただ「友達だ」と言ってもらえるというだけで、なんでこんなに安心できるんだろう。
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 18:59:32:rjO9Dn6w
『タラチャン、これからどうするの?』
「全自動卵割り機はここに隠れているですぅ。僕はカツオ兄ちゃんを探すですぅ」
『カツオくんをかい?』
「そうですぅ。きっとカツオ兄ちゃんなら、いい考えを思いつくですぅ。カツオ兄ちゃんさえいれば安心ですぅ」
完全に叔父である少年を信頼しきっている顔だった。
確かにカツオは利発な少年だし、タラオが憧れるのもわかる。
しかし彼はもう三日も姿を見せていないのだ。無事である保証はない。
(でも、タラチャンがそう言うなら……きっと無事なんだろうな。ちょっとやそっとじゃ死にそうにない人だし)
何よりも、なんとしてもカツオに会うのだという決意をしている少年の顔を見ると、水を指すにはなれなかった。
『ねえ、タラチャン。もし、生き残ったらさあ―――』

コロコロ、と。
二人が座っているベンチの足元に、小さい石のようなものが転がってきた。
「あれ、何ですか?」
タラオがベンチの下を覗き込もうとする。
まるでそのタイミングを狙っていたかのように、その爆弾は爆発した。


『タ、タラチャン!! タラチャン!!』
爆煙が晴れたとき、全自動卵割り機は必死で少年の名前を呼んでいた。
彼の損傷は、外装や腕の一部の破壊。致命傷というには程遠い。
ベンチが爆風除けになったのと、もともと硬い機械の体であったことが幸いした。
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 19:06:58:rjO9Dn6w
しかしそんな自分の状況なんかよりも、タラオの無事を早く知りたかった。
「ぜん……じ、どう……」
タラオはいた。地面の上に伏せていた。
もう、どう見ても助からないような傷を負って。
『タラチャン!! 大丈夫!? 痛くない!? しっかり!!』
励ます声に微笑みで返して、タラオはゆっくりと呟く。
「ごめんな……さ……ですぅ。ぜん…りきは……早く……逃げ……ですぅ……」
『そんな、嫌だよ!! 僕はタラチャンがいなけりゃ嫌だ!! カツオくんに会うって言ってたじゃないか!!
またみんなで暮らすって言ってたじゃないか!! だからダメだよ、僕と一緒にいてよ!!』
まただ。
なんでみんな、自分のことを一人で置き去りにするんだ。
先に売れていった仲間たちも。
自分をすぐに使わなくなった磯野家の人たちも。
そして―――初めて出来た、大事な友達さえも。

「ママ……パパ……みん……もっと一緒……いたかった……ですぅ……」

『タラチャン!! また一緒にお歌歌おうって言ったじゃないか!! 絵本も読もうって言ったじゃないか!!
三輪車で一緒にお出かけして……公園で一緒に遊んで……約束、したじゃないか……』
もういくら叫んでも、タラオの体は動かなかった。
(なんで……なんで僕は人間に生まれなかったんだ。同じ人間であったなら、さっきの爆発で、一緒に死ねただろうに……)
しかし彼には、涙の流し方さえもわからなかった。



(やったか……)
爆弾の威力を確認するという目的は十分に果たせた。
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 19:08:45:rjO9Dn6w
木っ端になったベンチと、幼児の死体。そして、彼のおもちゃらしきものが公園の隅に転がっている。
人を、殺した。しかし彼は自分でも驚くほど冷静に、自分のしたことを受け入れられた。
(のんびりしてちゃいられない。こうしている間にも、磯野や中島、橋本たちは危ない目にあってるかもしれないんだ)
西原は、残りの爆弾が入った鞄を持ち上げて立ち上がった。残りは五発。慎重にいかないといけない。
(出来ればパソコンも欲しいな……何かわかるかもしれないし、解析したいこともある)
ふと、なぜこんなにも自分は冷静なのだろうと思った。
そんなのは決まっている。
磯野、中島、橋本の三人は、自分にとって本当に大切な仲間だからだ。
(あいつらのためなら、俺は何をやったって惜しくはない……)
そして西原が去った後には、あまりにも静かな公園だけが残された。


【四日目 午前十時】
【町外れの公園(よくアニメに出る公園とは別)】

【フグ田タラオ  死亡確認】

【西原】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:小型爆弾×5
思考:基本・カツオ、中島、橋本を生き残らせるために他の参加者を殺す
1:どこかに移動して休憩
2:パソコンが欲しい
孤独の円盤 [sage] 2009/06/16(火) 19:12:09:rjO9Dn6w

【全自動卵割り機】
状態:破損(命に別状なし)
装備:なし(支給品焼失)
武装:なし
思考:
1・今は何も考えたくない

※タラオの支給品は焼失しました。
参加するカモさん [] 2009/06/16(火) 23:03:31:7lwJOWUe
やべぇ普通におもしれぇww
参加するカモさん [sage] 2009/06/20(土) 21:22:04:NzMkL8kd
卵割機wwwww
可愛い奥様 [sage] 2009/06/22(月) 20:42:17:yZAsZol1
ロワスレか、懐かしいな……と思って覗いたら稼動してるww
名無しキャラばっかなのに成り立ってるしwww
参加するカモさん [] 2009/06/26(金) 19:39:20:nL2WRzMp
こんな過疎なのにこのクオリティwwww
参加するカモさん [] 2009/06/28(日) 18:37:28:YrM7hmfi
あげ
参加するカモさん [] 2009/07/11(土) 23:33:32:aolcDWtQ
過疎してるけどまだ使ってる?
参加するカモさん [sage] 2009/07/16(木) 14:59:06:IVtOIZvR
ここはFFDQロワ以上のスローペースだからな。使ってるといえば使ってるのかもしれない。
参加するカモさん [] 2009/07/16(木) 18:01:47:YYhB5Qhl
面白いwwwwwwwwwwww
参加するカモさん [] 2009/07/17(金) 17:12:15:2+W0HW7F
キャッチャー

捕手

保守
参加するカモさん [] 2009/08/15(土) 10:21:11:KmXsY2hX
良スレage
参加するカモさん [] 2009/08/17(月) 05:43:05:CTpHL5RN
ななしのいるせいかつ [sage] 2010/01/06(水) 16:36:26:wn96EjTT
保守
名無しさん┃】【┃Dolby [] 2010/01/20(水) 12:19:41:AFldPoXU
ちくしょー!

続きくれ保守!!!!
参加するカモさん [] 2010/02/20(土) 23:57:57:3lUd3HUP
ヌルポロワイヤル

続きが気になる
参加するカモさん [sage] 2010/02/21(日) 12:14:49:7dTmIKh4
てす
獣の繁殖について [sage] 2010/02/21(日) 12:52:19:7dTmIKh4
「もう一度だけ確認しておくが……」
白い顔をした若い男が口を開くと、立ち去ろうとしていた年嵩の男は面倒くさそうにため息をついた。
「今更なんだ?」
「もし乗り気がしないというなら、断ってもいいんだ。自分の家族だけを守るために動いたっていいんだ」
若い男はそう言って目を細めた。丸顔のこの男が微笑むと、うっかり心が和んでしまう。
年嵩の男は体ごと男に向き直った。
「ここまで話しておいてそれは無いだろう。そんなことをするよりは、この場では協力するふりをしておいて途中で裏切るほうが有利だろう。
いや、何ならこの場でお前を殺してしまえばもっと話は早い」
「ああ、なるほど、それもそっか!!」
若い男は呑気に笑う。
その姿からはとても強い決意を伺うことは出来ない。この話を持ち込んできたのは彼のほうなのに。
しかし彼と長年付き合ってきた男は、彼が自分を油断させるために演技をしたりするような男ではないことを知っていた。
先ほど彼らが交わした約束はただ一つ。
この殺し合いにおいて彼らのどちらかが死ぬその時まで、彼らは自分の家族だけではなく相手の家族も等しく守る。
担保など何も無い。いつ相手が裏切るかわからない。
それでも彼らはその点に関して不安を感じなかった。
「お互いが裏切らないと信じているから」ではない。「たとえ裏切られても、それはそれでいい」と思っているのだ。
それは、同じ町で同じ時間を長く過ごした者だけが抱ける思いだった。

「なあ、あんたにとっては家族って何だ?」
年嵩の男の問いに、若い男はしばし無言で髭を撫でていた。
「……僕は、自分の母親も父親も兄弟も知らない。そんなものを求められるような身分でも無かった。
一日一日を生きていくだけで精一杯で、他の誰かのことなんか目にも入らなかった。ましてや誰かと一緒に生きるなんて……
だけど、今は……」
その口調に悲壮さは無く、純粋に昔を懐かしむように彼は言った。
「その日あの人に拾われなければ、僕はこの歳まで生きられなかった」
そうか、と一言だけ答えて、年嵩の男は外に出た。
獣の繁殖について [sage] 2010/02/21(日) 12:53:41:7dTmIKh4
彼にとっては家族は自分の生きる全ての意味だ。
では自分にとっては何なんだろうか。
自分は生まれたときから今の家族と一緒だった。母親の温もりも知っている。
だから彼のような理由で家族と一緒にいるわけではない。だとしたら、一体……
まあいいか。そんなことはこれから死ぬまでの間に、ゆっくり考えるとしよう。


【四日目 正午】
【磯野家の軒下】

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:タマの提案に乗る

【タマ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族とハチの家族を等しく守る
参加するカモさん [sage] 2010/02/21(日) 14:29:53:9ZPk0mZ2
おお久々の新作!!
ガチシリアスでいい話なんだが絵を想像したら吹くw
世界のほんの片隅から [sage] 2010/02/21(日) 17:40:31:7dTmIKh4
この世界の話をしよう。
わたしはまだ上手く話せないし、長い話も苦手だから聞き苦しくなるかもしれないけど、良かったら聞いてほしい。


かなり長い間、私は母以外の人間を知らなかった。
私には父親がいないわけではない。両親は人並みに私を愛してくれていたと思うし、私は彼らに何一つ不満があったわけではない。
しかし私は父の顔を知らない。
顔を合わせたことが無いから知らないというわけでは無い。私は間違いなく父と母と三人で暮らしている。
―――否、『そういうことになっている』。
実際には私は父に関する記憶は無い。ただ「父がいる」ということを知識として「知っている」だけだ。
それは例えて言えば、「食べた記憶が無いのにおなかが膨れている」みたいなものだ。

父のことだけで無く、私は私に関することすら満足に知らない。
毎日どんな朝ごはんを食べているのか? どんな幼稚園に通っているのか? 好きな子はいるのか?
それは私が間違いなく毎日経験していることだ。にも関わらず、それらのことを思い出そうとすると必ず頭の中に靄がかかったようになる。
自分が何者なのかだけは知っている。
しかし、それだけしか無い人間になど何があるというんだろうか。

やがて私は子供なりに理解した。
どうもこの世界において、私は背景の中に埋もれた脇役みたいなもんで、どこかにいる主役を際立たせるだけに存在するのだと。
そしてその主役とは、おそらく私が何故かいつも一緒に遊んでいるあの男の子、いやその家族全員らしい。
彼らには私に無い全てのことが与えられていた。
決して羨ましかったとは言わない。決して妬んだ訳ではない。
私と彼らとでは与えられた役目が違うというだけなのだから。
しかし、こう考えることを止めることは出来なかった。

この世界が彼らを主役とした世界ならば、どこかに私が主役になりうる世界だってあるんじゃないかって。

だから、波平さん――その、この世界の主役である家族の父である人が私たちを集めて「殺し合いをしろ」って言ったとき、私はこれはチャンスだと思ったのだ。
私たちの生活は一変した。つまりそれまでの世界は崩壊したということ。
ならば、私がこの「殺し合い」という新しい世界の中で主役になることだって可能なのではないだろうか。
世界のほんの片隅から [sage] 2010/02/21(日) 17:41:58:7dTmIKh4

私の母親だった人は、今、床の上にうつぶせに倒れている。
知らなかった。幼稚園児である私でも、背中から思いっきり刺せば大人を殺せるんだ。
「今までありがとうね、ママ」
さて、安心してはいられない。私が殺したのはまだ二人だけ。主役になるにはまだまだ足りないんじゃないかって思う。
繰り返すが、私は彼らが羨ましかったわけではない。妬んでいたわけでもない。
あえて理由を言葉にするなら……「好奇心」、だろうか。

ああでも、さすがにちょっと疲れちゃったし、人殺しばっかりするのも飽きるし……
ママの血で、ちょっとお絵かきでもしようかしら。

【四日目 正午】
【磯野家の軒下】

【リカ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:出刃包丁、斧
思考:基本・この殺し合いの「主役」になる

【リカママ 死亡確認】
残り37人
「醤油を一つ下さい」 [sage] 2010/02/21(日) 18:18:59:7dTmIKh4
「マスオさん……本気でそんなことを言ってるんですか?」
ここは磯野家のマスオの部屋。そこに招き入れられてマスオの話を聞かされていたサブは、思わず身を乗り出してたずねた。
「おいおい、冗談でこんなことを言ってるわけないだろう?」
マスオはいつものように陽気に答える。しかしサブはいつものようには笑って答えられない。
「でも、本当に人殺しをするなんて……」
「甘いことを言ってちゃいけないよ。もう実際に何人もの人が死んでるんだよ? こうしている間にだって、僕の家族や
君の店の人が命を落としているかもしれない。実際には殺し合いに参加している人のほうが多数派なのさ」

ちょうどこのサブのように、初日の波平の説明を聞いていてもなお、殺し合いに積極的には参加せず、かと言って
自衛手段も取らず、つまり以前までと変わらぬように生活をしている者も決して少なくは無かったのだ。
だが当然そのような者は他の好戦的な参加者の餌食にされるだけである。
文字通りの意味で殺し合いの犠牲者となるか、もしくは今この瞬間のサブのように、狡猾な参加者に言いように付け込まれるか。

「繰り返すけど、僕と君の間にある繋がりは薄いから、他の人たちには僕らが結託していることがバレにくい。
それに僕らにしたって、余計なしがらみが無い分行動しやすいって面もあるだろう?」
マスオはあくまでもいつもの調子でサブに語りかける。
「そして別に君に人殺しをしろって言ってるんじゃない。ただ、他の人たちの様子を探ってくれって言ってるだけだ。
それは君の立場なら簡単だろう?」
「いや、まあ、そりゃあ……」
この状況下でも御用聞きとしてあちこちの家に出入りしているサブほど、その役目に適任な者はいないだろう。
「醤油を一つ下さい」 [sage] 2010/02/21(日) 18:20:31:7dTmIKh4
「だけど、僕は別にそこまでしなくてもって思うんですけど」
「つまり、そこまでして生き残りたくないってことかい?」
サブは口ごもってうつむいた。どんな状況下であろうと、生き残りたいかと問われていいえという人間はいない。
「もちろん君にだってメリットはある話だと思うよ。もし君の情報から危険そうな人がわかったら僕が責任を持って排除する。
君は手を汚さないし危険な目に遭うこともない。もちろん疑われることもないってわけさ」
もちろん詭弁だ。実際には、マスオよりもあちこちの家に出入りしているサブのほうが疑いの目で見られる可能性が高いだろう。
だがサブの返答は、まったくマスオの期待に沿うものだった。
「……わかりました。でも、本当に偵察するだけですからね?」

【三日目 午後五時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・マスオの案に乗る
2・注文を取る
君の手を握りたかった [sage] 2010/02/21(日) 18:51:59:7dTmIKh4
参った。
食料が底を尽いてしまった。
オヤジとオフクロが家に帰ってこなくなってから丸二日、いつかこうなることはわかっていたけどうちには
思ったよりも蓄えが無かったみたいだ。
今までは殺し合いにビビって家から一歩も出なかったんだけど、さすがにもうそんなことは言ってられない。
このままじゃ殺される前に飢え死にだ。

だけど、やっぱり外に出るのは怖い。
この四日間、学校にすら行かなかったくらいなのだ。
オヤジとオフクロももう殺されているのだろう。ましてや俺は最初に波平おじさんに集められたメンバーなのだ。
オヤジたちよりも殺される可能性は高いと言えるんじゃないだろうか。
けど、さっきから腹は鳴りっぱなしだし、もう限界だ……
駄菓子でもいいから食いたい、でも……

そうだ、変装すればいいんじゃないか!!

俺は家中をひっくり返して、使えそうなものを探した。
そして黒いビニール袋を頭から被り、目の部分に穴を開けて覆面を作った。
これでバッチリだ。少なくとも、これで誰も俺を見ても俺だとはわかるまい。
そこが一番重要なんだ。

俺はオフクロの財布からお金を失敬してポケットに入れると、急ぎ足で家を出た。
さっさと食いたいものだけを買って帰ろう。
俺は全速力で道を走り―――

すさまじい音と熱が俺の体を襲った。
君の手を握りたかった [sage] 2010/02/21(日) 18:54:20:7dTmIKh4
(やったな……)
西原は爆弾で吹き飛ばした人間の元に駆け寄った。
子供のようだったが、見るからに怪しい奴だった。何しろ頭に覆面をつけていたのだから。
おまけにやけに焦ったように走っていた。人を殺して逃げるところだったのかもしれない。
(こんな奴が、磯野や中島や橋本を殺すんだ……俺は絶対に許さないぞ!!)
そして誰を殺したのかあらためようとした西原は、覆面の下に守ると決意した親友の顔を発見したのだった。

【四日目 午後五時】
【町の北部】

【橋本  死亡確認】
残り36人

【西原】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:小型爆弾×4
思考:基本・カツオ、中島、橋本を生き残らせるために他の参加者を殺す
1:呆然
参加するカモさん [] 2010/02/22(月) 01:08:44:aim7azTG
続きktkr
参加するカモさん [] 2010/03/04(木) 22:53:44:t95ioca5
ぬるぽ

続きが気になる
参加するカモさん [sage] 2010/03/05(金) 02:10:24:QoXtDedI
続き待つ間に感想でも書いていこうぜ
そのほうが作者のモチベーションも上がるだろうし
参加するカモさん [] 2010/03/05(金) 16:49:14:jHqt2Njt

それもいいね

感想というか全般的に面白いし、これからどうなるかホント気になる
全自動卵割り機が出てきた時はクソワロタwww
参加するカモさん [sage] 2010/03/06(土) 15:52:41:31UKwMQd
マーダーが多いわりに優勝狙いマーダーが少ないのは、やはり
商品がしょーもないものだからだろうかw
参加するカモさん [] 2010/03/15(月) 00:49:26:0x6hSDOU
続きまだかな。
まだかな。
参加するカモさん [sage] 2010/03/19(金) 00:02:49:FDtEsCae
なんか次のロワ語りまで新作ないような気もするけどw
参加するカモさん [] 2010/04/19(月) 12:34:04:KNho9Yuq
期待age
名前をあたえないでください [] 2010/05/01(土) 15:41:58:skNxC7QX
保守上げ
参加するカモさん [] 2010/05/02(日) 03:20:04:F+wj+5oS
ttp://www19.atpages.jp/imagelinkget/get.php?t=v&u=blog-imgs-31.fc2.com/s/c/a/scarfacebalalaika/20081119152126.jpg
ttp://img.zoome.jp/img13/diary/fc19/83101_3_d1_3.jpg
ttp://popup777.net/wordpress/wp-content/uploads/20090630_11.jpg
ttp://img01.ti-da.net/usr/rightriot/%E3%82%B5%E3%82%B6%E3%82%A8%E3%81%95%E3%82%93.jpg
DJ ponoco [] 2010/05/05(水) 10:14:43:Tmeuk2rD
波hey!!
小さなその手を [sage] 2010/05/14(金) 00:44:26:ARAxuJ25
「全く、いつの間にかこんな異常事態にも慣れてしまったなあ」
ベッドに腰掛けてコップに入った水を飲みながら、一人の男が嘆息する。
男の名を知る者はいない。特に気にかける者もいなかった。
みんなが知っているのは彼の職業のみ。すなわち、かもめ第三小学校の五年三組の担任教師、ということだけだった。

今彼はいつも生徒の前では着用しているスーツを脱ぎ捨て、上半身は下着さえも脱いで肌を露にしている。
当然普段ならこんなだらしの無い姿を生徒に見せることなど無い。
普段であったら、だ。

「先生、もう起きてたんですか?」

ベッドの中から、女の――というには随分と幼い声がした。
彼女はさっきまで先生が入っていた布団の中に、生まれたままの姿で包まっていた。
彼女はあろうことか、先生が担任するクラスの生徒の一人だった。

「ハヤカワ……」
先生は辟易とした様子を隠そうともせずに言った。
「お前はもう家に帰りなさい。なんだったら送ってあげるから」
「イヤです」
彼女は迷いもせずに言った。
「先生の側から離れるくらいなら殺されたほうがまだマシです」
「ご家族だって心配してるだろうと言ってるんだ」
「もう私なんて死んだと思って、諦めているかもしれないじゃないですか」
そういう彼女の顔は、あまりにも無邪気な子供のそれだった。
「バカを言いなさい。そう簡単に子供のことを諦められる親なんかいるもんか」
「だけど、どうだっていいんです。もう他の人たちのことなんか」
まるでごく当たり前の摂理を言うような顔で告げるハヤカワの姿を見て、先生は静かに後悔する。

(やっぱり、彼女の告白を受け入れるべきじゃ無かったな……)
小さなその手を [sage] 2010/05/14(金) 00:45:13:ARAxuJ25
「先生のこと、本気で好きなんです」
彼女にそう言われたのは果たしてどれだけ前のことだったか。
そこまでは本当によくある話。小学校という場では日常茶飯事と言ってもいい。
彼にとっても決してはじめての経験というわけでは無かった。だから軽く諭すくらいにして、笑い話にしてしまえば良かったんだ。

しかし、いくら断っても叱ってもアタックを続ける彼女のあまりの熱意に押され、気がついたら彼女と唇を重ねていた。

それから果たして、何度こういう朝を迎えただろうか。
お互いに家族や他の生徒たちの目を盗んで逢引を続ける毎日。日常の中に確かな非日常があった。
それが今では、殺し合いという非日常の中で非日常的な営みを続ける毎日。
いや、今ではもはやハヤカワと共に夜を過ごすことだけが「日常」というべきか。

彼の周りの世界はあまりにも変わってしまった。
すでに彼の受け持つ生徒のうち半数近くが死亡。
家が町外にある者は殺し合いが始まってからは帰宅することが出来ず、成すすべなく夜の街をさまよっていたところを
一人また一人と殺されたのだ。
ハヤカワの親友の一人であるカオリや中島、西原、磯野たちは行方不明。
そしてつい昨日、彼らと同じグループである橋本が遺体で発見された。
それでもハヤカワの様子には目立った変化は無い。
まるで何事も無かったかのように、先生の隣で無邪気な微笑を浮かべている。
(磯野……中島……お前たちは無事なのか?)
そう心の中でつぶやく先生の不安げな横顔など意に介さず、ハヤカワは彼の手に指先を重ねて言う。
小さなその手を [sage] 2010/05/14(金) 00:46:40:ARAxuJ25
「先生は、どこにも行きませんよね? ずっと、私と一緒にいてくれますよね?」

(違う……こんなの、間違ってる)
先生の中の理性的な部分がそう告げる。
こんな関係の果てに待っているのはきっと破滅だ。
いや、仮にお互いにこの殺し合いから生還できたとして、その先に一体どんな未来があるって言うんだ?
少なくとも、これからこの子が生きていく人生の中には自分はいちゃいけない。
いちゃいけないんだ。

だけど、彼は気がついたら彼女に顔を寄せて唇を重ねていた。

「ハヤカワ。私は、どこにも行かない。お前を守る。必ず一緒に生きて残ろう」
それが本心なのか偽りの言葉なのかさえ、もう彼には分からない。
これは、あまりにも悲しい恋だったから。

先生はハヤカワから唇を離すと言った。
「さあ、服を着なさい。学校へ行こう」
彼は授業をするために彼の職場である学校へ行くつもりだ。
彼と彼らの日常を守るために。
小さなその手を [sage] 2010/05/14(金) 00:47:59:ARAxuJ25
【五日目 午前7時】
【先生の家】
【先生】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ハヤカワを守る
1・学校に行き、授業をする

【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・先生とずっと一緒にいる
参加するカモさん [] 2010/05/14(金) 03:13:10:dgeQK69l
おまw
新作来てるw
先生wwwww
それでも君が [sage] 2010/05/15(土) 11:30:32:On6BPpMC
自分の人生はきわめて平凡であったが、恵まれた幸せなものだったとは思う。
若い時はそれなりに色々あったが、歳を取った今は子供たちも独立し、優しい夫と二人で長閑な暮らし。
裏の家には愉快な一家が住み、そこの子がよく遊びに来てくれる。
何の不満も無い平和な生活。こんな生活がずっと続くものだと思いたかったが、もはや自分たちに残された時間は短い。
いつかはどちらかが先に逝く。
その日がいつ来てもいいように、毎日を楽しく過ごす。彼女はいつからか、自分の生きる意味をそう決めていた。
本当なら、裏の家の子供たちがこの先どんな人生を送るのかをずっと見守りたい。
夫とも、ずっと一緒にいたい。
だけどそれはかなわない願い。
だから、一日一日を大切に暮らす。
掃除や洗濯、料理といった妻の務めはしっかりと果たし、二人が穏やかに暮らせる家を守る。
それだけでいい。

そう。
たとえ今、彼女が長年掛けて綺麗に掃除してきた部屋が、割れた花瓶や破れた障子などが散乱する無残な有様をさらしているとしても。
彼女が作った料理が床の上にぶちまけられているとしても。
それらが全て、彼女の愛する夫の手によるものだったとしても。

―――そして、その夫が今、波平から支給されたロードローラーに乗り、町中を破壊しながら走っているとしても。

彼女は散らかった部屋を、ゆっくりながらも片付ける。
今彼女の夫は正気を失っているが、いつかは元の夫の戻って帰ってくるはずだから。
自分がやるべきことは、あくまでもこの家で平穏な生活を続けることだけなのだから。

「―――おじいさん、この家のことは私に任せておいてくださいね」
それでも君が [sage] 2010/05/15(土) 11:32:29:On6BPpMC
【四日目 午後6時】
【裏のおじいちゃんの家】

【裏のおばあちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:不明
思考:基本・何があってもこの家を守る
1:夫の帰りを待つ
ある初恋の終わり [sage] 2010/05/15(土) 16:22:00:XWVAMnYt
桜井マホは、磯野家の子供部屋に匿われていた。
彼女の家は町の外にあるらしく、殺し合いの間は帰りたくても帰れないらしい。
他に頼る者もいないので、カツオに連れられる形で磯野家に連れてこられた。
他の家族も彼女を保護することには同意した。
それから五日。彼女の傷は見た目ほどは深くなかったらしく、サザエやフネの手当ての甲斐もあってすでに出血も止まっていた。
問題は、体の傷ではなく心の傷。
まだ年端もいかない子供が、同じ子供にとはいえ刃物で刺されたのだ。その恐怖は容易に消えるものではない。
それでもマホが正気を保っていられるのは、ひとえにカツオをはじめとする磯野家の人々の親身な看病のお陰だった。
磯野家の長である波平は、この殺し合いを始めた首謀者には違いない。
だが、マホが見た磯野家はそんな男の家族だとは思えないくらい明るくて暖かい人々だった。
今日も磯野家のメンバーと一緒に朝食を食べたマホは、カツオたちの部屋でワカメに貸してもらった本を読んでいた。
何もしないでいるとあの時の恐怖が蘇ってきてしまうのだ。
その時、磯野家の玄関が開く音がした。外出してきたカツオが帰ってきたらしい。
現在も学校は平常どおり授業を行っているらしいが、カツオとワカメはそれには出席していないようだ。
ある初恋の終わり [sage] 2010/05/15(土) 16:22:51:XWVAMnYt
「どうだった、お兄ちゃん?」
部屋の外の廊下から、カツオとワカメが会話をする声が聞こえる。
「うん……まだタラちゃんとノリスケおじさんの行方はわからないらしいんだ。タイコさんも、もう半分は諦めているみたいな感じだったよ」
「心配ね、タラちゃんもノリスケおじさんも」
カツオとワカメの声は深く沈んだものになっていた。
「それに、中島と西原もまだ。いやそれだけじゃない、花沢さんとハヤカワさんもだ。
昨日は西原がやられたらしいし、もうみんな……」
カツオはそこで声を詰まらせた。
「ダメよお兄ちゃん。カオリちゃんと橋本くんが死んで悲しいのはわかるわ。だけどお兄ちゃんはもっとしっかりしていないと。
お兄ちゃん、中島くんたちを助けたいんでしょ?」
声はしなかったが、気配からカツオが泣いているらしいことがわかった。
カオリという子はカツオが想いを寄せていた相手で、橋本はカツオの親友だったらしい。
大切な人を失う気持ちはマホにはまだよくわからないが、きっと凄く悲しいことだと想像する。
「ああ、そうだな……ありがとうワカメ。じゃあ、もう一回出かけてくるよ」
「もうタラちゃんや中島くんたちを探しに行くの? 少し休んでからのほうがいいわ、それに一人でなんてやっぱり危ないわよ」
「一刻を争うんだ、そんな暢気なこと言ってられないよ。それにマスオ兄さんにはマスオ兄さんで考えがあって忙しいみたいだからね。
じゃあな、ワカメ」
カツオはそう言うと、一目散に駆け出していった。
にぎやかな人だなあ、と思ってマホは少し笑った。
ある初恋の終わり [sage] 2010/05/15(土) 16:24:15:XWVAMnYt
すると、扉が開いてワカメが部屋に入ってきた。
「マホちゃん、具合はどう?」
「もうだいぶいいわ。動いてもへっちゃらなくらい」
マホとワカメはクラスこそ違えども同学年であり、すぐに仲良くなった。
「カツオお兄さんはまた外に行っちゃったんですか?」
「ええ。でもお兄ちゃんのことだから大丈夫だと思うわ」
「ワカメちゃん、あんな素敵なお兄さんがいて羨ましいわ」
「全然そんなこと無いわよ。いつもは意地悪だしイタズラばっかりするし……」
そう言いながらワカメは自分の椅子をマホの元まで持ってきた。
「よかったら私の椅子に座ってもいいわよ」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうわ」
マホは言われるがままに椅子に腰掛け、持っていた本の続きを読み始めた。
が、その時マホは自分の背後にワカメが立ったことに気づかなかった。
ある初恋の終わり [sage] 2010/05/15(土) 16:25:30:XWVAMnYt
突如、何かが自分の首に回された。
あれ? と思う間もなく、襲ってきたのはわずかな痛みと気絶するかのような苦しみ。
意識は瞬く間に霧散し、悲鳴すら上げることなくマホは息絶えた。
それでもその今わの際に彼女が脳裏に浮かべたのは、今はもうこの世にいない初恋の相手の顔だった。
(中島の、お兄様……)

絞め殺したマホの死体を見て、ワカメはほっと一息ついた。
やっと始末できた、と安心する。
「これ以上お兄ちゃんのそばにこんな女を置いておいたら、何が起こるかわからないものね。
そもそも家族以外の誰かをこの家に入れるなんてとんでもないわ」
一番の大仕事をやってしまったのだから、後は後片付けだけ。ノリスケの時と同じようにやるだけだ。
タラちゃんも、おそらくはもう他の誰かに殺されているだろう。
だが、他の家族は誰一人として誰にも手出しはさせない。絶対に。
「あなたが悪いのよ、お兄ちゃんの人の良さにつけこんで、匿ってもらおうとしたりするから」
ワカメの呟きにも、もはやマホは何も答えなかった。

【5日目 午前八時】
【磯野家】
【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・タラオ、ノリスケ、中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
ある初恋の終わり [sage] 2010/05/15(土) 16:26:34:XWVAMnYt
【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・マホの死体を隠す

【桜井マホ  死亡確認(名簿外)】
墓標に名は刻まず [sage] 2010/05/16(日) 23:46:06:OLWL8a0v
「フグ田さん、その……こちらです」
マスオとサザエをそこまで案内してきた大工の棟梁は、その公園の真ん中に置かれた青いビニールシートを指差して言った。
何を言えばいいのかわからない、そんな顔をしている。
「……お心構えはできてますでしょうか?」
棟梁の問いかけに、マスオは黙って頷いた。サザエは答えない。
マスオと目を遭わせようともせず、それどころかいつもの饒舌さはどこへ行ったやら、さっきからずっと黙ったままだ。
棟梁はいぶかしんだが、マスオは棟梁の前に出てビニールシートをめくった。
無残な幼児の死体がそこにあった。
「……間違いありません。うちの、タラちゃんです」
マスオは声を詰まらせながら言った。そして、死体の第一発見者である棟梁に一言二言礼を述べて目を伏せた。
棟梁は何も言わなかった。
そしてサザエもまた、我が子の亡骸を目の前にしても尚、表情一つ変えようとしなかった。


棟梁が立ち去った後、マスオは膝から地面に崩れ落ちた。
まだ三歳の息子がこんな死に方をしたのだ。耐えられるわけが無かった。
どうしてタラちゃんはこんなところまで一人で来たんだ。
どうして自分たちはタラちゃんが一人で出かけたことに気付かなかったんだ。
そして、どうして、タラちゃんは死なないといけなかったんだ。

それから一体どれくらいそうしていたのだろうか。
マスオは真っ赤に腫れた目を上げて、その時になって妻の様子のおかしさに気付いた。
「サザエ……」
幼い実の息子の無残な最期を見せ付けられて、絶望に打ちひしがれているはずの妻の顔には、何の表情も浮かんではいなかった。
文字通り、何も浮かんでいなかった。
「ねえマスオさん、棟梁ったらなんであんなことを言ったのかしら〜?」
ようやく口を開いたサザエの口から漏れたのはそんな言葉だった。
「サザエ、何を言って……」
「だってそこにあるのは、タラちゃんなんかじゃないでしょう〜?」
墓標に名は刻まず [sage] 2010/05/16(日) 23:48:10:OLWL8a0v
その一言を聞いて、マスオは全てを悟った。
それは、彼にとって息子を失ったことよりも残酷なことだったかもしれない。

「サザエ、よく聞くんだ」
「それにしてもタラちゃんは本当にどこに行ったのかしら? そろそろお昼の時間なのに〜」
「サザエ……」
「まったく父さんはこんな時にどこに行ってるのかしらねえ、ねえマスオさん?」

マスオは、公園の真ん中で妻を抱きしめた。
実の父の狂走、周囲で次々と起こる殺人、そしてタラオの死、それらすべてに心を引き裂かれ、ついに壊れてしまった妻を。
「ちょっとマスオさん、いきなりどうしたの?」
サザエは心底不思議そうに問う。マスオはサザエの耳元に唇を寄せて呟く。

「サザエ、約束させてくれ」
「あら〜? どうしたのあなた〜?」
「僕はこの先、何があっても君だけは守る。君だけを、だ」

いつか彼女が、自分の息子の死を受け入れて、素直に涙を流すことが出来るまで。
その機会が訪れる可能性を奪う全てのものを許しはしない。
マスオはそう決意し、そして両目を閉じると今一度だけ息子のために祈った。
墓標に名は刻まず [sage] 2010/05/16(日) 23:50:19:OLWL8a0v
【五日目 午前十時】
【町外れの公園(よくアニメに出る公園とは別)】

【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……

【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・何が何でもサザエを生き延びさせる
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上

【大工の棟梁】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・なんとか殺し合いをやめさせる方法を模索する
参加するカモさん [] 2010/05/18(火) 22:45:08:O/68EIJp
これはwww
どんどんきてるぞwww
参加するカモさん [sage] 2010/05/21(金) 01:39:42:/7pXK3W7
そろそろまとめwiki出来てもいいなw
帰るべき場所 [sage] 2010/05/23(日) 21:09:28:1J7O7Yym
タマは縁側で空を見上げていた。
普段だったら晴れた日は満たされた気持ちでここで日光浴をしているのだが、
今日は胸にぽっかりと穴が開いたような気分だった。
いつも自分を膝の上に乗せて頭を撫でてくれたタラちゃんは、もういない。
殺し合いが始まってから五日目、ついに家族から犠牲者を出してしまった。
タラちゃんは、どんな顔で、どんな気持ちで逝ったのだろうか。やはり最後まで、家族のことを考えながら死んでいったのだろうか。
タマは実の家族の温もりは知らない。だけど、磯野家の人々は今では自分にとって実の家族よりも大切な存在だと言える。

(やはり、僕には無理なのかな)

だけど、守れなかった。所詮はネコである自分には、大切な家族を守ることすら出来ないのか。

(いや、違う。体が小さくても、力が弱くても、戦う方法はあるんだ。僕には仲間だっているんだ)

タラちゃんの為にもいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。他の家族の人たちも、タラちゃんの死に動揺している。
特にサザエさんはちょっと様子がおかしかった。きっと深いショックを受けているのだろう。
もう一度みんなに笑顔になってもらうためにも、自分は自分に出来ることをしなければいけない。
そう決意したタマは、後ろ足で耳の後ろを掻くと縁側から庭へと飛び降りた。ひとまずは伊佐坂家に行き、ハチと今日の情報交換を行わなくてはいけない。
そしてタマが地上に降りるのを待っていたかのように、『それ』は屋根の上から彼に襲い掛かった。

タマの頭に激痛が走った。屋根の瓦でも落ちてきたのかと思って自分の頭の上に降ってきたものを見ると、それは瓦とは似ても似つかない奇妙な姿をしていた。
強いて言えば、カツオやワカメの部屋にある鉛筆削りに少し似ている。
一体何事かと怪訝な顔をするタマの前で、それは顔の真ん中に開いた口のような小さな穴を回転させながら声を発した。
帰るべき場所 [sage] 2010/05/23(日) 21:10:12:1J7O7Yym
「ノリスケ様の行方について、何か知っていることは無いか?」

まさか喋るとは思っていなかったタマ、驚いて尾を立て、毛を逆立てた。

「私の創造主、ノリスケ様は四日前、ここ磯野家を訪ねる目的で出かけた後消息を絶った。
何か知っていることは無いのか?」
「あ、あんたは一体誰なんだ? 一体何者なんだよ?」
「私はノリスケ様の手によってこの世に生み出されたもの。ノリスケ様に与えられた名は、グルグルダシトール」
「なっ―――」

そういえば、波平やノリスケたちがそんなものを作ろうとしているところをチラっと聞いたことがあった。
まさか完成していたとは……。
タマは頭から流れる血を目に入らないように拭いながら、やっとという感じで答える。

「さあ、申し訳ないけどわかんないや。でも、何日も連絡が無いってことは、多分もう死んでるんじゃないかな」
「……確かなんだろうな?」
「ああ、知らないのは本当だよ。殺し合いが始まって以来、僕は一回もあの人を見ていない」

グルグルダシトールは答えなかった。
「あんたにとって、大切な存在……だったんだよな。まあ、奇跡的に生きてるってこともあるかもしれんだろ」
タマはそう言った。目の前にいるのは人間でも動物でも無い「モノ」には違いなかったが、大切な人を思う気持ちは自分と代わりが無さそうに思えた。
「分かった。邪魔をして申し訳なかったな。じゃあ―――」

途端、グルグルダシトールの口がものすごい勢いで回り始めた。
そしてタマが気付いたときには、彼の右耳がねじ切れるようにして千切れた。
何をされたのかも分からなかった。ただ分かるのは耳から流れる血の感触と激しい痛みだけ。

「ノリスケ様をお守りするため……ノリスケ様以外の者は、全て亡き者にさせていただく」
帰るべき場所 [sage] 2010/05/23(日) 21:11:13:1J7O7Yym
グルグルダシトールはそう言って、再び口を回し始めた。
タマは足で地面を蹴り、爪を出して手を伸ばす。
その手がグルグルダシトールに触れるよりも先に、タマの尻尾、足、耳、目、その他体のいろんな部分が胴体から千切れて落ちる。
生きたまま八つ裂きにされるかのような痛みが体中に走り、息が止まって気を失いそうになる。
生みの親から受け継いだ血が、磯野家の庭の地面に滴り落ちる。
だが、全てを奪わせはしない。
自分の体から血は奪えても、この家で家族と共に積み重ねた時間は、自分の中にある家族の大切は記憶は、誰にも奪えはしない。


「うううう……うううあああああ!!」

その最後の泣き声が止まった時、タマの指の爪は、わずかながらもグルグルダシトールの体に傷を残していた。

(……あーあ、ここまでか。もうちょっとだけでも、みんなと一緒にいたかったなあ。
それと、お隣のハチさんにも、悪いことしちゃったなあ。約束、守れなくて……)

思い残すことはたくさんあった。だけど、

「タマ!! タマ!!」

悲鳴を聞きつけたフネが、彼の名前を呼びながら走ってくる。それを聞いただけで、タマはとても報われた気持ちになったのだった。
(ああ、この家に拾われて、本当に良かったな)
帰るべき場所 [sage] 2010/05/23(日) 21:12:52:1J7O7Yym
グルグルダシトールは、素早く縁の下に姿を消した。
ネコ相手ではなんとか勝てたものの、流石に人間とまともに戦って殺せる自信は無い。
磯野家の他の連中からは、ノリスケの情報を引き出すだけならともかく、殺すのは一苦労だろう。
だけど、やらないといけない。自分をこの世に生み出してくれた人のために。
縁の下から見ていると、この家のフネという女がタマの亡骸の側で膝をついて泣いているようだ。
あの女がノリスケの行方を知っているのだろうか。それとも、他の誰かなのか。
そして万一、すでにノリスケが死んでしまっているとしたら……決まっている。
ノリスケをそんな目に遭わせ奴に、地獄を見せてやる。
自分にとっては、彼は創造主であると同時に、唯一の「家族」なのだから。

【五日目 午後0時】
【磯野家の庭】

【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:タマ……

【グルグルダシトール】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・ノリスケの行方を捜しつつ、他の参加者を殺す

【タマ  死亡確認】
名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2010/05/24(月) 03:36:07:f/fVATHo
投下乙です

タマよ、安らかに…
でもグルグルダシトールとかおまwww
参加するカモさん [] 2010/06/04(金) 13:42:51:Za0CsKMR



タマ…(´;ω;`)ブワッ

ウーロン茶☆ヌルヌル!がここまで憎く感じたは今までにないw

次も楽しみにしてるよ
ノシ
五日目の出来事 [sage] 2010/06/06(日) 23:26:50:cNIr6xyW
「お、おまわりさん……メシ、出来ましたよ」
泥棒が手料理を盆に載せて運んでくると、診察室のベッドの布団の中で横になっていた警官は身を起こした。
「どうも、世話になるな……いたたたた」
包帯を巻いた腹を押さえて顔をしかめる警官。
「あーあー、ダメですよ無理をしては!! まだまだ絶対安静なんスからね!!」
泥棒がそう言うと、警官は少し不服そうな顔をしたものの何も言い返さなかった。
自分の状態は、改めて言われなくてもよくわかっているのだろう。
「食事はそこにおいておいてくれ。あとで食べる」
「あい、わかりやした」
泥棒は言われたとおりに、彼の傍らに盆を置いた。
「それにしても、だ。まさかこんな形でお前に世話をかけることになるとは思わなかったな」
「そいつはあっしもですよ、お巡りさん。普段なら、あっしがお巡りさんにメシをもらう立場だったのに」
「ああ、なかなか素直に吐かないお前にカツ丼を食わせたりしてな……」
警官の顔に、不器用な笑みが広がった。
「……にしても、あの爺さんはどこでどうしてるんですかねえ」
「さあなあ……」
泥棒と警官は顔を見合わせると、どちらからともなく口を噤んでうつむいた。


ロードローラーに乗って街を破壊していた裏のお爺ちゃんを止めようと、警官と泥棒の二人が
そのロードローラーの前に立ちはだかったのは昨日のことだった。
しかし、徒手空拳でロードローラーになど勝てるわけも無く、彼らは一方的に逃げ回るしかなかった。
車も電柱も家もひき潰しながら突進してくるロードローラーに対して説得を試みても、運転手は全く意に介さない。
これがあの温厚な老人と同一人物なのかと、誰もが目を疑った。
逃げ回っているうちに、最近運動不足気味だった泥棒は足が縺れてきた。そしてついに転んでしまう。
ロードローラーは一切の躊躇無く、その鍵爪の矛先を彼に向けた。
「ひっ、ひいいいいいいいい!!」
顔を引きつらせて叫ぶ泥棒の体を咄嗟に担ぎ上げたのは警官である。
警官は彼の体を背負ってロードローラーから逃げようとしたが、ほんのわずかに間に合わなかった。
五日目の出来事 [sage] 2010/06/06(日) 23:28:02:cNIr6xyW
「お、お巡りさん、拳銃持ってるんでしょう!!」
泥棒が割れんばかりの声で叫ぶ。
「拳銃であの爺さんを撃ちましょうよ!! そうすれば……」
「そんなことはできん!!」
大変な剣幕でその提案を否定する。
「この拳銃は不逞な凶悪犯から市民を守るためのもの、あのような善良な市民を撃つためのものではない!!」
「ちょ、お巡りさん何を言って……」
言い終わる前に泥棒は警官によって地面の上に投げ飛ばされた。
驚いて痛みを堪えながら顔を上げた泥棒が見たのは、老人の運転するロードローラーに跳ね飛ばされる警官の姿だった。


「その後、裏のおじいちゃんの消息は?」
「へえ、あっしらが調べてる限りではまだなんとも……」
あれほどの破壊をしながら移動しているのなら目立たないわけが無いと思うのだが、この診療所に逃げ込んでから
どういうわけか彼のその後の消息は分からなかった。
泥棒は今でも、何故あの時かれが裏のおじいちゃんを撃たなかったのかわからない。
警官としてというよりも、あの状況なら人間であれば誰だって発砲しようと思うのではないだろうか。
「なあ、お巡りさ……」
「いかがですかな、具合のほうは」
診察室の扉を開けて入ってきたのは白衣を着た男だった。
「ああ先生、どうもすいませんね」
「なに、ここにだったらいつまでいてもらっても構いませんよ」
診療所の主である医師は鷹揚に笑って言った。
「それはそうと、怪我人に無理はさせられないとして……そちらの方、どうですこれから二人麻雀でも?」
牌を取る手まねをしながら泥棒に近付く。
「ああいや、遠慮しておきます。そんな気分でも無いんで……」
気のいい医師ではあるが、やたらと人を麻雀に誘いたがるのが玉に瑕だ。
五日目の出来事 [sage] 2010/06/06(日) 23:29:19:cNIr6xyW
医師は警官と泥棒の顔を交互に見比べながら言った。
「あなたたち、この殺し合いとは関係の無い部分でどうもワケありみたいですね」
「わかりますか?」
「毎日人と接している医者は、人の内面を見抜く名人ですからね。まあ、無理に聞こうとは思いませんが」
医者はそう言い残すと、他の怪我人の様子を見るためにか、そそくさと部屋を出て行った。
少しだけ気まずい沈黙が部屋に下りる。
「……お巡りさん、メシは喰わないんスか?」
泥棒が所在無げに問いかける。
警官がそれに答えようと口を開きかけた時―――

町中のスピーカーが、一斉に耳障りで不安定な電子音を響かせ始めた。

童謡のメロディーが成り終わると、それに続けて聞こえてきたのは磯野波平の声だった。

『皆様、どうもお疲れ様です。磯野波平です。
殺し合いが始まってから五日目、皆さんの調子はどんな感じでしょうかね?
さて、私は五日置きに、それまでの五日間で無くなった方の名前を皆さんに発表することにしたいと思います。
今回はその第一回目というわけです。ちなみに、この期間に亡くなった方全員の名前を発表するのは大変なので、
発表するのは私が最初に集めた方の中で亡くなった方だけにしたいと思います。
えー、それでは今から読み上げますのでー……

波野ノリスケ
カオリ
フグ田タラオ
リカママ
橋本
タマ

以上じゃ。まったくみんなこんなに早く死ぬとはけしからん。
まあよかろう。他の皆さんも、一人を除いて三年以内に全員死んでもらうことになりますからの。
それでは皆さん、また五日後にお会いしましょう』
五日目の出来事 [sage] 2010/06/06(日) 23:31:11:cNIr6xyW

波平の放送は、それだけで終わった。
「やっぱり……本当に、人が死んでるんスね」
長い長い沈黙の後、やっとのことで泥棒が言えたのはそんな言葉だった。
警官は答えなかった。
泥棒が恐る恐る顔を覗くと、そこにあったのは悲嘆に暮れる顔でも怒りに燃える顔でも無かった。
「おい。医者によると、本官が無理せずに歩けるようになるにはあと丸二日はかかるという話だったな」
「え、ええ、確かにそうおっしゃってました。でも完治するにはまだ……」
「いや、完治を待つ必要は無い。二日だけ休んだら、すぐに動く。市民を守るためにな」
泥棒にはやはり分からなかった。そんな満身創痍な姿で、なぜまだ動こうとするのか。
なぜ自分を顧みずに、自分を傷つけようとした人まで守ろうとするのか。
「お巡りさん……なんでそんなに頑張んなきゃいけないんですか? いくら職務だって言っても……」
「決まっているだろうが」
警官は振り向いて言った。
「この街を愛しているからだ」


【五日目 午後1時】
【麻雀医師の病院】

【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:拳銃、警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1:今は休養に専念する
五日目の出来事 [sage] 2010/06/06(日) 23:32:48:cNIr6xyW
【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官に従う

【麻雀医師】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・麻雀をする
参加するカモさん [] 2010/06/09(水) 00:21:01:XmbFz94K
投下乙です

この警官は熱いなw
そして放送キターw
マジレスさん [] 2010/06/10(木) 13:45:29:RkU2NEIx



警官かっこよすぎて惚れたwwwwwwww
参加するカモさん [sage] 2010/06/26(土) 17:21:39:o+CZAj4b
保守
春風の忘れ物 [sage] 2010/06/28(月) 17:11:47:YnAGoNzX
「お食事をお持ちしました」
凛とした少女の声が薄暗い部屋の中に響く。
それを聞いても老人は微動だにしなかった。
老人の両手両足は、それぞれ一本の紐で部屋の隅にある柱に結び付けられている。
体力の衰えた老人とはいえ、用心のためだろう。
現にこの男は、すでに多くの家屋を破壊しているのである。
だが老人の顔には深い皺ばかりが刻まれているだけで、凶行に走った男とは思えない穏やかさを湛えている。
ただ一つ、その双眸にだけ不気味な光を宿していた。
「お食事はいりませんか?」
少女の言葉に、老人は答えようとしない。その目は少女でも、その背後にいる壮年の男でもなく、ただ虚空だけを見つめていた。

「……そろそろ私たちのお話を聞く気になりましたかね、裏のおじいちゃん」

壮年の男が老人に向かって口を開いた。老人はようやく重々しく首を上げた。
「こっちとしても、おじいちゃんをいつまでもこんな扱いの下においておくのは忍び無いんですよ」
だが、老人の口から漏れたのは男の言葉への返答では無かった。
「こんなことをしていても、何にもなりませんのじゃ……」
かつて裏のおじいちゃんと呼ばれていた男は、かつて花沢不動産の社長であった男に向かって、昔話を語るような口調で言った。
「あんたさんや、そこのお譲ちゃんを初めとしてここに集まっている人たちが何を考えているのかはお見通しじゃ。
しかし、そんなことをしたって何にもなりはしませんのじゃ。もう何をしたって無駄ですのじゃ」
「……あれだけのことをしておいて、随分と落ち着いておられるんですねえ」
花沢花之丞は軽蔑の混じった声で答える。
春風の忘れ物 [sage] 2010/06/28(月) 17:13:37:YnAGoNzX
「ふふふ、ワシがロードローラーで走り回ったのは、正気を失ってのことだとお思いでしたかな?
それは大きな間違いですじゃ。ワシはただ、絶望をしていただけですのじゃ」
「絶望を?」
花沢はいぶかしむような声を上げた。
「左様、絶望ですじゃ。ワシに今、この町の中で見えるのは絶望だけですのじゃ。ほっほっほ……」


今日はこれ以上話しても埒が明かないと考えた花之丞は、食事だけを置いて裏のおじいちゃんを監禁している部屋から退出した。
「あれは一筋縄では行きそうに無いなあ」
思わぬ「抵抗」に合い続けていることに、いい加減に辟易してきた花之丞に少女が尋ねる。
「それにしても、要するに絶望してロードローラーで暴走したってことは、結局狂気に捕らわれたのと同じじゃないですか?」
「いや、違うんだろうよ。あのお爺ちゃんにとってはな」
「イマイチ意味がわかりませんけど……」
「俺にはわかる気がするよ。でもまあ、説明するのも骨だ。キミにもいずれわかる。それよりだ……」
この話題はここまでとばかりに、花之丞は露骨に話題を変える。
「お爺ちゃんがあそこまで使えないとなると、こりゃあ思ったより骨だぞ」

暴走の末に、ロードローラーが動かなくなって立ち往生していた裏のお爺ちゃんを拘束できた時には、花之丞は自分を幸運だと思った。
殺し合いが始まってから五日目になるが、これほど目立つ行動を取った者は他にはいない。
当然他の参加者からは、最優先撃破対象として狙われるはずだ。
逆に言えば、裏のお爺ちゃんを自陣営に引き込んでしまえば他の参加者に対してこれ以上無い抑止力となる。
そして裏のお爺ちゃんにとっても、他の参加者たちから狙われる立場になった以上、花沢陣営に匿われることはプラスになるはずだった。
しかし、実際にはお爺ちゃんとは今に至るまでまともな交渉すら出来ていない。お爺ちゃんの心中すら正確にはわからない状態だ。
もはや、早急に何か他の手を打たないといけない。
春風の忘れ物 [sage] 2010/06/28(月) 17:16:06:YnAGoNzX
「かくなる上は、だ……やっぱり君に動いてもらうしかなさそうだ」
花之丞は、傍らに立つ少女に重々しい口調で告げた。
「かまいませんよ。正直どうしてこんな格好をしないといけないのか未だにわからないけれど、今はあなたのことを信用します。
『僕』はただ、磯野を生き残らせることさえ出来ればそれでいいですから」

少女――中島は、けだるそうにウィッグの髪をかきあげた。
波平による第一回放送が流れたのは、その直後のことだった。


【五日目 午後1時】
【花沢不動産】

【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・???

【裏のおじいちゃん】
状態:拘束 健康
装備:支給品一式
武装:ロードローラー
思考:???

【中島】
状態:健康 女装
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:基本・カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
1:花沢花之丞に従う
参加するカモさん [sage] 2010/07/02(金) 15:08:14:RLz83Tjt
久々の投下乙

中島女装www
何を考えているんだ花沢父……
僕たちのこと、忘れないように [sage] 2010/07/02(金) 19:41:29:nC+qr6NA
一人の男が、日の光が天頂から照りつける時刻に道の真ん中を歩いていた。
殺し合いももう五日目。ここに到ってもまだ自分たちの置かれている状況を把握していない者などいない。
その男も、他の参加者よりは時間はかかったが、何が起きているのかは何とか理解した。
だが、理解は出来ても納得は出来ない。
彼にとってこの殺し合いは、他の参加者たちにとってよりも何倍も信じられないものだった。
(……全く、気の滅入るものですね。自分たちの書いていたキャラクターに、殺し合いを強要されるとは)
男は心の中でそうつぶやくと、深いため息をついた。
それにしても、と思う。波平と直接の知り合いであるキャラクターならともかく、なんで自分まで殺し合いに参加させられたのかと。
あるいは、復讐のためなのだろうか。自分は確かに、波平たちを弄びすぎた。
恨みを買うには十分なのかもしれない。
しかし、自分にとっては所詮アニメの世界の住人に過ぎないキャラクターに殺されるというのは、どうにも実感が沸かなかった。

と、そんな男の耳に子供の悲鳴が聞こえた。それも一人のものではない。
悲鳴のしたほうに駆けつけると、二人の少年が逃げ回っていた。足元には血が滴り落ちている。
それを追っているのは……なんということだろうか。
彼女のことはよく知っている。世界で一番知っている人間の一人だと言ったっていいだろう。
だけど、なぜその彼女が刃物なんかを手にして、子供を襲っているのか。

「……やめろ!!」
僕たちのこと、忘れないように [sage] 2010/07/02(金) 19:42:24:nC+qr6NA
そう叫ぶと刃物を持った少女は動きを止めた。流石に大人の男が相手では分が悪いと踏んだのか、踵を返して逃げていく。
その後を追おうとして、やめた。彼女を捕まえたところで、何を言えばいいのか分からなかったからだ。
それよりも優先すべきなのは、怪我をしている少年の手当てだろう。
「君たち、大丈夫か? 傷口を見せてみなさい」
最初は男を警戒していた少年たちも、おずおずと彼の言に従った。

怪我をしていたのは二人の少年のうちの片方だけだった。
しかしその背中の傷はかなり深く、今まで走れたことが不思議な程だった。
おそらく、もはや助からない。
本来なら病院で適切な応急手当を受けさせれば一命は取り留めるかもしれないが、今この、街ではそんなもの望むべくも無い。
「痛いよ……痛い……」
少年はただうわごとのように繰り返すが、その声はどんどん小さくなっていった。
「おい、しっかりしろよ!! おい!!」
もう一人の少年が懸命に叫ぶ。だが、怪我をした少年はそれに答えることも出来ず、弱々しく瞼を開閉するばかりだった。

どうしてこんなことになってしまったのか。
この街は、世界で一番笑顔に溢れた場所のはずでは無かったのか。
「キミ、しっかりするんだ!!」
そう呼びかけるが、彼は目の前の少年の顔は知っていても名前は知らない。
彼には名前など無い。もう一人の少年にも名前は無い。
彼らは、外見だけが設定されているが名前の設定は無い登場人物だからだ。
この番組の中では、カツオとワカメのクラスメートについては中島やホリカワなど一部のキャラクターを除いては、
顔だけは決められていても名前は設定されていない。
だから、彼には少年の名前を呼ぶことは出来ない。

ただ彼に出来るのは、自分たちが作り上げてきた、長年積み上げてきた幸福な世界が、目の前で崩れ去るのを黙って見ていることだけだった。
僕たちのこと、忘れないように [sage] 2010/07/02(金) 19:43:42:nC+qr6NA
気がついたら、彼は上下左右も分からぬ暗闇の中にいた。
突然のことに立ちすくむ彼の前に現れたのは、和服姿の一人の男。
その姿には見覚えがあった。
「磯野、藻屑……」
「左様。流石は長い付き合いだな」
幕末の武士は、波平と同じ顔と声で、雪室をからかうように言う。
「此度は迷惑をかけてすまなかったな。そなたを巻き込んでしまったのは完全な手違いじゃ。
今すぐに元の世界に返してやるが、その前にちゃんと説明して直接侘びを入れたかったのでな」
藻屑のその言葉が終わらないうちに、彼は口を開いた。
「一体これは何の真似なんだ? 君たちの目的は一体何なんだ!! こんなことをして一体何になるんだ!!」
「……それをそなたが知る必要は無い」
藻屑の姿が徐々に薄くなっていく。
「次にそなたが目を覚ましたら、そのたの元いた世界に戻っているであろう。そして、こちら側で見聞きしたことは忘れるがよい」
徐々に遠ざかっていくその声に追いすがるように、彼は叫び続けた。

「待ってくれ、私はまだこっちの世界でやらないといけないことがあるんだ!!
みんなを笑顔にしないといけないんだ!! 私は……」


【五日目 午後1時】
【時空の狭間】

【雪室先生  生還】

【磯野藻屑】
状態:健康
思考:
1・波平をサポートする
※主催側の人物です
僕たちのこと、忘れないように [sage] 2010/07/02(金) 19:44:52:nC+qr6NA
公園の蛇口で血の付いた刃物を洗いながら、少女――磯野ワカメは苦々しく顔を歪めていた。
桜井マホの死体を埋めているところを見られただけでも失態だったが、その目撃者の二人を始末し損ねたことは痛恨の極みと言っていい。
とどめに、目撃者を襲っているところを見知らぬ男にまで見られてしまった。
顔をはっきり見られた以上、このままでは窮地に追い込まれてしまう。
一刻も早くあの二人と男を始末したいが、ノリスケの時のような奇襲でもなければ大の大人には敵うまい。

――ワカメは、途方に暮れて青空を仰ぎ見た。


【五日目 午後1時】
【磯野家近辺の路上】



【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する


少年は呆然と立ち尽くしていた。
何しろ、さっきまで目の前にいた男が忽然と「消えて」しまったのだ。
そのために、彼は自分の背後にそっと忍びよる影に気付かなかった。

一撃で背中から肺を刺された少年は、そのまま倒れこむ。
襲撃者は、その首に二撃目を加えた。
完全に息が無くなったのを確信すると、地面に倒れているもう一人の少年の首も念のために切りつけた。
こうして名も無き少年たちは、自分たちを殺した者の顔すら分からぬまま、ひっそりと退場した。
僕たちのこと、忘れないように [sage] 2010/07/02(金) 19:46:10:nC+qr6NA
そして、少年――ホリカワは、がっくりと地面に膝をついた。
人を、殺した。それも二人も。
それは年端も行かない少年にとってはあまりにも耐え難い出来事だ。
脚は震え、目からは涙が溢れだして止まらない。
だけど、やらないといけない。

ホリカワは、偶然にもワカメがマホの死体を埋める現場を見てしまった。
そして、ワカメが少年二人を刃物で襲う所も……
ワカメの殺人を知っている人間は、口封じのために殺さなければいけない。ワカメにそれが出来ないなら、自分が代わりにするだけだ。
自分はワカメを守らなければいけないのだから。
自分だけが、ワカメを守ることが出来るのだから。

「ワカメちゃん……何も心配いらない。僕が全部うまくやる……」

震えて上擦った声で、自分に言い聞かせるように少年は呟いた。
第一回放送の始まる、ほんの数分前の出来事だった。


【五日目 午後1時】
【磯野家近辺の路上】

【ホリカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー
思考:
1・ワカメを守る
なまえないよぉ〜 [sage] 2010/07/03(土) 11:19:14:7mtQmdUC
投下が来てるううう

乙、
参加するカモさん [sage] 2010/07/05(月) 23:00:45:g0Pqp0Du
投下乙!
開始早々生還者がwwwwwwwww
クソワロタ
あなたが、いない [sage] 2010/07/07(水) 19:02:03:RG+efYyn
放送が終わった後も、俺は呆然としたままだった。
覚悟していたこととは言え、知っていた名前が何人も呼ばれてしまった。
しかしせめてもの救いは、まだマスオくんの名前が呼ばれていないことだ。
もっとも、最愛の息子を亡くして、意気消沈しているには違いないが……

俺は寝床にしている小学校の宿直室の畳の上に寝転がっている。
街境が封鎖され、家に帰れなくなった俺を匿ってくれたここの用務員さんは、二日前から帰ってこなくなった。
ここには用務員さんが買い溜めたカップ麺やら何やらが沢山あったしトイレとシャワー室もあったので、
この五日間というものほとんど一歩も外に出ることも無く生き延びられた。
しかし、外では殺し合いとやらが想像以上に進行しているようだ。
食料もいい加減底を尽きかけている。そろそろ俺もこの宿直室を出ていかないといけないだろう。
出張った腹をさすりながら寝返りを打ち、俺は考えた。
正直言って、俺はそこまで生き残りたいとは思えない。
こんな妙なことが起きなければ、どうせ俺は毎日毎日満員電車で会社に通い、クタクタになるまで働き、
そして家では女房の尻に敷かれるだけの生活だったのだ。
単調で平凡で、そして何の楽しみも無いそんな人生などいつ打ち切られたって文句は無い。
俺をこの世に繋ぎとめているのは、ある二人の人間への未練だ。
一人は俺の妻。そしてもう一人は親友。
このままあっさりとやられるのも癪だし、この際どうせならあいつらが生き残れる可能性を少しでも上げてやるのもいいかもしれない。
それはつまり、他の参加者を殺すということなのだが、不思議と殺人を決意すること自体に抵抗はあまり無かった。
今まで会社や家庭で感じていた鬱憤を晴らすいい機会だと思ったから、かもしれない。
あなたが、いない [sage] 2010/07/07(水) 19:02:46:RG+efYyn
さて、だとするとどちらを助けようか? 最終的に生き残れるのは一人だけなのだ。
男ならば自分の妻を選ぶのが当然かもしれない。
しかし、俺の脳裏に去来するのはマスオくんとの楽しかった思い出ばかりだった。
一緒に麻雀を打ったこと。一緒に飲みにいったこと。
彼の悩みや愚痴を聞いたこと。彼に悩みや愚痴を聞いてもらったこと。
その一方で妻が俺にしたことと言えば、数え切れないほどの暴力や贅沢な要求くらい……

結局、俺が決意を固めるまでには一時間も必要なかった。
マスオくんを優勝させるために、他の奴らは全員殺す。
マスオくんの家族も――妻も。

【五日目 午後2時】
【かもめ第三小学校の宿直室】

【アナゴ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・マスオ以外の参加者を皆殺しにする
あなたが、いない [sage] 2010/07/07(水) 19:04:31:RG+efYyn
あの人がいない。
あの人が私の所に帰ってこない。
どうして帰ってこないんだろう。
ああそうか、波平さんがこの街から出るのを禁止しちゃったから、家に帰れないんだっけ。
帰る家が無かったらそれは困るよね。
だから私は、適当に一軒の家に押し入って、そこの家族を全員殺してその家を私とあの人の家にした。

それでもあの人は帰ってこない。
私の所に帰ってこない。
この家が新しい家だってわからないんだろうか。
ううんそんなはずは無い、あの人は私がいる所ならどこだってわかるんだもん。
ああそうか、私がもっと綺麗なお洋服を着ればきっと私に会いに帰ってきてくれる。
だから私は服屋に押し入って、そこの店員を全員殺して綺麗な服を手に入れた。

それでもあの人は帰ってこない。
おいしいご飯を作ればきっと帰ってきてくれる。
だから私は肉屋の主人を殺して上等の肉を手に入れた。

それでもあの人は帰ってこない。
あの人が私の隣にいない。
いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、
いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、
いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、いない、

ひょっとして……誰かに殺されちゃったの?
だとしたらそいつを私は許さない。
死ぬよりも辛い目に合わせてやる。
あなたが、いない [sage] 2010/07/07(水) 19:05:53:RG+efYyn
その時波平さんの放送がかかった。
死んだ人の名前の中に、あの人の名前は無かった。
よかった。あの人はまだ生きてる。
だけど、このままじゃ誰かに殺されちゃうかもしれない。
そんなの許さない。
誰かがあの人を殺す前に、私が他の人をみんな殺してやる。
だってそうしないと、あの人は私の隣に帰ってこない。
こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、
こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、
こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、
こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、
こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、こない、

だから私は家を出て、家の前を歩いていた男の人を殺した。


【五日目 午後2時】
【公園の近く】

【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
1・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする

【肉屋の主人  死亡確認】(名簿外)
【魚屋の主人  死亡確認】(名簿外)
参加するカモさん [sage] 2010/07/14(水) 12:33:42:x5LKTCpA
投下乙です

いやあ、よく来るわw
そしてアナゴさんwww
参加するカモさん [sage] 2010/07/26(月) 00:03:47:sju6rEs2
投下待つ間に、今後に期待するキャラについてでも話そうぜ

とりあえず個人的には
1・ワカメ
2・警官
3・マスオ
参加するカモさん [sage] 2010/08/01(日) 19:07:50:3aGS1azu
カツオは純粋対主催だから気にしてるぞ
可愛い奥様 [] 2010/08/12(木) 13:42:08:y2Gn9XG7
あげ
参加するカモさん [] 2010/08/16(月) 23:29:03:ex+mzGbi



登場キャラが結構増えてきたな
てか、アナゴの奥さん恐すぎw
まだ見ちゃいけない [sage] 2010/09/04(土) 18:37:12:0G4tFjE6
磯野波平を主催者とする「殺し合い」が開催されている街の周囲は、日本中から召集された警官隊によって完全に包囲されている。
二重三重のバリケードが張られているだけではなく一定の間隔をもって警官が常時経っているため、人間はもちろん犬や猫でも街の外に出るのは不可能だ。
そしてレーザーを搭載した静止衛星が街のを上空から監視しているため、空中からの脱出も不可能である。
そしてもちろん、街の外から中に入ることも絶対に不可能。
街境に住んでいる住人は強制的に移住させられ、一帯は「高濃度の有害物質が検出された」という名目で一般人は立ち入り禁止になっている。

立ち入り禁止を知らせる看板の前で、一人の老人が深々とため息を付いていた。
旅行の途中なのか、両手には重い荷物を持ち、やや古そうなスーツを着ている。
老人は看板を忌々しそうな顔で睨んでいたが、やがて諦めたようにとぼとぼと歩き出した。

「磯野さん!!」

かすかに聞き覚えのある声を聞いて振り向くと、そこにいたのは着物姿でそれなりに恰幅のいい初老の女性だった。
さて、誰だったかと思い出そうとしていると先のその女性のほうが関西弁訛りで喋り始めた。
「ご無沙汰しております。どこからも立ち入り禁止だなんていうものだから途方に暮れてしまって……
突然マスオとも磯野さんたちともちっとも連絡がとれなくなって、もう直接たずねてみるしかないと思って来てみたんですけど、
磯野さんたちもやっぱり立ち退きするハメになったんですか?」
そこまで聞いて、老人はようやく話が見えた。
「ああすみません、失礼ながら私は磯野波平では無く、双子の兄の海平といいまして……」
まだ見ちゃいけない [sage] 2010/09/04(土) 18:38:04:0G4tFjE6
海平とマスオの母親は近くの喫茶店に入って話をした。
と言っても、二人の知りえていた情報にはたいした差は無く、二人の曇った気分を晴らす役には立たなかった。
突然連絡が取れなくなった磯野家の面々。心配になって訪れようとしたら、彼らの住んでいた町は全面立ち入り禁止。
現場にいた警官や役所に住人の行方を聞いても要領を得ないし(教えてくれないというよりは、まるで彼らも知らないかのような印象を受けた)、
一つの街を封鎖するような自体でありながら、新聞やテレビで一向に報道されていないことも不可思議だ。
「仕方が無いので私、昨日は『ネットカフェ』だとかいうところに行って、インターネットのニュースサイトを調べてみたんですよ。
あ、こう見えましてもパソコンはそれなりに使えまして」
マスオの母は流石は関西人らしく口数が多かったが、表情と口調からマスオたちのことをとにかく心配していることがわかった。
「だけど収穫はゼロでした。ニュースサイト以外でいくつかこの街のことに触れているところもあったんですけど、突拍子も無い話ばかりで……
隕石が落下しただの、放射能漏れ事故が起こっただので政府が情報を隠蔽しているだとか」
「まさか!! あの街には原発なんかありませんよ」
「ええ、まあインターネットで得られる情報なんていい加減なものばかりですからね。だけど、少し気になるような話もいくつかあったんです」
そこでマスオの母は一旦言葉を切った。こんなことを話していいのかどうか気にしているのだろう。
「と、言いますと?」
海平が促すと、ためらいがちに話し始めた。
「例えば、このあたりで大臣だとか、偉い政治家の姿を何人も見ただとか」
「まさか、そんなことは」
「携帯で取られた写真が『証拠』としてアップされていたんですよ。すぐに削除されてしまいましたけど」
海平は腕組みをしてうなった。『アップ』だとか『削除』だとかいう言葉の意味は正確にはわからなかったが、なんとなく内容は理解できた。
それが本当なら、確かに政府による隠蔽を疑ってもいいような話だ。
まだ見ちゃいけない [sage] 2010/09/04(土) 18:39:49:0G4tFjE6
「それに、あの、最近はなんとかアースとかいうやつで、人工衛星が撮った写真で上空からの街の様子が見れるやつがあるじゃないですか?」
「ええ、私もちょっと新聞で読んだことはありますが」
「あれでも、マスオたちのいる町の写真は現在見れないようになっているんです。だけど、その、これはあくまで噂なんですけど……
その写真をどうにかして見たっていう人の話だと、……人が死んでいたそうなんです。それも何人も」
海平は息を呑んだ。
そんな噂を信用するのは愚かなことだが、もし、万が一、それが何らかの事実をわずかでも含んでいるとしたら……
「磯野さん……」
マスオの母は言った。
「私はまだしばらくこの辺りに滞在して、マスオたちの行方の手がかりを探して見ます。
あの子たちの元気な顔を見るまでは帰りません」
「……私も、もとよりそのつもりでいました。せめて無事でいることを確かめなければ」


彼らが、街の中では本当に殺し合いが行われていて、その主催者が海平の弟である波平で、マスオは家族を守るために殺し合いに積極的に加担している、
という事実を知るのはもう少しあとのことだ。
そしてそのことは、彼らの間にちょっとした悲劇を生むことになる。
しかしこの時の彼らには、そんなことを知る由も無かった。
まだ見ちゃいけない [sage] 2010/09/04(土) 18:41:58:0G4tFjE6
【五日目 午後3時】
【会場外】

【磯野海平】
状態:健康
装備:なし
武装:なし
思考:
1・波平たちの行方を捜す
※殺し合いに参加していません

【マスオの母】
状態:健康
装備:なし
武装:なし
思考:
1・波平たちの行方を捜す
※殺し合いに参加していません

参加するカモさん [sage] 2010/09/14(火) 06:57:52:nfSS1Rj+



まさか海平さんが登場するとは思っても見なかったw
参加するカモさん [] 2010/10/03(日) 04:34:59:phJasR2x
続きキボンヌ
参加するカモさん [] 2010/10/04(月) 00:35:05:B/VsVuRw
きぼん
参加するカモさん [] 2010/10/20(水) 09:51:39:2wAl37hK
ほしゅ
ボクが手に入れたもの [sage] 2010/10/29(金) 15:00:54:sRac3xuD
あれから何日が経ったのだろう。まるで覚えていない。
人との繋がりを失ってしまった自分には、ヒトの世界で生きていくのに必要な知識も、ヒトのぬくもりさえも忘れてしまった。
たった一人の友人を失い、一体何が自分に残ったというんだろう。
全てを捨てて無に還りたくても、機械の体では死ぬこともできない。

(タラチャン……タラチャン……)

誰一人立ち寄ることもなくなった公園で、全自動卵割り機はただ一人幸せな夢を見続けていた。
タラちゃんが死んだという事実から目をそらし、ずっとこのままここでこうしていれたらどれだけいいだろう。
あるいはいっそうのこと、誰でもいいからこんな自分を殺してはくれないだろうか。


呆然と虚無の中で幻影だけを見つめていた全自動卵割り器の耳に、遠くから人の足音が聞こえてきた。
ここに誰かがやってくるのは、タラちゃんの亡骸を引き取っていったサザエさんたちが帰って以来。
果たして殺し合いに参加している誰かだろうか。だったら自分を一思いに殺して欲しい。
あるいはただ気まぐれにここに立ち寄っただけの人間だろうか。
そんなことを考えていた全自動卵割り機の耳に届いたのは聞きなれた声だった。
「君は……磯野さんの家にあった機械じゃないか?」
ボクが手に入れたもの [sage] 2010/10/29(金) 15:02:03:sRac3xuD
それは磯野家の隣に住む伊佐坂家の長男、甚六だった。
「こんなところで何をしているんだい?」
優しい声でそう問いかける。
「……何も……」
もう自分にとっては何もかも終わったんだ。ここにはもうタラちゃんはいない。だからもう生きている意味などない。
なのに、どうして、ただ声をかけられたというだけでこんなに胸が詰まるんだろうか。
「もう、僕には、何も……」
なんでこんなにどうしようもなく、泣きたい気分になってくるんだろうか。
ただこの人が、タラちゃんと同じく、自分のことを道具ではなくて一人の人間と同じように扱ってくれた、それだけのことで。


「そうか……それは辛い思いをしたね」
全自動卵割り機の話を聞いた甚六はまるで自分のことのように悲しんでくれた。
「俺の家は幸いみんなまだ無事だけど、そうだよなあ、もう何人もの人が亡くなってるんだよなあ……」
「甚六さんは、なんでこんな時に外出なんか?」
「俺はハチを探しにきたんだよ。昨日から帰ってこなくてさあ……それより君、ひどい怪我じゃないか。ちょっと待ってな」
甚六はそう言うとポケットからハンカチを出し、全自動卵割り機のボディを拭きはじめた。
「え……」
全自動卵割り機が戸惑っているうちに、甚六は彼のボディについた泥や汚れを綺麗に拭き取った。
「壊れている部分は直さないとしょうがないな……よし、うちに来るといいよ」
甚六は全自動卵割り機を抱きかかえた。

「……おい? 何を泣いてるんだ?」

全自動卵割り機は返事も出来ずにしゃくりあげ続けた。
甚六の手の暖かさ、抱きかかえられた腕の柔らかさに。
そういうものに、自分はもう、一生関わることなどあるまいと思っていたから。
だから人の温かさなど、もうとっくに忘れてしまったと思っていた。それは少し手を伸ばすだけで手に入れられるものなのだと、気付くことすらも出来ないままに。
ボクが手に入れたもの [sage] 2010/10/29(金) 15:04:15:sRac3xuD
初めて自分の友達になってくれたタラちゃんはもういない。
でも、タラちゃんが教えてくれたことは、残してくれたものは、確かにここにあった。
(タラチャン……ボクは……ボクは……)

生きていく。
たとえ生まれて初めて出来た友達はもうこの世にいなくても、この温もりをもう一度手に入れるために、自分にこの温もりをくれた人を守るために、もう一度生きていく。
もう一度、今度こそ、友達を守るために―――

「なんだ、この嫌な気配は?」
最初にそう口にしたのは甚六だったが、全自動卵割り機ももちろんそれには気付いていた。
それはまるでその場にいる者を全て空気ごと凍りつかせるかのような、圧倒的な負の存在感だった。
そして二人は間もなく、目の前にその気配を発している張本人を発見した。


「あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
―――――」
ボクが手に入れたもの [sage] 2010/10/29(金) 15:05:29:sRac3xuD
そこにはいないはずの誰かに絶え間なく呼びかけながら、震える手で鉈を握り締めている一人の女。
その鉈に、手に、顔に、服に、夥しいと形容するしかない量の血がついている。
そしてその女はその眼球に二人の姿を捉えると、全くの躊躇も無く血の滴り落ちる鉈を振りかざして無言のまま駆け寄ってきた。
「う、う、うわあああああああああああ!!」
甚六は子供のような悲鳴を上げ、そして彼女に向かって全自動卵割り機を投げつけた。
(え?―――)
呆然としたのは一瞬、甚六の狙いは外れ、全自動卵割り機の体は地面に叩きつけられた。
アナゴの妻はそれを邪魔そうに蹴り飛ばすと、逃げていった甚六の背中を凄惨な笑顔で追いかけていった。

(そ、んな――どうし、て――)

右腕が折れ、頭も凹んだ全自動卵割り機の脳裏に浮かぶのは、ただその言葉のみだった。


【五日目 午後4時】
【町の北部の路上】
ボクが手に入れたもの [sage] 2010/10/29(金) 15:06:46:sRac3xuD
【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
基本・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする
1・甚六を殺す

【甚六】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:なし
思考:
基本・アナゴ婦人から逃げる

【全自動卵割り機】
状態:破損(命に別状なし)
装備:なし(支給品焼失)
武装:なし
思考:
1・………
参加するカモさん [] 2010/10/31(日) 02:09:01:yHqRMrh9



全自動卵割り機カワイソス;;
てかアナゴ婦人恐すぎw
参加するカモさん [sage] 2010/10/31(日) 16:17:59:pSW8awGi
投下乙!

アナゴ婦人www
君の知らない物語 [sage] 2010/11/05(金) 18:58:30:RI09/YXb
昨夜もハヤカワとともに夜を過ごした。
ハヤカワは家に閉じこもったまま外出しようとしない。クラスメートや他の教師たちは彼女はもう死んだものとして扱っている。ハヤカワの両親の姿はまだ見ていない。今頃半狂乱で娘の行方を捜しているのだろうか。
ベッドの中でシーツに包まって眠る、一人の女子生徒の顔を見る。まだ女と呼ぶには幼すぎるが、ただの生徒と呼ぶことはもう出来ない。
いつお互いのどちらかが死んでもおかしくないという状況の中で、先生とハヤカワは一分一秒を惜しむかのようにお互いのために生きていた。
先生は安らかに眠るハヤカワの顔を見つめてため息を漏らす。
もう、これを教師としての堕落だなどと思うのはやめよう。私は彼女を確かに愛している。
それを偽るのはおそらく間違ったことだ。
そう繰り返し心の中でつぶやきながら、先生は自分のクラスの出席簿を広げる。
そこに記された生徒の名前の多くには斜線が引かれていた。すでに命を落としたことが確実視される生徒である。
まだ死亡は確認されていないが、行方の知れない生徒も多い。特に先生にとって気がかりだったのは、クラス一番の仲良しグループの生徒が揃って姿をくらましていることだった。
磯野カツオ、花沢花子、中島ひろし、西原。ハヤカワと特に親しい友人たちでもある。
みんな小学生ながら一筋縄ではいかない連中ばかりで、特に磯野や花沢などはそう簡単に命を落とすとも思えなかったが、ここ数日の一向に好転しない状況を見るからにいつまでそんなことを言っていられるかわからなかった。
先生はため息とともに出席簿を置く。いつまでも考えていたって何にもならない。幸い今日は休校日。今からでも生徒たちを探しに行こう。
立ち上がった先生の背後から声がかかる。
「先生……どこに、いくんですか?」
先生は彼女を振り向く。が、正直に答える気には何故かなれなかった。
「少し買い物に行ってくる。なに、すぐに戻るさ」
君の知らない物語 [sage] 2010/11/05(金) 18:59:24:RI09/YXb
この狭い街で、くまなく探して一人もみつからないということはあるまい。
そう思って外に出た先生だったが、その見通しはわずか数十分ほどで的中した。
道の先に、見覚えのある服装をした、見覚えのある髪型をした少年がいた。
「橋本!!」
その少年の名前を呼び、すぐさま走り寄ろうとする。
しかし、突如思い出したある事実が先生の足を止めた。
橋本は確か、すでに死んだのでは無かったか?
戸惑う先生の目の前でゆっくり振り向いたのは、はやり橋本の服を着て、橋本と同じ髪型をした―――西原だった。

「西原……か? 無事だったのか?」
「ああ、誰かと思えば先生じゃないですか。脅かさないでくださいよー」
西原は普段の彼にしては幾分軽薄な口調で―――まるで、橋本のような口調で言った。
「西原、その……その格好は一体……」
「やだなあ、何をおっしゃってるんですか先生? 俺は西原じゃなくて、橋本ですよ?」
それは先生にとっては、「実は俺、人を殺したんです」というセリフと同じくらい背筋の凍るものに思えた。
「西原……何を、言ってる?」
「先生こそ何を言ってんですか? 俺は橋本ですよ。西原は―――俺が間違えて、殺しちゃったんです。だから俺はあいつの分まで頑張らないと」
そう言って西原は、橋本のものである服を着て、橋本に似せた髪型の下にある顔の表情を、橋本にそっくりな笑顔に変えた。
類推するには十分だった。自分の二人の生徒の間に何があったのかを。
一人は命を落とし、もう一人は誤って親友を殺してしまった。そして……
「先生、もう行きますね。俺は先生は出来ればまだ殺したくないんで……出来るだけ俺の前に現れないでください。それじゃあ」
そして彼は踵を返して去っていった。
先生は呆然とその背中を見送るしかなかった。何も言うことはできない。自分にはもはや、何も言う資格はない。
一人の生徒の心があそこまで壊れていくのを止めることもできず、ベッドの中で別の生徒と抱き合って過ごしていた自分には……


先生は自身の教育者としての敗北を知った。
救えなかった。命を失った生徒も、殺し合いの中で心を奪われた生徒も。
君の知らない物語 [sage] 2010/11/05(金) 19:01:10:RI09/YXb
【6日目 午前9時】
【先生の家の前】
【西原】
状態:健康
装備:支給品一式、橋本の服
武装:小型爆弾×4
思考:基本・カツオ、中島を生き残らせるために他の参加者を殺す
※錯乱の末、自分のことを橋本だと思い込んでいます


【先生】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ハヤカワを守る
1・愕然


【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・先生とずっと一緒にいる
神様仏様名無し様 [sage] 2010/11/13(土) 00:56:15:RdI9scU9
新作乙
先生……頑張れ。
花沢家の遠大な計画 [sage] 2010/11/19(金) 18:05:37:/qI81Nnx
ひとまず現在何よりも最も必要なものは戦える人間である、と花沢花之丞はコーヒーを飲みながら結論付けた。
現在の自陣営の中で、まがりなりにも体力があってまともに他の殺人者とやりあえるのは自分くらいだろう。
頼みの綱の裏のおじいちゃんはあの様子、中島は使い方によってあのおじいちゃんよりもよほど役に立ちそうだが正面きっての戦闘には向かず、
花子も他の小学生よりは強いだろうが大人相手では流石に分が悪い。
しばらくは自分ひとりで頑張らないとやむを得ないだろうが、そんなことをしていたらかなり早い段階で退場するハメになってしまうだろう。
早急に何か手を打たないといけない。
「せめて、あいつがもうちょっとでも役に立てば良かったんだがな……」
自宅を兼ねた不動産店の応接室で、いつもの席に座って考え事をしていると少しだけいつもの調子に戻る気がした。

その時、奥の自宅部分から一人の人物が現れた。現在中島でも花子でもない。
「あんた……」
見違えるほどにやつれた顔で現れたのは、花子の母、花乃丞にとっては妻であった。
「ああお前か、どうしたそんな顔をして」
「ねえ、お願いだから人殺しをするなんて馬鹿なことを言うのはやめておくれよ」
彼女は普段の快活さがウソのような怯えきった様子で夫に詰め寄った。
「またその話か。俺の気は変わらないと言ったろう」
「けどいくらこんな時だからって、そんなこと人間のすることじゃないわ!!」
「そんな甘いことを言っていると、いつか俺たちのほうが殺されることになるぞ」
彼の妻はまだ、自分の夫と娘がすでに人を殺しているのを知らない。
花子のクラスメートのカオリに直接毒を飲ませて殺害したのは花子だが、死体の処理は二人で行った。
殺人に半分加担したも同然の花乃丞にとっては、これ以上人を殺すことも覚悟の上だし怖くは無かった。一線をすでに越えたものの心は、そうでないものにはわからなかった。
「けど、だったら身を守るのに徹したっていいじゃないかい。何もわざわざこっちからしかける真似をしなくたって……」
「何回も言ってるだろう、全ては花子の将来のためだって」
花沢家の遠大な計画 [sage] 2010/11/19(金) 18:07:08:/qI81Nnx
花乃丞が殺し合いに乗ることを決めた理由は、自分たちの命というよりも財産を守るためであった。それも不動産屋という立場を十分に生かしてである。
彼らの計画はこうである。
まずある家の住人を殺害する。そしてその後、住人が死んで空き家になったその家を売りもしくは貸しに出すのだ。
殺し合いが始まって以来、いつ自分たちが殺されるかとビクビクしている者など何人もいる。
そういう連中に安全な場所にある『隠れ家』を提供してやれば、多少ふっかけてでも金を回収できるだろう。
そうやってこの殺し合いの中で右から左に不動産を転がすことによって利益を得る、というのが彼らの目的である。
そして中島や花子にとってはともかく、花乃丞にとってはそれはひとえに花子のためであった。
こんな悪夢からなんとか無事に生還できたとして、その後は果たしてどうなる?
状況が状況だけに、全てが暴かれたとしても法的に罪に問われるとは考えにくい。問題はむしろ経済的なことである。
殺し合いが終わった時点で果たしてどれだけの財産が手元に残っている? 以前の仕事を何事も無かったかのように続けることなどできるのか?
あまりにも現時点ではわからないことだらけで、将来ある花子のことを考えると眩暈がした。
そこで思いついたのが、『殺し合いという状況を利用して財産を増やす』ということである。
そして街の不動産屋という立場は、その目的にはまさに最適なように思えた。


「全てはこれが終わった後に、花子が苦労しないようにだなあ……」
「それは……でも……でも!!」
彼の妻は顔に苦悩を滲ませる。彼女だって無論娘の将来が心配でないわけはない。
「でも、そんな、自分の子供一人のために大勢の人の命を……」
まだ一線を越えていない彼女には、その結論は到底容認できるものでは無かった。
「……これじゃあいかんな。コーヒーでも飲んで、落ち着こうや」
花乃丞はそう言って席を立った。
「……自分で淹れれるわ」
「いいから座ってろ、俺がやる」
花乃丞が台所に向かうと、彼の妻は応接室のソファに倒れるように座り込んだ。
どうしてこうなってしまったんだろう。こんなことにならなければ、家族三人で呑気な生活を続けられたはずなのに……
花沢家の遠大な計画 [sage] 2010/11/19(金) 18:09:06:/qI81Nnx
「ほら、これでも飲んで落ち着けよ」
そう言って差し出されたコーヒーを見ても、彼女にはそれが自分に安らぎを与えてくれるものには見えなかった。
だが、それを差し出した時の夫の瞳を覗き込んだ時――そこに、仕事一筋ながらも家族を気遣う彼の普段の素顔の残滓が確かに見えた気がした。
ずっと、もう何年も自分を見つめていてくれた優しいまなざし――
それに気付き、彼女はあまりにも変わった生活の中でわずかな変わらなかったものを感じ、ここ数日では一番幸福な思いでコーヒーを口に入れた。


実際花乃丞の家族への思いはいささかも変わっていなかったし、彼の妻も幸福だった。
夫や娘が、自分以外の人を実際に殺すところを目にする前に退場できたのだから。
毒を飲んで事切れた妻を前にして、花乃丞は涙を押しとどめた。
ここで泣いてはいけない。少しでも下を見ようものなら立ち止まってしまう。
自分だっておそらくはこの殺し合いの中で死ぬ。その前に、少しでも花子のために不動産を売らないといけないのだ。

それでも――妻の死体を埋めに行く前に、そっとその体に寄り添うくらいは許されるだろう。そう思った。
(次に生まれ変わったら、またお前と出会って、お前と恋をして、お前と生きていこう。
だから、この人生ではもう、これから先はお前のことは思い出さない――)



【6日目 午後1時】
【花沢不動産】

【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考:
1・ 殺し合いの中で不動産を売りさばいて利益を上げる
2・花子の命は最優先で守る

【花沢の母  死亡確認】(名簿外)
参加するカモさん [] 2010/11/26(金) 13:59:04:FrH9BQSl


花沢母のご冥福を祈る
参加するカモさん [sage] 2010/11/27(土) 13:08:37:X/800fjz
果たしてパロロワ史上、こんな理由で殺し合いに乗ったマーダーが過去いただろうか
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:20:57:drVcuuR8
父親は殺し合いの首謀者となり。
実の弟のような存在だった甥と、同じく実の兄弟にも等しい存在だった飼い猫は命を落とし。
姉は息子の死を受け入れられずに正気を失った。
これだけの状況の中でもワカメは自分でも意外なほど冷静に事態を見ていた。
以前の自分であれば、きっとただただ泣いていただろう。タラちゃんよりも先に殺されていたかもしれない。
そうはならなかったのは、自分はすでに二人もの人を殺している――その事実が、『自負』となってワカメの心を支えていたからだ。
もう二度と家族全員で付くことなど無い食卓に一人で座って、ワカメは大好物のケーキを頬張っていた。
こんな時でもおやつの準備を忘れない母親には感謝するしかない。
しかし今まではずっと一緒におやつを食べていたタラオはもうこの世には無く、兄のカツオはいなくなったマホを探しに町中を駆け回っている。
兄の性格からして家の中の誰かが殺してとっくに死体も始末してある、などとは考えもしないだろう。
その点で、兄は確かに殺し合いの中でも優位に働くであろう機転と行動力を持っているが、すでに一線を越えているワカメと比べると決定的なものが欠けていると言える。
人を、殺した。
それも最初に殺したのは、生まれたときから知っている親戚のやさしいおじさんだった。
自分がノリスケを本当に殺せるかどうかというのは一つの賭けでもあった。あの日あの時、ほんの少しでも『何か』が違えば――
たとえばノリスケの立ち位置がわずかでも違ったら、ノリスケが屋根の上にいる自分に気付いていたら、あるいはワイヤーでノリスケを手にかけるまさにその瞬間、ためらいのほうが決意よりもほんのわずかでも勝ってしまっていたら。
おそらくその後の自分の運命は、全く違ったものになっていたはずだ。
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:22:57:drVcuuR8
それにしても、と、オレンジジュースを含みながらワカメは考える。
自分が今ここまで落ち着き払っているのはすでに人を殺したからだ。
では、自分以外でまだ表面上正気を保っているように見える人たちは、一体どうやって自分を支えているのだろうか。
マスオ兄さんは、ひょっとしたら自分と同類かもしれない。
まだ実際には手を汚していないかもしれないが、その瞬間が目の前に来れば躊躇無く殺人を行うという決意をすでに固めているように思える。
息子であるタラちゃんを失い、妻であるサザエが正気を失っているという悲痛な状況の中でマスオの心を支えているのがその決意だとしたら、今のワカメにはとても納得できた。
兄であるカツオはいつでもまっすぐな人間だ。自分の興味や欲望が赴くままに動くのと同時に、いつでも弱者を見捨てられず、どんな場合でも傍観者に徹することを由としない強さがある。
マホを助けた時のように、おそらくはこれからも目の前にいる人を助け、あわよくば父を改心させようという決意のもとで動くのだろう。

では……残る一人、母であるフネはどうなのだろうか。
殺し合いが開始されてから今まで、フネには表面上は何の変化もないように感じられた。
朝は学校にでかけるカツオやワカメを見送り、子供たちが帰ってきたらおやつを出し、夕方には買い物に行って夕飯の支度をする。
変化と言えば、現在サザエが使い物にならない状態なので上記の家事を全て一人でするようになった、という程度のことだ。
かといって、マスオのように冷静を装って腹の中で冷たい決意を固めているといった様子も全く無い。
フネは子供たちに外出時には気をつけるようにといい、タラちゃんが死んだ時には涙を流していたが、直接殺し合いに言及したことはほとんど無い。
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:25:03:drVcuuR8
あるいは母は、今何が起こっているのかを正確に把握してはいないのではないか、とワカメは思った。
サザエのように傍から見ても明白なほど狂っているわけでは無いが、現実から目を背けて「いつもと変わらない延長」という幻想の中に自分を閉じ込めているだけではないか。
だとしたら――その程度の人間など、眼中に入れる価値も無い。
ワカメは自分にそう言い聞かせた。
私は家族を生き残らせないといけないんだ。この両手を血で染めてでも。この殺し合いと向き合わないといけないんだ。
だから、それから目を逸らしている人間なんて……


「ワカメ、食べ終わったのなら宿題をやっておきなさい」
台所から現れた母は、いつもと変わらない微笑を湛えていた。
「うん」
娘もいつもと変わらない顔で答えて席を立つ。しかし宿題をするためではなく、次に殺す人間とその方法を考えるためだ。
彼女はもう母の言葉を真摯に聞くつもりなど無かった。
「ああそうそう、ワカメ」
部屋に戻ろうとしていたところを呼び止められた。
「カツオが戻ってきたら、おやつを食べるように言ってちょうだい」
「うん、わかった」
それだけを告げると、フネはいつものように他の家事へと戻っていった。

自分の部屋に入ったワカメは机の中に隠しておいた包丁を取り出した。
その時、わずかに違和感があった。その包丁の握りの部分が、前よりも細く、かつ掌にぴったりと収まるような形に変わっているような気がしたのだ。
気にはなったが、気のせいだと思い直してしまいなおした。
一時間後、ワカメは鞄にその包丁と、ノリスケとマホの始末に使ったワイヤーをしのばせるとそれを背負って玄関へと向かった。
悠長にしている時間的な余裕はもう無い。こうしている間にも家族の誰かに確実に危険が迫っているのだ。
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:27:05:drVcuuR8
かえすがえすも痛恨なのは、あの二人の少年に止めを刺し損ねたこと、そこを見知らぬ男に目撃されたことだ。
しかしあれから丸一日近く経っても、まだそのことが知れ渡っている気配は無い。
何かの理由で三人ともくたばったのならそれでいい。が、そうで無いのならば安心は出来ない。少々危険を冒してでも確認しなければ。
そして同時に、次の標的を探すこともしなければいけない。
荷の重さに気が滅入るが、他に相談できる相手もいないので仕方が無い。まだ家に戻らない兄のカツオが心配なこともある。
勇壮と憂鬱が入り混じったような気持ちで玄関で靴を履いていると、母のフネが小走りにやってきた。
「あらワカメ、出かけるのかい?」
「ちょっと友達のおうちまで言ってくるわ。お夕飯までには帰るから」
「そうかい、じゃあ悪いけど、もしカツオを見かけたらこれを渡してくれないかい」
フネはそう言うと巾着袋を差し出した。
「なあに、それ?」
「カツオの忘れ物みたいなもんだよ。渡してくれたらわかるから。それとワカメ、外ではくれぐれも気をつけるようにね」
フネはそれだけ言い残すと、やはり足早に去っていった。
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:29:24:drVcuuR8
家の門を出て、ワカメは渡された巾着袋に目を向けた。
カツオの忘れ物だということだが、袋は母のものに間違い無かった。
興味のほうが勝って、こっそりと巾着袋を開けたワカメは中に入っていたものを見て息を呑んだ。
それは一本の出刃包丁だった。
そしてもう一つ、フネの筆による手紙も中には入っていた。
後ろめたく感じながらも読んでみると、そこに書かれていたのはたったの一行だった。

『念のために渡しておきますけど、やたらと使うようなものではありませんよ』

(全部、わかってたんだ……)
ワカメはしばし放心した。
フネは誰よりも子供たちの身を案じていたが、自分が表立って騒いでは家族を不安にさせるだけだと思い、外見上はいつもと変わらぬ日常を続けていた。
変わりに、こんな形で子供たちの身を守ろうとしていたのだ。
自分の隠していた包丁の取っ手を削ったのも母に違いない。子供である自分でも握りやすいようにしてくれたのだ。
そして、包丁の隠し場所を知っていたということは、おそらくは自分のしていることも……
それでも母は何も言わずに自分を送り出してくれた。
さっき玄関で自分と相対した時、母はどんな思いだったのだろうか。想像しようとしたが、自分には一生わからないような気がした。
言えない、ありがとう [sage] 2010/12/04(土) 15:31:09:drVcuuR8
【六日目 午後三時】
【磯野家】


【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する


【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・家族を守る
世界の片隅の旅籠屋 [sage] 2010/12/04(土) 17:26:54:drVcuuR8
この殺し合いの『舞台』である町を歩きながら、また私は考える。
この世界があの一家を主人公とした物語であれば、私たちはその物語の単なる脇役に過ぎないだろう。
どんな絵本でも人形劇でも、脇役にはロクに分量など裂かれない。増してや、主役すらもその日常生活などは描写されないのに、脇役の生活など誰も興味を持たない。
だからそんなのは最初から『無かった』ことにされるのだ。
同様に、主役たちが普段は使わない場所も緻密に『造られている』必要は無い。
その物語の中でほとんど使われないような場所は、本当はただ何も無い空間が広がっているのではないだろうか。
あるいは、私たちが普段から使っている場所も本当はいつもは何も無い場所で、私たちが使うときだけ書割のように急ごしらえで造られるんじゃないだろうか。
だとしたら今歩いているこの道も、道の両脇にある家も、本当に現実だと言えるものは何一つ無いんじゃないだろうか。
私は母を殺したが、あの人だって私の本当の母だという保障などどこにある?
ただ『私の母』という役目を演じていただけの他人かも知れないし、人間そっくりな――血の流し方までそっくりな、ロボットだったのかもしれないし、あるいは私の見ている時だけは母で、それ以外の時には全く違う何かに変わっていたのかもしれない。
ただの脇役である私には、この世界はわからないものだらけだ。
もしこの殺し合いの中で私が主役になれれば、そのわからなかったものたちが見えてくるんだろうか。
世界の片隅の旅籠屋 [sage] 2010/12/04(土) 17:28:30:drVcuuR8
今この町を、幼い子供である自分が歩くことがどれほど危険なことかは承知している。
しかし母を殺してからずいぶん経ち、流石に食べるものも無くなってきた。どうやって食べるものを得ようかという考えは浮かばないが、ともかく動かなければいけない。
やがて私は、無意識に足があのタラオという男の子の家に向かっていることに気付いた。
まったく習慣というものは恐ろしい。しかし私は今はこの物語の主人公であるあの一家と顔を合わせたくは無いし、仲のよかったタラオはもういない。
苦笑して来た道を戻ろうとした私は、突然背中に強い衝撃を受けて地面に倒れこんだ。
胸と顎を強く打ち、痛みに目の前が一瞬真っ赤になった。
その隙に、私を突き飛ばした男は私の背負っていた荷物を奪って走り去っていった。
追いかけるどころか、男が視界から消えるまで立ち上がることも出来なかった私には、その男の後姿を見ることしかできなかった。
膝や腕をさすりながらよろよろと立ち上がり、まだ痛みに顔をしかめていると、
「あらまあ大変ねえ。うちで手当てしてあげるからいらっしゃいな」
そんな声が耳に届いた。顔を上げてみると、私を見下ろしていたのは磯野家から『裏のおばあちゃん』と呼ばれている老人だった。


その老人の家は磯野家よりもさらに古い旧家だった。
老人は私の傷を慣れた手つきで治療したのち、お腹のすいていた私に食事まで作ってくれた。
老人の態度にすっかり警戒心を解いていた私は出された食事を素直に口にした。文句無くおいしかった。
「でもうちに小さなお客さんが来てくれるなんて久しぶりねえ」
老人はそう言って朗らかに笑う。タラオが生きていた頃は、彼が毎日のように遊びに来ていたということだろう。
彼女は磯野家からも、この町の他の住人たちからも『裏のおばあちゃん』という呼称で呼ばれている。
彼女の側から見れば磯野家のほうこそ裏になるはずなのだが、彼女もまたこの世界が磯野家を中心としていること、自分が脇役の一人でしかないことを受け入れているかのようだった。
「おかわりはいかが?」
世界の片隅の旅籠屋 [sage] 2010/12/04(土) 17:29:55:drVcuuR8
私が出されたものを食べ終えたのを見て老人が問う。
「ううん、もうお腹いっぱいだから。ありがとうございました」
私は感謝の意を込めて頭を下げた。
この家に入って驚いたのは、殺し合いの最中だというのに家の中が整然としていることだった。
隅々まで掃除が行き届いているというか、生活感はあるけれども家事が隅々まで行き渡っている、そんな印象を受ける。
「よかったら、うちでゆっくりしていってもいいのよ。今お外を出歩くのは危ないからねえ」
老人はそう語ったが、私はどうしても一つ気になることがあった。
この家にいたおじいさんはどうしたのか、ということだ。さっきから姿が見えないので、もしや……という思いが募る。
しかし、質問した結果まさにその通りだとしたら気まずいことになる。どうしようかと悩んでいた私は、ふと、自分が今まで使わせてもらっていた机の上に真新しい傷があるのに気がついた。
一つが目に入ると、他のものも次から次へと目に入ってきた。それは無視できるような数では無かったのだ。
机の上だけでは無い。畳の上に、障子に、襖に、仏壇に、窓ガラスに、庭に植えられた花にも。
丁寧な修復によってよく見ないとそれとはわからないほどになってはいるが、その『誰かが大暴れした』痕跡は家の中のそこらじゅうにあった。
そういえば、私に出された食器は大きさやデザインが揃っていなかった。多くの食器が割れたから、ありあわせのものしか出せなかったのではないか。
「あら、どうかした?」
老人は目を細め、口元に柔和そうな皺を寄せて問いかける。
その平穏さが、彼女の答えなのだろうと確信した。
この家で果たして何が起こったのか、これ以上詮索しようとは思わない。
しかし彼女はそれら全てを無かったことにして、この異常な世界の中でいつもどおりの生活を続けることを選んだのだ。
『裏の』という語を冠してしか呼ばれることのない世界のほんの片隅で、脇役としての生活を頑なに守ろうとしているのだ。
それは、世界の主役に憧れる私とは対極ではあるけれど、通じ合うものだ。そう思った。
世界の片隅の旅籠屋 [sage] 2010/12/04(土) 17:30:41:drVcuuR8
「ごめんなさい、私はそろそろ帰らないといけないの」
「あらそうなの、でも荷物が無くなっちゃったから大変でしょう? ちょっと待っててね、おばあちゃんが役に立ちそうなものを持たせてあげるわ」
老人は席を立った。私は彼女を待つ間に、湯飲みの中に少し残っていたお茶を飲み干した。
もうぬるくなっていたけど、とてもおいしかった。


【6日目 午後三時】
【裏のおじいちゃんち】

【リカ】
状態:健康
装備:無し
武装:無し
思考:基本・この殺し合いの「主役」になる

【裏のおばあちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:不明
思考:基本・何があってもこの家を守る
1:夫の帰りを待つ
世界の片隅の旅籠屋 [sage] 2010/12/04(土) 17:31:56:drVcuuR8
その頃裏のおばあちゃんの家からそう遠く離れていない路上で、大工のジミーが泡を吹いて失神していた。
小さな子供を襲うとは卑劣なことだと思いながらも、リカから支給品一式が入った袋を奪ったジミー。
しかしその中に入っているのが、腐敗した女性の頭部だとは思ってもいなかったのだ。


【6日目 午後三時】
【裏のおじいちゃんち近辺の路上】

【大工のジミー】
状態:健康
装備:支給品一式×2(リカの分含む)
武装:大工道具一式(カンナ・金槌・釘・ノコギリ) 、斧、出刃包丁、リカママの頭部
思考:失神
参加するカモさん [] 2010/12/04(土) 22:27:17:HBn+kyiy



中々シリアスな話だったが最後のジミーでワロタw
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:21:39:5S7t+PcV
「どうした、いい若者が昼間から道端で」

ダレ?
ダレがボクを呼んでいるの?

「なんだ、怪我しているのか」

ダレでもイイから、もうボクにかまわないで。
ボクなんかほおっておいて。

「仕方ないな。ちょっとガマンしてもらうぞ」

ナニ? なんでボクのからだをひろいあげるの?

なんでボクにやさしくするの?

ボクなんかもうほうっておいて。
ボクはもうダレもいらない。ダレもしんじない。
トモダチなんていらない。しんじたってボクにはなにもいいことなんかおこらない。

ボクにやさしくしてくれたヒトは、みんないなくなってしまう。

だからボクはもうなにもいらない。

なにも、イラナイのに……
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:23:04:5S7t+PcV
気がつくと、ボクは知らない家の中にいた。
タラちゃんの家とはずいぶん違う、机や椅子がたくさんあって台所がやけに大きい変な家だ。
結局また死ねなかったんだな、と思うと一気に力が抜けた。
どうしてボクは人間として生まれなかったんだろう。
こんな頑丈な機械の体なんかいらない。人間なら、ごはんを食べないでいるだけで死ぬことができる。
ボクはもう生きたくなんか無い。
「気がついたか」
大きな台所の向こう側から、知らないおじさんが出てきた。
白い服を着て、頭には大きな白い帽子を被っている。前にタラチャンの絵本で見た、コックさんという仕事のヒトに似ていた。
「俺の腕だと治せるのはそこまでだ。悪く思わでくれ」
そう言われて初めて、両腕とボディの痛みが無くなっているのに気付いた。
おそるおそる見てみると、深くて長い亀裂も含めて全ての傷が、一目見てそれとわからない程度に修復されていた。
ボクは絶望した。

「どうして……?」

どうしてボクを治したりなんかしたんだ。
ボクは少しでも早く死にたいのに。
ボクは、タラちゃんのところに行きたいのに。

みんなみんな、なんで今更になってボクにやさしくするんだ。
売れ残りそうになっていたボクを買ってくれた波平さんはボクからすぐに興味を失い、それどころかこんな殺し合いなんかを始めてボクからタラちゃんを奪っていった。
ボクの初めてのトモダチになってくれたタラちゃんは、家族から裏切られて命を落とした。
そして、ボクを拾ってくれたあの男のヒトも……

「別に、ただ怪我をしているものを放っておけなかっただけだ。別にお前を特段助けたかったわけではない。勘違いするな」
コックさんはなんだか怒ったような顔でそう言った。
そんなの言い方するくらいなら、ボクなんか助けないで欲しかったのに……

「まだ疲れているようだな。店の奥で休むといい」
コックさんはボクの様子を見てどう思ったのか、そんなことを言ってボクを連れて行った。
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:24:00:5S7t+PcV
夕日が町を照らす中、いまや電車が発着することの無くなった駅の前の大通りを、壮年くらいの男と小学生くらいの少女が並んで歩いていた。
遠目には親子か親戚同士にも見えなくは無いが、仔細に見ればその様子が普通では無いことに気付く。
「ね、ねえヒロコちゃん、やっぱりこんなことはよそうよ……」
スーツ姿の、恐竜のパキケファロサウルスに似た風貌の男が隣を歩く少女にそうささやきかけると、少女のほうは男の手の甲をつねる。
「何今更弱気なこと言ってんの? あんたみたいな地味な男が生き残るには、私たちの指示を黙って聞いておくのが一番なのよ」
「イテテ、そ、そりゃあそうかもしれないけど……」
「ふん、果たしてそれがあんたの本心かしら?」
ヒロコと呼ばれた少女はそう言って、挑発するようにシャツの胸元を広げた。
肝心なものが見えそうで見えないその胸元に、パキケファロサウルス似の男、岡島は思わず足を止めて見入った。
「なによ、どこをジロジロ見ているの?」
「え、い、いや、そりゃあ……」
慌てて取り繕うとする岡島の手を強引に取って、
「あんたは胸よりも、むしろこっちに触りたいんじゃないの?」
そう言って自分の尻に触らせた。
「う、うひ……」
ヘタレな下衆みたいな声をあげて、その感触をなるべく長く詳しく楽しもうと手を動かす岡島。
「ダメよ、今日はここまで」
少女はその手をはたいて、のろのろと歩く岡島を急き立てた。

(花沢さんのおじさんの言うとおりだ。本当にこうすれば何でもいうことを聞くし、僕が男の子だってことにすら気付かない)
目深に被った帽子の下で、少女、いや少年――中島ひろしはあまりにあっけなく事が進むので拍子抜けするような気分だった。
花沢花之丞から彼が課された役目は、女装して岡島を誘惑し、表立って行動させること。
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:26:03:5S7t+PcV
花之丞が町内に張り巡らされているネットワークは、広範にして正確だ。
彼は磯野波平の同僚である岡島という男が、パキケファロサウルス似であることのみならず真性のロリコン、いやむしろペドであることもつきとめていた。
中島が女装して接近すれば必ず言いなりになる。そこで、実際に殺害する標的を選び、手を下すことは岡島にやってもらうというのが彼らの計画である。
もっとも、岡島の気の小ささを警戒し、まだ彼に殺人までやってもらうつもりだということまでは伝えていない。
あくまでも町内を偵察して欲しいとだけ言ってある。
(ま、この様子だと大丈夫そうだな。僕のことなら何でも聞くようになってるし、このおじさん)
中島はほくそ笑みながらも、虎視眈々と尻を撫でようと狙う岡島を目で牽制し続けた。


しばらく歩いていると、中島の尻ばかり見ていた岡島が
「おや?」
と声を上げて立ち止まった。そこはある飲食店の前だった。
「どうしたの、おじさん?」
「あ、いや、ここのお店って確か子供はお断りじゃなかったかなあって思ってね」
「そんなこと、どこにも書いてないじゃない」
「でも前は確かにそう書いてあったんだよ。そういえば、波平さんがここはすごくおいしいお店だって言ってたなあ」
岡島は腹をさすりながらそうつぶやく。
「何言ってんの、余計なことをしているヒマなんかないわよ」
「でももうお腹ペコペコだよ、ね、おじさんがごちそうしてあげるから、ね、ね?」
卑屈なイヌのように懇願して、中島の手を握ろうとする岡島。
「わかったわよ」
その手をはたいて、中島はしぶしぶ答えた。
「まあ、駅前の飲食店なら大勢の人が来るだろうし、情報の収集にはちょうどいいかもしれないわね」
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:27:49:5S7t+PcV
店の中に入ってみると、晩御飯時だというのに他の客は誰もいなかった。
(本当においしいお店なの?)
そう目で聞く中島に、岡島は弱ったような笑みを浮かべるばかりだ。
あの波平と比べてなんて頼りの無い男なんだ、と中島は呆れた。
「注文は?」
厨房に立っていた店主らしい男が出てきた。どう見ても怒っているとしか見えない顔だ。
「あ、ええとその……」
一気に威勢を失って口ごもる岡島に代わって、
「カレーライス二つ」
と、店の前の看板を見ていた中島が即答した。
店主は返事もせずに厨房に引っ込んでいった。
「な、なんか知らないけど怖そうな人だねえ」
「でもああいう偏屈な人の料理のほうがおいしそうじゃない?」
席についた二人が話していると、厨房から
「店の中では帽子くらい脱いだらどうなんだ」
という声が聞こえてきた。
「あら……ふふふふ」
中島は笑いながら帽子を取り、厨房に向き直った。
「ごめんなさいね」
「なんだ、やけに嬉しそうな顔をしてるじゃないか」
「おじさん、私の知っている人に雰囲気が似ててちょっと面白かったんです」
中島の笑みに見入っていた岡島は、
「それって、誰のことだい?」
と尋ねた。
「私の友達のお父さんです」
「俺も知っている。磯野波平という男だろう」
厨房からまた声がした。
「おじさんも知り合いですか?」
「ああ」
そう一言言ったきり、もう彼は何も言わなかった。
中島も何も言わなかった。この店が「小学生以下お断り」の看板を外すきっかけを作ったのが波平であることなどは知る由も無かったが、なんとなくそうであるような気がした。
ただ岡島だけが、話についていけないような曖昧な顔をしていた。
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:29:30:5S7t+PcV
「あ、あの、このお店って前は子供お断りでしたよね?」
間を持たせようと発した質問に答えが返ってきたのは三十秒ほど後だった。
「俺が嫌いなのは子供じゃない、店の中で騒ぐ子供をちゃんと叱れない親だ。
それと、自分の娘の体をじろじろ見たり、隙を見て触ろうとしたりする親も本当ならお断りだな」
岡島は肝を冷やし、中島は心の底から笑った。


【六日目・午後六時】
【駅前・がんこ亭店内】

【全自動卵割り機】
状態:破損(命に別状なし)
装備:なし(支給品焼失)
武装:なし
思考:
1・………

【中島】
状態:健康 女装
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:基本・カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
1:岡島を体で操って人殺しをさせる

【岡島さん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:中島タンハアハア
波平よりもがんこ亭 [sage] 2010/12/07(火) 17:30:42:5S7t+PcV
【がんこ亭店主】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・殺し合い中でも変わらず店を開ける
1:中島と岡島に料理を出す。べ、別にお客さんだから仕方なく作るだけなんだからね!!
2:全自動卵割り機を保護する。べ、別にただ怪我をしてるのに放っておけないだけなんだからね!!
世田谷アンダーグラウンド [sage] 2010/12/15(水) 01:32:37:z3VZMdwb
世田谷の地下を走る下水道を、長靴を履き、手には懐中電灯を持ってゆっくり歩く一人の男がいた。名簿では部長と呼ばれている男だ。
さっき地上に出たときに仕入れた新聞の日付を見ると、殺し合いが始まってからすでに六日が経過したらしい。
ということはこの暗くて腐臭が漂い、湿度も皮膚を溶かさんばかりに高い空洞に身を隠してからすでに六日が経ったということらしい。
中間管理職であるという点を除けば単なる会社員にすぎなかった彼が、突然見知らぬ男に呼び出されて殺し合いを強制されるという、人類史上前代未聞と言っていいだろう事態に巻き込まれてすでにそれだけの時間が経過した。
殺し合いの首謀者が自分の部下の義父であるなどとは露知らぬこの男、この町に在住していないにも関わらず町から出ることを禁じられてしまったのでまずは潜伏場所を探さなければいけなかった。
真っ先に考えたのは部下であるマスオの家を頼ることだが、こんな非常事態に巻き込まれている時に赤の他人をいい顔をして家に泊める人間はいまい。
マスオ自信は部下としても人間としても信頼に足る男だが、彼の家族までそうとは言い切れない。
そこで思いついた身の隠し場所は、足元にあったマンホールの下――この地下空洞だった。
殺し合いに積極的に加担する人間が出現するとしても、最初はこんな場所までは目が回らないだろう。
それに風雨もしのげるし、暗いのと臭いのさえ我慢すればそれなりにいい隠れ家だといえた。
心配だった食料は、最初から自分のサイフを持たされていたし、地上に出て銀行で自分の口座を見てみると一ヶ月普通の生活はができるほどの金額が振り込まれていた。
その金でどこかのアパートを借りるという手もあったが、この町で唯一の不動産屋も殺し合いに参加していると聞いてそれはやめることにした。
毎日数時間だけ地上に出ては食料や必需品を調達し、情報を収集するという異常な生活にも慣れてきたが、会話相手がいないことは堪えた。
部下であるマスオとアナゴはどうしているだろう。放送を聴いた限りではまだ命は落としていないらしいが、家のあるマスオはまだしも自分と同じ境遇であるアナゴなどはどうしているのか。
そもそもなんでこんなワケのわからないことになってしまったのか。
世田谷アンダーグラウンド [sage] 2010/12/15(水) 01:33:47:z3VZMdwb
暗闇にいて何もやることが無いとなると色んな考えが頭をよぎってしまうが、その全ては徒労に終わった。
やがて何度めかの曲がり角を曲がったとき、それまでもずっと聞こえていた水音に混じって妙な音がするのに気付いた。
それは誰かの足音だった。
この地下道で誰かと鉢合わせるのは初めてだ。懐中電灯を消そうかとも思ったが、位置から考えて相手はすでに自分の存在に気付いているだろう。
怪しまれる素振りをするのは逆効果というものだ。
相手も同じようなことを考えているのか、明らかにこちらに気付いているようだったが、一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってきた。部長も同じようにした。
やがて、足音の主は犬だとわかった。
「やあ」
先に声を発したのは犬のほうだった。
「これはどうも」
自分で言っていながら、サラリーマンくさいセリフだなと苦笑した。
「どうだ、ここはお互い何も見なかったことにして通り過ぎるってのは」
「ええ、どうやら詮索し合わないほうがいいようですね」
「全くだ」
犬は鼻を鳴らしたようだった。
「こんなところでコソコソしてる奴らなんて、ロクでもないことを考えているに決まってる」
「お互いの抱えている面倒ごとに、お互いが巻き込まれるのもゴメンですしね」
実際には自分の身には今現在大したことは起こっていないが、彼はそう言って苦笑してみせた。
「じゃあ、どうかお元気で」
「ああ、旦那さんもな」
そしてお互いに、息を合わせるようにして決して広くは無い地下道の中ですれ違った。
数歩進んでほっとため息をついた彼の耳に、立ち止まった犬から次のような忠告が聞こえた。
「俺は犬だから、人よりも鼻も耳も利くんだ。ここで会ったのもなんかの縁だから教えてやるが、そのまま進めば行く手が二方向に分かれている。
そこは右の道を進め。さもないとロクでもないことに巻き込まれるぞ」
犬はそういい終わると、長居は無用とばかりに足早に去っていった。
部長はあの犬はなんでこの道を通ったのかについて想像しながらも、その忠告を受け入れるかどうか考えていた。
世田谷アンダーグラウンド [sage] 2010/12/15(水) 01:35:27:z3VZMdwb
【六日目・午後五時】
【下水道】

【部長】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・しばらくは地下に潜伏して様子見
1・部下のマスオとアナゴが心配

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:……


(行った……)
血まみれの手でほっと胸を撫で下ろす。
町中の人間の死角になっているだろう下水道で他人と遭遇するという不運な事態は免れたようだ。
誰だかは知らないが、この場所に接近していた男は別の道を選んでいった。
(でも……てことは、ここをこの死体の隠し場所にするのはマズかったかも)
すくなくとも、無造作に下水の中に打ち捨てておくのは危険かもしれない。
解体作業中だった三河屋の奥さんの死体を前にして、ワカメは思案した。
参加するカモさん [] 2010/12/15(水) 11:36:28:URJBOEmf



ハチは何で下水道にいるんだよw
続きが気になる
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:18:08:O6t9J4TF
「さあイクラ、お昼寝の時間よ」
タイ子はおやつを食べ終えて眠そうに目をこすっていたイクラに言い聞かせて布団に寝かせた。
イクラはここ数日は、ずっとノリスケとタラオはどこにいるのかと尋ねている。
まだ言葉も満足に話せないイクラに、死というものなど理解できるはずは無い。
タイ子はたった一人で肉親の死に向き合わないといけなかった。
夫のノリスケが死んだというのに葬式も出せず、それどころか遺体との対面すらも叶っていない。
そしてタラオも命を落としたという報を聞いて急ぎ磯野家に駆けつけたタイ子が目にしたのは、かつての楽しい磯野家を知る彼女にとっては忌まわしいとすら言える光景だった。
サザエは正気を失い、まだ息子が生きているという幻想を見続けている。
そのサザエにずっと寄り添うようしていたマスオと、すっかり表情が乏しくなってしまったワカメ。
そして壊れたような家族をいつもと変わらない暖かい眼差しで見守るフネの姿がそこにあった。

(ちがう……こんなの、間違ってる)

生きている家族が弔わなければ、死んでいった人たちは誰が弔うというのか。
タイ子はノリスケを殺したのは誰かといったことはそこまで知りたいと思わない。
それよりも、ノリスケがこの世界に生きていたことを忘れないでいようと思った。
磯野家がノリスケのことを忘れても、自分だけはずっと忘れないでいようと誓った。
そしていつかイクラが成長したときに、父親がどれだけ立派な人物だったか教えてあげよう。

「す、すいません!! 開けてください!!」

激しく戸を叩く音がした。それも尋常ではない慌て様だ。
「この声は、甚六さん!?」
知り合いだったこともあって、迷わずに鍵を開けた。どれだけ走ってきたのか、クタクタに疲れ果てている。
「どうしたんですか、甚六さん?」
「と、とにかく、水をぉ……」
タイ子は台所に戻ると水を一杯汲んで甚六に飲ませた。
「ふう……すいません、この近所で知り合いの家というとここしか思いつかなかったので……
あ、それよりも早く鍵を―――」
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:19:16:O6t9J4TF
その時、甚六だけでなくタイ子も感じた。
目の前に存在する生命を全て破壊しようとするかのような、濃厚な殺意を。
それは空気に混じり、外から聞こえる音に混じり、二人を包み込んでいた。


「あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなたのために私は、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
みんな、みんな殺す、みんな殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


玄関先、開いた扉の向こう、甚六のちょうど背後にその女はいた。
一見するとどこにも変哲は無い普通の主婦だ。しかし、首から下は返り血に染まっていた。
「甚六さん!!」
女が血に塗れた包丁を振りかざすのを見たタイ子は咄嗟に彼の手を引いた。女の包丁は床に刺さった。
「ひいいいいいいいい!!」
少女のような悲鳴を上げて腰を抜かせる甚六。女は余裕すら感じさせる動作でゆっくりと包丁を手に取った。
タイ子は甚六とともに一歩ずつ後ずさりながら考える。
(あなた……あなたなら、こんな時はどうするの?)
喉を硬い唾が落ちていった。
女は絵画のような笑顔のままでこちらに一歩一歩近づいてくる。
「甚六さん……お願いがあります。イクラを連れて、窓から逃げてください。
甚六さんなら、イクラを抱いたままベランダ伝いに下まで降りることができるでしょう?」
「あ、は、ハイ!!」
甚六は何も聞き返しもせずに、言われたままに這うようにして奥の部屋に向かう。
タイ子のその言葉が彼女のどんな覚悟を意味しているのか、考えることすらもしないままに。


「ふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふ」
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:20:08:O6t9J4TF
目の前の女が正気を失っているのは疑う余地も無かった。それもサザエのそれとは全く異質な狂い方をしているのも明白だった。
「あなた、ふふ、いますぐにこの私が、ふふ、助けてあげるんだからね……」
女は極めてゆっくりと、しかし逃げるのを許さない迫力で一歩一歩タイ子の元に歩み寄る。
もはや対話するのは不可能だと思われたが、彼女がうわごとのように述べるセリフからは、彼女を狂気に走らせたものの正体を類推することができた。
(この人は、自分の夫のためにこんな風になってしまったんだわ……)
一瞬、彼女のことを羨ましいとさえ思った。
自分もそうなれればどれだけ幸せだっただろう。亡きノリスケの無念を晴らすために誰彼構わず襲う修羅になれたなら。
イクラとの日常生活を守るよりも、それは遥かに楽なことだったかもしれない。

(違う!! ―――そんなの、間違ってる!!)

タイ子は奥歯をかみ締めて自分の幻想を押し殺した。
ノリスケがそんなことをして喜ぶわけがない。自分がやるべきことはノリスケやイクラのために人を殺すことなんかじゃない。
ノリスケが守ろうとした家を、家族を守ることだ。
こんな正気を失った女性なんかに、負けはしない――

タイ子は玄関に置いてあったノリスケのゴルフクラブを手に取った。女はそれを見ても怯む様子を見せない。
いっそのことと、思い切ってゴルフクラブを振りかざして女に向かって突進した。
タイ子が渾身の力で振り下ろしたノリスケの遺品は、しかし空しく虚空を切った。
そして次の瞬間、タイ子の懐に飛び込んだ女は、瞬く間に彼女を八つ裂きにした。

「あは、あは、あははははははは!! うちの主人に近寄る人間なんかみんなこうしてやるのよ、あははははははははは!!」
女は哄笑しながら、抵抗もしない獲物の体に刃を次々と突き刺していく。
その意識を占めているのは、彼女の頭の中にしか実在しない夫という名の幻想だった。
一方激痛の中で意識を削り取られていったタイ子は、今際の際まで自分の愛した家族ことを思い続けた。
(あなた……イクラ……)
やがてその最後の祈りも殺人鬼の哄笑の中に失われ、タイ子は夫の顔を思い浮かべながら旅立っていった。
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:21:27:O6t9J4TF
【五日目 午後5時】
【波野家】

【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
基本・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする
1・甚六を殺す

【波野タイ子  死亡確認】





「ふう……な、なんとかなるもんだなあ」
イクラを抱いたまま窓から脱出し、下の階の部屋のベランダに一階ずつ降りながら壁を伝うように移動していた甚六は数十分後、ようやく地上に到達した。
全力疾走の直後にちょっとしたアクションまがいのことまでやらされたせいで体力は限界に来ていたが、当面の危機は回避できた。
イクラがここに至るまで目を覚まさなかったことも幸いした。
「さて、今のうちに逃げないと……」
イクラを抱いたまま急ぎ足で車道に出た甚六は、ほどなく自分にまっすぐに向かってくる「殺意」を感じ取った。
振向くと、額に「あさひが丘駅」と表示した一台のバスが通常ありえない速度でこちらに突っ込んでくるところだった。
そのバスに自分への殺意があることは明白だった。
「う、うわあああああああああああああ!!」
甚六は抱いていたイクラを投げ出して一目散に路地裏に逃げ込んだ。
バスは速度も落とさぬまま、路上に無慈悲に投げられた幼児の体をいとも無残に引き潰した。
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:22:49:O6t9J4TF
【五日目 午後5時】
【波野家の近くの路上】

【甚六】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:なし
思考:
基本・アナゴ婦人から逃げる

【波野イクラ  死亡確認】


「大人の男のほうは逃したなあ……どうする?」
バスのハンドルを握っていたのは見間違えるはずもない醜い顔を持つ男、アナゴだった。
そしてその隣に座るはノリスケの手による奇跡の発明品、グルグルダシトールである。
「深追いは無用。他のもっと狙いやすい標的を探すべきである」
「そいつぁ同感だあ。そいじゃ、マスオ君を探しがてらこのままドライブと行くかねえ」
「貴殿には格別の信頼を置いているが、勘違いされては困る。私の望みはノリスケ様の仇を打つことのみ、
貴殿の言うマスオという男もその対象だ。無論、さっきのようなノリスケ様の家族であってもだ」
「それはこっちのセリフでもあるよー。最終的にはキミだって、マスオ君を生き残らせるために死んでもらうしかないからねえ」
そして二人の男は、バスを走らせながら顔を見合わせて陰湿に笑った。
明るい笑顔に幸せがついてくる? [sage] 2010/12/21(火) 01:24:07:O6t9J4TF
【五日目 午後5時】
【波野家の近く・バスの中】

【アナゴ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:いつもは毎朝マスオや波平を乗せているバス
思考:
1・マスオ以外の参加者を皆殺しにする
2・今はグルグルダシトールと共闘


【グルグルダシトール】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・ノリスケの行方を捜しつつ、他の参加者を殺す
1・今はアナゴと共闘する
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:46:41:86Qr2aJK
「やはり、ここもダメか……」
警官隊によって完全に封鎖された町境を見て、伊佐坂難物はため息をついた。
数日間かけて町を回って得た結果は、とてもここから脱出することなど不可能だという事実を思い知らされたことだった。
町境には隙間無く警官隊が並んでおり、正面突破は論外、隙をついてこっそり外に出るのもまず不可能だった。
ヘルメットを目深に被った警官たちの表情はうかがい知れなかったが、彼ら相手に交渉などしたって何の意味も無いだろう。
難物は人の壁に背を向けて、重い足取りで逆方向に歩き始めた。
(磯野さん、あなたは一体ここまでして、本当は何をしたいんですか?)

難物の胸に去来するのは波平との楽しかった思い出ばかりだった。
一緒に囲碁を打ったこと、一緒に花火を見たこと、一緒に酒を飲んだこと。
作家と会社員という違いはあったが、少なくとも自分はそんなものは全く気にならなかった。
それどころか、家族を愛し不正を許さない波平の生き様を尊敬すらしていた。
しかし今、難物は波平を許す気にはなれなかった。
彼が、自分からノリスケを奪っていったからだった。
ノリスケの鬼のような原稿の取立てを疎ましく思ったこともあったし、恨んだことさえあった。
しかし、彼がいなければ作家・伊佐坂難物の作品のほとんどは世に出ることさえ無かったはずだ。
実際にノリスケを手にかけた者が誰かはわからなかったし、それを詮索するつもりも無かった。
だがこんなことが起こるそもそもの原因を作った波平のことは、絶対に許すことは出来ないと思った。
(待っていてください磯野さん、私は必ずあなたに会いに行きます。もう一度あなたと話をするために――)
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:47:38:86Qr2aJK
気がつくと伊佐坂難物は、いつも馴染みの三河屋の前に来ていた。
ただ通り過ぎようとしていた難物は、中から激しい言い争いの声が聞こえてくるのに気がついて足を止めた。
「バカ野郎、何を腑抜けたことを言ってやがる!! 殺し合いの最中だろうがなんだろうが、商売をしねえ通りがあるか!!」
「目を覚ましてくださいよ、そんな理屈が通用する時じゃないんです!!」
(この声は、三河屋のご主人のもの。それにもう一人は……)
息を殺して店の中を覗くと、三河屋店主と御用聞きのサブが今にも掴みかからんばかりに睨み合っていた。
「よく考えてくださいよ、ここにはこれだけの食料があるんですよ? いつまで普通に食べ物をお金で買ったりできるかわからないのに、
なんで他人にくれてやる必要があるんですか?」
「てめえ、それでも三河屋か!! 俺たちのやるべきことは、客に注文の品を届けることだけだろうが!!
大体醤油と味噌と酒だけで生きていく気かてめえは、食い物に関してはお互いに助け合わないとしょうがねえだろ!!」
「でも八百屋さんも肉屋さんも魚屋さんも死んで、スーパーだっていつまで営業してるかわからないんですよ!!」
「てめえ……もう今日は俺が御用聞きに行ってやるから、少し頭を冷やしてやがれ!!」
憤然とした顔でサブに背を向けて立ち去ろうとする店主。その背後で、サブが中身の入った瓶ビールを手にしたのを難物は目にしていた。
「いけません!!」
難物は店内に駆け込んだ。ちょうど店から出てこようとしていた三川屋とぶつかりそうになる。
驚く三河屋の体を右に押しのけた伊佐坂難物の頭に、三河屋の後頭部を狙って振り下ろされたビール瓶が激突した。
瓶が割れ、中のビールが散乱した。
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:48:52:86Qr2aJK
【五日目 午後5時】
【三河屋】

【三河屋店主】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明


(あれ……私は、死んでいなかったのか?)
次に目を覚ました時、伊佐坂難物は何故か路上にいた。
なぜ三河屋の店内からここに、と首をひねる難物は、続いて体のどこにも痛みを感じないことに気付いた。
頭から出血したような様子も無い。一体何が起こったというのか。
(とにかく、一度家に戻りますか)
そう思って歩き始める。
頭を強く殴られた後遺症のせいか、周りの家の屋根や塀や電柱がやけに高く感じた。
やがてしばらくすると、傍から聞きなれた声がしてきた。

「お父さーん、お兄ちゃーん!!」
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:49:43:86Qr2aJK
「あの声はウキエか!!」
難物は急いで声のしたほうに駆け寄った。そこには父と兄を探すウキエと、妻のオカルの姿もあった。
「おおい、私はここだぞ」
そう言いながら彼女らに近付いた難物だったが、その足は途中で止まった。
おかしい。彼女たちの身長が、あまりにも高すぎる。錯覚で説明ができるような範疇ではない。
そして自分の姿をその瞳に入れたはずの二人の家族の口からは、耳を疑うような言葉が出てきた。

「あら、どうしたの? 迷子?」
「お母さんとはぐれてしまったの?」

そしてそこにあった床屋のガラスに映った自分の姿を見て初めて、伊佐坂難物は自分の身体が十歳ほどの年齢の少女のそれになっていることを知ったのだった。


【五日目 午後6時】
【駅前・床屋の前】

【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・呆然
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:50:54:86Qr2aJK
【伊佐坂オカル】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・難物と甚六を探す

【伊佐坂ウキエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・難物と甚六を探す


「ご先祖様……いらっしゃいますか?」
モニタールームで殺し合いの成り行きを見守っていた波平は、この異常な事態を見て直ちに協力者の一人を呼び出した。
「なんじゃ、どうした波平?」
波平の背後に、和装の波平と瓜二つの男が現れた。体は半分透けている。
「ちょっと、どういうことか説明してはもらえませんか?」
「なに、たまにこんな余興があってもいいと思ったものでな。伊佐坂先生にこんなに早く退場してもらうのも残念であるし、
彼の魂を、たまたまほぼ同じ時間に死んだ女の子の中に移し変えたのだ」
画面に映る、まあかわいい部類と言っていいだろう少女の呆けたような顔を見ながら波平はため息をついた。
「まあいいでしょう、本当は一度死んだ人間が復帰するのは反則ですが、確かにこれはなかなか面白いし今回限りということで……」
そう言いながら、手元の死亡者一覧の中の伊佐坂難物の名前を消した
伊佐坂難物の災難 [sage] 2010/12/22(水) 18:52:14:86Qr2aJK
【五日目 午後6時】
【主催本部】

【磯野波平】
状態:健康
思考:
1・殺し合いの完遂

【磯野藻屑】
状態:健康
思考:
1・波平をサポートする
※主催側の人物です


独り言……なんとか、強引ながらも参加者全員を一通り出せた
ムクドリ [sage] 2010/12/24(金) 16:47:38:PUWbeYEz
殺し合いが始まってから、五回目の夕日が今まさに沈もうとしていた。
カツオは一人街角の空き地で自分の長い長い影を見ながら佇んでいた。
今日は一日中桜井マホの行方を捜していたが、何の手がかりも得られず、途方に暮れていた時に町内の掲示板が目に入った。
そこには町内有志によって調べられた町内の死亡確認者の一覧が張り出されており、その中には桜井の名前も記されていた。
散々走り回って疲弊していたカツオはそれを見て一気に全身の力が抜けた。
気がつくとここに来ていた。
かつて中島や橋本、西原らと一緒に草野球やサッカーを楽しんだ空き地。しかし今は誰も寄り付かないさびしい場所になり果てた。

(父さん……僕たちはそんなに、悪いことをしたのかなあ……)

橋本、カオリ、ノリスケおじさん、タラちゃん、タマたちはみんな命を落とし。
中島は殺人に走り。
そして―――

「あらカツオ、こんなところにいたの?」
カツオの姿を見つけたサザエは無遠慮に歩み寄る。
「どこ行ってたのよ、もう夕飯の時間よ」
聞き分けのない弟を諭すいつもの口調で、カツオを連れ帰ろうとする。
「姉さん、まだ目が覚めないの?」
「あら何よカツオ、そんな元気の無い顔をして珍しいわねえ」
サザエはそれだけ行って、買い物籠を手にさっさと帰ろうとする。
「姉さんわかってる? 家に帰ったってもうタラちゃんはいないんだよ?」
「何言ってるのよ、タラちゃんならさっきお昼寝してたわよ」
いつもはカツオの風刺めいた言い草にムキになって怒るサザエは、淡々と振り返りもせずにそう言った。
愉快で明るい姉の姿はそこには無く、ただ息子の死も殺し合いも無かったという幻想だけを見続ける弱い人間がそこにいるだけだった。
ムクドリ [sage] 2010/12/24(金) 16:49:29:PUWbeYEz
「どうしたのよカツオ、なんか様子が変よ?」
「……父さんって酷いよね。僕の大切なもの、全部、奪っていったんだ」
カツオは顔を上げて、サザエのあとを追って歩き始める。
口うるさく、目ざとく、でもどこか抜けていて、調子が良くて、誰とでもすぐに打ち解けて仲良くなる姉が大好きだった。
こんなのは僕の好きな姉じゃない。
だったら、一層のこと―――

一時間ほど前に、ワカメから「これはお母さんからよ」と言って巾着袋を渡された。
中には包丁が入っていた。おそらくは護身用にと持たせてくれたものだろう。
カツオはその柄に手をかけた。

やめろよ。そんなことをしたらカオリちゃんや橋本やノリスケおじさんを殺した連中と同じになるんだぞ?
中島を止める資格すらもなくなってしまうんだぞ?

いや……姉さんのことを考えたらこれこそが一番いい手なんじゃないか?
こんな状態で生きていても生きているなんていえやしない。
姉さんにとってもこうするのが一番いいんだ。

自分がサザエの背中に刃を立てる場面を想像する。
うまくできない。
いいや、余計なことは考えずにただ刺すことを考えろ。
しかし仮にも大人と子供、上手く行くのか?
いいや、やる。やるしかないんだ……
ムクドリ [sage] 2010/12/24(金) 16:50:36:PUWbeYEz
「あら見てカツオ、電線のところにムクドリがとまってるわよ」
「え?」
顔を上げてみると、確かに三羽のムクドリがとまっていた。
大きなムクドリが一羽と、小さなムクドリが二羽だ。まるで家族のように、寄り添うようにとまっている。

「ねえカツオ、知ってた? ムクドリって、生まれたヒナが自分よりも後で生まれたヒナの子育てを親鳥と一緒になって手伝うんだって。
まるで私たちみたいね」

やがてムクドリが羽ばたいた。小さな二羽のムクドリは、大きなムクドリの後を懸命に追いかけていく。

「先に生まれたヒナは、自分の弟や妹たちにエサをあげたり毛づくろいをしてあげたりして大変なのよ。
私だってカツオとワカメの世話は大変だったんだから、もっと感謝しなさいよね」

そう言ってサザエは得意顔で胸を張った。

「なんだよ、そんなの……どうせ、テレビか何かで見て……覚えただけなんじゃ……」
「あら、どうしたのよカツオ? 急に泣き出すなんて変な子ねえ」

怪訝な顔をするサザエの前で、カツオはひたすらに嗚咽を上げながら、零れ落ちる涙を拭い続けた。


【5日目・午後六時】
ムクドリ [sage] 2010/12/24(金) 16:51:56:PUWbeYEz
【空き地】

【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……

【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・タラオ、ノリスケ、中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる
参加するカモさん [] 2011/01/01(土) 16:57:35:1ZxymtCC




続き楽しみにしてるぜw
良いお年を。
棟梁の最高傑作 [sage] 2011/01/15(土) 13:18:43:vVvltOGx
「本当に、もう行くと言うんですね?」
「ああ。世話になったな」
朝日の差し込む病院の中。麻雀医師の問いかけに、警官は力強くうなずいた。
「本当だったら、あと一週間は入院していただくところなんですけどね」
「そうもいかない。こうしている間にも次々に市民が命を落としているのだからな」
腕にはギプスを嵌めたままで、松葉杖が無ければ歩くこともままならない。
それでも警官はこれ以上立ち止まることを拒否した。
「先生、私からもお礼を言います。ありがとうございました」
警官の荷物を変わりに持った泥棒が頭を下げる。
「あなたの荷物は本当にここにおいていていいのですか? 私としては全くかまいませんが」
「ええ、あっしはおまわりさんの分の荷物を持つだけで精一杯ですし。ここにもちょくちょく戻ってこさせてもらいますんで、
残りの荷物はその時にでも」
「左様ですか。では、是非またお互い無事のままお会いしましょう」
「へい」
「無論ですとも」
三人は互いの顔を見てうなずきあった。
「その時には、今度こそ麻雀にお付き合いいただきたいですな」
「いやあ、あっしは盗みも賭け事も苦手で……」
別れを惜しみながらそんなことを話していると、不意に麻雀医師が診察室のほうを振り向いた。
「今、何か物音がしたような……」
「そうですかい? あっしには何も……」
警官も何も聞こえなかったらしく、首を捻っている。
「まあ私の気のせいかもしれません。それでは、どうかお元気で」
「へい、先生も」
名残を惜しみつつも、警官と泥棒は病院を後にした。
棟梁の最高傑作 [sage] 2011/01/15(土) 13:19:58:vVvltOGx
松葉杖を片手で使ってどうにか歩きながら、警官がつぶやくように言った。
「案外と信用できそうな男だな」
「あのお医者さんがですかい?」
「いや、お前だよ」
泥棒は驚いて思わず歩調を緩めた。
「お前は本官が寝ていてあの医師も留守にしている好きに、本官の荷物を持ち逃げすることだってできたはずだ。
いや、本官と医師を殺して全てを奪って逃げることだって……」
「そ、そんなおっかねえ真似があっしにできるもんですか!? 滅相もない!?」
本気で怯えた顔をする泥棒を見て、思わず警官は噴出してしまう。こんなヤツでもこの町では一番の悪人なのだと思うとおかしい。
もちろん、この殺し合いの主催者を除けばの話だが。
「お前は昔からそんな奴だったよ。何度もわざわざ同じ家に入って捕まったり、そのくせ人だけは傷つけない。
けしからん奴なんだか殊勝と言うべきなんだか……」
「へへ、これだけお巡りさんへの心証が良かったら情状酌量の期待も……あっ!!」
「どうした、何か忘れ物か?」
「お巡りさんの拳銃っすよ!! うっかりあっしの荷物と一緒にしていたせいで、持ってくるのを忘れちまいました。
物が物ですから早く取りに……」

次の瞬間。
爆音と地響きに腰を抜かした二人が急ぎ振り向いてみると、さっきまで自分たちがいた病院が一体の巨大なロボットの手によって完全に崩壊させられていた。


「うん、なかなかいい調子だ!! 三日で造ったにしては上出来だろう」
二階建ての建物ほどある巨大なロボットの操縦席に座るのは、このロボットの設計・製作者、大工の棟梁。
長年家の建築に携わり、木材の性質の全てを知り尽くしていた棟梁にとっては、木材で巨大ロボットを作ることなど造作もないことだった。
材料の木材は花沢不動産に調達してもらった。
その見返りとして花沢不動産側から求められたのは、この町内にあり、花沢不動産が取り扱う家以外で棟梁が建築に携わった家の設計図の提出。
花沢家はそれを利用してあくどいことをしようとしているようだったが、棟梁の興味の及ぶところでは無かった。
「さあ、ジミー。このロボットを使ってお前を守ってやるからな!!」
棟梁の威勢のいい声に合わせるように、ロボットは二本の腕を振り上げ、最後の仕上げとばかりに両の拳で病院を叩き潰した。
棟梁の最高傑作 [sage] 2011/01/15(土) 13:20:46:vVvltOGx
「よし、強度も問題ねえな。じゃあ次はスーパーでも潰すか」
民家は出来るだけ壊さないでくれと花沢不動産側には言われているが、棟梁が標的に考えているのは病院や店などの公共施設だ。
それらの場所が機能しなくなれば住人全員に致命的な影響が出るため、ゲームに乗っている人間の間でもこれらの場所を攻撃するのは
避けるというような不文律めいたものがあった。
しかし、独自の物資調達ルートを持つ花沢不動産がバックについているとなれば話は別だ。
自分は物資の不足などに怯えることなく破壊活動を行うことができる。

だが、足からジェットを出して飛行体制に入ろうとした棟梁の胸に激しい痛みが走った。
それにわずかに遅れて聞こえる破裂音のような音。
狙撃されたのだ、と気付いたのと、操縦桿から指が離れて操縦席の床に頭を叩きつけるのとは同時だった。
(ジ……ミー……)
最愛の弟子の名を思いながら、棟梁は自分の建てた家が並ぶ町の中で事切れた。


「いたたたた……」
地面にうずくまって手首を押さえるのはホリカワ。
その傍らには一丁の拳銃。
小学生の腕力では持ち上げるのもやっとで、撃ってみたら反動で手首が壊れるかと思った。
実際にひびくらいは入っているのかもしれない。
そんな状態で撃った一発が棟梁の胸を貫いたのは、まさに偶然の産物だとしか言いようが無い。
「いてて……そ、そうだ!! ボクはツイてるんだ!!」
たまたま忍び込んだ病院で拳銃を手に入れ、病院から逃げ出したその直後に今度はロボットを手に入れるとは、なんという幸運だろう。
例え手首を壊していようが十分におつりが来る。
「そうさ、このロボットもボクのものなんだ!! ボクはこれで必ずワカメちゃんを守ってみせる!!」
棟梁の最高傑作 [sage] 2011/01/15(土) 13:21:50:vVvltOGx
「先生!! 先生!!」
わずかな時間の間に瓦礫の山と化してしまった病院の跡地で、必死に医師を探す泥棒。
その傍らで、警官はギプスのせいで瓦礫をどかせることもできずに、松葉杖を放り出して呆然と座り込んでいた。
(あの時、あの物音に本官も気付いていれば……本官も一緒に確認しにいっていれば……
本官がもう少しでも長く、ここに留まっていれば……)
医師を探す泥棒の声すら、警官には遠すぎて聞こえなかった。


【6日目 午前10時】
【麻雀医師の病院】

【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1・深い後悔

【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官に従う
棟梁の最高傑作 [sage] 2011/01/15(土) 13:22:49:vVvltOGx
【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る

【大工の棟梁  死亡確認】
【麻雀医師 死亡確認】(名簿外)
伊佐坂難物のため息 [sage] 2011/01/15(土) 13:25:44:vVvltOGx
「私と主人が、結婚二十年目に記念に行ったお店の名前は?」
「お父さんが、中学校の入学式の日に私に買ってくれたものは?」
昨晩の帰宅直後から、わずかな睡眠の時間を挟んで延々と続く妻と娘からの質問。
少女の姿となった伊佐坂難物は、その問いに淀みなく矢継ぎ早に答えていく。
そのため、最初は全く信じていなかった二人も、目の前の少女が伊佐坂難物であるということを認めざるを得なくなりつつあった。
「ここまで正確に答えられるってことは、やっぱり本当にお父さんなの?」
「最初からそう言っているだろうに」
「喋り方はクセはあの人そのものだし……ああやだやだ、ただでさえひどいことが起こっている最中にこんなことが起きるなんて」
オカルは顔を手で覆ってふらふらと立ち上がった。
「少し寝させてもらいます。そうしないと頭がもたないわ」
幽鬼のような足取りで部屋に引っ込んでいくオカルの背中に、さて何と声をかけたものかと思っていると、ウキエが
「お父さん、コーヒーでも飲む?」
と尋ねた。
「いや、今はいい」
「そう。あと、もうお酒はダメよ。中身はお父さんに違いないとしても、体は子供なんだから」
「やれやれ、また十年かそこら待たないといけないというわけか。それにしても甚六は何をしとるんだ、いつまでも部屋に引きこもって」
「精神的に参ってるんじゃないかしら。状況が状況なんだもの、ムリもないわよ。
あとで朝ごはんを部屋に持っていくから心配しないで」
そういい残すと、彼女も自分の部屋へと戻っていった。
二人とも、かなり動揺はしているがなんとか事実を受け入れたみたいだ。難物はそれだけでずいぶん救われた気がした。
伊佐坂難物のため息 [sage] 2011/01/15(土) 13:28:08:vVvltOGx
甚六も心配だが、精神的に参っているのなら今の自分が顔を見せるのは得策では無いだろう。
庭を見てみると、殺し合いが始まって以来ずっと変わらない、気持ちのいい快晴だった。
窓に映る自分の姿を見ながら考える。どうしてこんなことになったのか。
あの時、自分は確かに死んだと確信した。ビール瓶で頭を砕かれる感触を今でも思い出すことができる。
ならば自分は今、死後の世界で夢を見ているのだろうか? そのほうがいくらかマシかもしれない。
庭ではハチが寝ころがっていた。難物が庭に下りると、ハチは起き上がって難物の足元にまとわりついてきた。
「そうか、お前は私のことをわかってくれるか」
難物はしゃがんでハチの頭を撫でた。小さかったハチが、この体だとずいぶん大きく感じられる。
その時、突如ハチの様子が、外敵を警戒するそれに変わった。
ハチがうなり声を上げてにらみつける先を見ると、
「伊佐坂さんですね?」
見知らぬ少女が立っていた。
「いや、そんな姿でもあなたは伊佐坂難物さんのはずだ」
驚愕のあまり二の句が告げない難物の変わりに、少女は難物の知りたいことを口にした。
「まずは自己紹介からいきましょうか。私は、このお隣の家のカツオくんとワカメちゃんも通う学校の校長です。
そして見ての通り、この殺し合いの中で自分の体を失った、あなたの同類です」
伊佐坂難物のため息 [sage] 2011/01/15(土) 13:29:41:vVvltOGx
【六日目 午前10時】
【伊佐坂家】

【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・校長に若干の警戒心

【伊佐坂オカル】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・ちょっとパニック

【伊佐坂ウキエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・ちょっとパニック
伊佐坂難物のため息 [sage] 2011/01/15(土) 14:10:44:vVvltOGx

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:不明

【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る
それでも君が [sage] 2011/01/15(土) 14:12:27:vVvltOGx
正午、本来であればマスオは会社にいるはずの時間だった。
その必要が無くなった今では、この時間は家族で食卓を囲む時間になっていた。
だが、家族といってもそこにいるのはフネとサザエの二人のみ。
学校に行っているカツオとワカメはもとより、本来ならいるべき波平、タラオ、タマの姿も無かった。
「ねえあなた、さっきサブちゃんが来てなかった?」
そんな家族の足りない食卓に何の疑問も感じていないサザエがマスオに尋ねた。
「そうだったかい?」
「おもてにサブちゃんのバイクが停まってたと思うんだけど」
「気のせいだと思うよ」
サザエは家族の死と殺し合いという現実を認識していないが、その他のことに対する判断力はいささかも曇っていない。
これは気をつけないとな、と思いながらマスオは味噌汁をすすった。


フネとサザエがいなくなった後も、マスオは居間に残ってさっきのサブの言葉を考えていた。
突如マスオの元を訪れたサブの語った内容は、にわかには信じがたいものだった。
三河屋の店主との口論で激高した末に誤って伊佐坂先生を殺してしまったが、すぐにヘリに乗った男たちがやってきて伊佐坂の遺体を回収してしまったという。
実際マスオの調べでは同時刻に町ではヘリが目撃されており、あながちサブの話をデタラメと片付けるわけにもいかないが、
今まで死亡者の遺体を波平側が回収したという情報は無く、この話をどう考えていいものかマスオは悩んでいた。
さらに調査すると、同様のケースがもう一件だけあった。
カツオたちの通う学校の校長の場合がそれで、こちらもワカメの担任教師との激しい口論の末に殺害されてしまったのだが、
加害者が少し目を話した隙に死体が消えてしまったのだという。
こちらは波平側が死体を処分するところが目撃されたわけでは無いが、状況的に他の人間の手によるものだとは考えにくい。
それでも君が [sage] 2011/01/15(土) 14:13:10:vVvltOGx
果たして伊佐坂先生と校長の間にどんな共通点があるのか、大いに疑問なところだが今のところは考えてもわかりそうにない。
(しかし、死体が消えた話は置いとくとしても、三郎くんにも困ったものだな)
マスオは勝手な判断で計画外の殺人を行おうとしたサブのことを憂慮した。
一歩間違えればマスオの目論見が完全に瓦解していたであろう事態だ。
サブだけに情報収集役を任せるのはリスクが高いというべきだろう。しかし今になって他の人間を探せるのだろうか。
(全く、どうしてこうも次から次へと厄介ごとが増えるんだあ?)
サブのこと。伊佐坂先生や校長のこと。他の殺人者のこと。サザエのこと。カツオやワカメやフネのこと。
これらの問題が複雑に絡み合いながらマスオの双肩にのしかかる。
マスオとしては防衛戦としての殺し合い参加に平行して波平の本心を探るということも行いたかったが、これではとてもそこまで手が回りそうに無い。
相談できる相手など誰もいない。全て、自分がどうにかしなければ。


一体どれだけの時間、そうしていただろう。
同じ問題を何回も何回も考え続けて、もう目が回りそうだった。
その時、目の前に盆に乗ったビールの瓶とグラスが置かれた。
「お義母さん……」
「何かひどくお考えのようですけど、一息入れられてはどうですか?」
「でも、こんな昼間っから……」
「たまにはいいじゃありませんか」
そう言って微笑むフネの顔には、一遍の思惑すらも感じられなかった。
「本当ならこれはサザエの役目なんですけど、サザエはあの調子ですからねえ」
「本当に、いいんですか?」
「ええ、お父さんがいないせいでなかなかビールが減らなくて困っていたところでもありますし」
「それでは、遠慮なくいただきます」
思わず顔が綻んだ。
ふと気付いた。こんなに自然に笑ったのは何日ぶりだろう、と。
「その代わり、マスオさん」
「はい、なんでしょうか?」
「みんなのこと、本当にくれぐれもお願いしますね」
それでも君が [sage] 2011/01/15(土) 14:14:20:vVvltOGx
その時の彼女の笑顔は、辛いことも受け入れられないこともすべて飲み込んだ上での優しさを湛えているような気がした。
マスオは思わず息を呑んだが、それ以上は考えずにビール瓶の栓を開けた。

【六日目・午前12時】
【磯野家】

【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上
2・サブに代わる手駒を探す

【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・家族を守る
名無しでいいとも!@放送中は実況板で [sage] 2011/02/01(火) 23:13:36:suAaya96
久々に来たら進んでたw
参加するカモさん [] 2011/02/04(金) 13:37:10:VMdH3q8M



久しぶりの続きキボンヌ
名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2011/02/22(火) 02:03:21.81:BfkKtyBz
age
参加するカモさん [] 2011/03/03(木) 22:22:18.95:sLyGaANI
支援
参加するカモさん [] 2011/03/16(水) 14:56:56.55:MecQqW1k
C
可愛い奥様 [] 2011/03/18(金) 14:25:29.05:LpFtHw/p
支援
参加するカモさん [] 2011/04/16(土) 15:19:31.02:PyJ0QOTl
スレ主来ないな〜
地震あったから心配だが無事でいてくれ
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:25:32.02:/MlOGPwy
「ほーらお兄ちゃん、起きないとまた姉さんに叱られるわよ」

朝一番に毎日聞く、妹のからかうような声。それを聞いてしぶしぶながら眠い目を擦る。

「うーん……わかったよ」

しぶしぶ居間に向かうと、母さんや姉さん、それに父さんやマスオ兄さんも揃っていて、

「なんだカツオ、こんな時間まで寝ておったのか」
「急がないと遅刻しちゃうよ」

なんて言葉を眠い耳で聞き流しながら母さんの作ったご飯を食べて……


「ねえカツオ、タラちゃんを見なかった?」


そう、そのちゃぶ台にはタラちゃんも座ってて、「カツオ兄ちゃんはボクよりお寝坊ですー」なんてちょっぴり生意気なことを言ったりして……その横にはタマもいて……
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:25:56.61:/MlOGPwy
「ねえカツオ、聞いてるの? ノリスケさんちに行ってるのかと思って電話してみたけど、お留守なのか誰も出ないし」


そして学校に行けば、中島や橋本や西原、そしてカオリちゃんたちもいて……
そんな暢気で平和な世界で、ずっと生きていくんだ。


「ところでカツオ、今日のおやつは何がいい? たまにはリクエストを聞いてあげるわよ?」


ああ、僕だってわかってるさ。そんな生活はもう、二度と戻っては来ないんだってことくらいは。
だから姉さん、お願いだからやめてくれよ。
父さんが殺し合いなんか起こさなかった、かのように振舞うのは。

姉さんがそんなんだと、僕はどこにも、逃げ場所なんか無いじゃないか。


「何よカツオ、返事もしないなんて変な子ねえ」


僕はたまらずに、居間から逃げ出した。
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:27:07.25:/MlOGPwy
姉さんがたとえどんな人間になったって、僕はずっと傍にいる。ずっと守ってみせる。
そう決意したとは言っても、正直言ってきついものがある。
僕もただの小学生だ。家族や親族の相次ぐ死と、姉さんの異常とを同時にまともに受け止めれるほど強くなんかない。
おかげで中島を探すという当初の目的は、全然進んでいない。今は外に出る気力すら無いのだ。

「お兄ちゃん、顔色悪いわよ」

子供部屋に戻ると、ワカメが僕の顔を見るなりそう言った。
そういうワカメだってずいぶんとやつれたように見える。

「そりゃまあね……うちも随分と寂しくなったもんだよなあ」
「うん……そうよね。タラちゃんもタマもいなくなっちゃったし、ノリスケおじさんも……」

ワカメはそこで言葉を切ると、自分の席に座って僕に背を向けた。なので僕もそれ以上は話しかけないことにした。今は誰としゃべるのも少し辛い。

「ねえ、お兄ちゃん」

僕に背を向けたまま、ワカメが徐に口を開いた。

「もし、もしもの話よ?」
「なんだよワカメ?」
「もし……私が、人を殺したらどうする?」

ああ、もう。
なんでそんなバカなことを聞くんだ、この妹は。

「ワカメ」

そんなことを聞かれたら、こう答えるしかないじゃないか。
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:27:35.64:/MlOGPwy
「例えワカメが人殺しをしようが、どんな悪いことをしようが、僕はずっとワカメの味方だから。
僕は磯野家の長男なんだから、ずっとみんなの味方になるんだ」

守るって決めたんだ。
姉さんも、ワカメも、母さんやマスオ兄さん、それに中島も。
そして、父さんも。
たとえ世間が誰も許さなくたって、僕がみんなを許して守るんだ。


「……そっか。ありがとう、お兄ちゃん」
「家族なんだから当然じゃないか」

僕は照れくさしにあくびをした。
ワカメの声が震えてたように聞えたけど、気のせいだよな。


【六日目・午前3】
【磯野家】

【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:28:16.07:/MlOGPwy
【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる

【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する
きみのためにできること [sage] 2011/05/15(日) 00:29:23.21:/MlOGPwy


ごめん、ただネタが浮かばなかっただけだったり……
心配かけて申し訳ない;
名乗る程の者ではござらん [sage] 2011/05/15(日) 00:37:01.69:dpOzBQEm
続きキタ
乙です
参加するカモさん [sage] 2011/05/17(火) 07:30:02.74:lBzzqnyB
作者さんの生存を確認!
作者の独り言 [sage] 2011/05/29(日) 19:06:48.38:A5hUwVuA
本編にジミーが久々に登場して正直ほっとしたw
名簿に入れて良かったかどうか不安だったので
(まあそれ言ったら全自動卵割り器とかどうなんだって話だが)
参加するカモさん [] 2011/06/15(水) 02:05:02.21:UT6qWXSt
久々に見たらスレ主来てたw
マターリと続き楽しみしてるよw
オレオレ!オレだよ、名無しだよ!! [] 2011/07/17(日) 17:39:14.52:IGYhpAsL
保守
参加するカモさん [] 2011/08/21(日) 23:47:04.81:Rjigln6k
ぬるぽ
参加するカモさん [sage] 2011/09/20(火) 03:14:33.02:sSUyzK4Q
保守
ゲーム好き名無しさん [sage] 2011/10/11(火) 01:40:05.22:r3Ov2iD/
ぬるぽ
参加するカモさん [] 2011/11/04(金) 01:25:31.72:LrC0KSjm
スレ主は元気かな
ゲーム好き名無しさん [sage] 2011/11/21(月) 22:41:02.41:3Ii+ZQww
生きてたらいいけどな
交差点 [sage] 2011/12/01(木) 00:25:05.49:2OsAZw2T
「まったく……おかしな客だったな」

店じまいを終えたがんこ亭店主は、店の椅子に腰を下ろしてため息をついた。
今日来た客は結局あの二人組だけ。まあこんな時にわざわざ外食をしたいと考える人間が少ないのは当然だが。
それにしてもあの二人組の様子は常軌を逸していた。
片や自分の娘に人目もはばからず欲情している下衆、もう片方は一見おとなしそうな少女に見えたが……
「ありゃあどうみても男だなあ」
本質を見抜く男、がんこ亭店主の目はごまかされ無かった。
あの二人が一体何を企んでいるのかは知る由も無いが、ロクなことでないのはおそらく間違いない。
「まあ、関わらなければどうってこともないだろうが」

がんこ亭店主は、殺し合いだのなんだのという話には何の興味も無かった。
ただ自分の役目はここでこの店を切り盛りしていくことだけ。
他の連中が何をしていようが、関心の及ぶところでは無い。

ただ、一人だけがんこ亭店主がわずかながらも気に留めている存在があった。
全くの偶然から出会った、全自動卵割器。
ただのなりゆきで家につれて帰った(とがんこ亭店主は思っている)が、何かが原因で心に深い傷を負っていると思われる彼に対して、出来ることが何もないわけでもないと思っている。

(まあ、色々考えるのは後にして、とりあえずは明日のための仕込みだな)

毎日の日課に戻ろうとしたがんこ亭店主だったが、その時に店のドアの外の人影に気がついた。
本日閉店の札は出しているはずだが、立ち去ろうとする気配がない。ただの客ではないらしかった。

「どうした、用か?」

声をかけると、外にいた人物は意を決したように店の中に入ってきた。
それは一疋の犬だった。
交差点 [sage] 2011/12/01(木) 00:26:05.71:2OsAZw2T

「もう店じまいは終わったそうだが……」
「ああ。だが、客じゃないなら入ってきても悪い道理はあるまい」
そう告げると、犬はやけに愉快そうに笑った。

「こんなナリだが、これでもこの殺し合いの参加者の一人でな。ちょっとした取引を持ちかけさせに貰いに来た。もっとも、正規の参加者ではないあんたには乗る義理なんかこれっぽっちも無いわけだが……」
「そうかどうか決めるのは、話を聞いてからだな」

そう言って、がんこ亭店主が店の椅子の一つに腰掛けたちょうどその時。
激しい地響き、雷鳴のような轟音、皮膚もつんざくような衝撃波、それらが一片に襲ってきた。
店のドアを突き破って、一台のバスが店内に突っ込んできたのだ。
瓦礫が舞い落ち、椅子や机の上の調味料が床の上に無残に散乱する。
そしてバスの運転席に座る男と機械は、冷徹な笑みを浮かべていた。
交差点 [sage] 2011/12/01(木) 00:27:25.11:2OsAZw2T
【六日目・午後十時】

【がんこ亭店主】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・殺し合い中でも変わらず店を開ける
1:目の前の状況に対処。べ、別に店を守りたいだけなんだからね!!
2:全自動卵割り機を保護する。べ、別にただ怪我をしてるのに放っておけないだけなんだからね!!

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:不明
交差点 [sage] 2011/12/01(木) 00:27:55.17:2OsAZw2T
【アナゴ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:いつもは毎朝マスオや波平を乗せているバス
思考:
1・マスオ以外の参加者を皆殺しにする
2・今はグルグルダシトールと共闘
3・がんこ亭を制圧する


【グルグルダシトール】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・ノリスケの行方を捜しつつ、他の参加者を殺す
1・今はアナゴと共闘する
2・がんこ亭を制圧する
参加するカモさん [sage] 2011/12/02(金) 09:27:18.14:cUhnn4CY
待ってたよ!
参加するカモさん [] 2011/12/05(月) 20:33:00.61:F6M0NxzM
乙、続き楽しみにしてるよ
名無しさん@いい湯だな [sage] 2012/02/03(金) 03:55:09.92:M69jfLEJ
関係ないキャラ参加しすぎだろ。
参加するカモさん [] 2012/02/04(土) 18:27:08.75:UJJqppbZ
スレ主は元気にしてるかの〜
名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2012/03/03(土) 18:19:12.70:YwLxMVQ1
ほしゅ
参加するカモさん [] 2012/03/26(月) 22:36:39.63:pu2iPvhI
支援
可愛い奥様 [] 2012/03/31(土) 17:09:44.45:DXNmSoxR
あげ
地下世界の王 [sage] 2012/03/31(土) 17:14:59.44:dugtLwqo
腕時計を見ると、予想通り、もう六日目も終わりを迎えようとしていた。
地下道に潜伏してすでに数日が経っており、太陽がおがめないせいでさっぱりだった体内時計も少しずつ機能し始めたらしい。
ついでに、最初は閉口するばかりだった地下道の異臭も、ねばつくような湿気も、すっかり慣れてしまった。

(全く、住めば都とは良く言ったもんだなあ)

課長はため息をつく。

地上で集めた情報によれば、彼の部下のアナゴとマスオはまだ無事――かどうかはともかく命だけはあるようだが、すでにマスオの家族には犠牲が出ている。
おそらくは安全圏にいるであろう自分の妻子よりも、むしろ彼らのほうが今は気にかかった。

マスオとアナゴは、社内でも特に中のいい同期である。
控えめで人に付け入られやすいが、その分人あたりのいいマスオと、ずうずうしさが服を着たような食えない男ながらも行動力は人一倍のアナゴは彼から見てもいいコンビだ。

(なんとかして、もう一度彼らと働きたいものだが・・・・・・)

湿ったコンクリートの上に腰を下ろして、ここ最近の取引について回想する。
うっかりすると、家族と引き離されてはいない彼らのことが羨ましく思えてしまうことすらある。
殺し合いの場に家族がいるよりも、いないほうがずっと幸運であるはずなのに。
どうもこんなところに潜んでいると、考え方まで汚水の匂いに蝕まれてしまいそうになる。
おまけにここ数日、ほとんど誰ともまともに口を聞いていないときている。

(鉄仮面? 岩窟王? そんなガラでも無いか)

気を取り直して、今日の寝床――雨水が流れ込んできても濡れないであろう安全な場所を探そうと立ち上がった時だった。
頭上で、鉄球を激しくぶつけたかのような轟音と振動がした。
地下世界の王 [sage] 2012/03/31(土) 17:15:57.26:dugtLwqo
「殺し合い」などという異常事態にも関わらず律儀に明かりを灯し続けている街灯の間を、一人の少女が脇目も振らずに走り抜けていた。
その後からは、小山のような見慣れぬ物体が地響きを立てて迫ってくる。
それは、棟梁が五日の時間を費やして完成させた木造のロボット兵器だった。
しかしコックピットに座るのは棟梁ではなく、棟梁を射殺しロボットを奪ったホリカワである。
その挙動は遠目に見ても、行き当たりばったりの無計画なものだった。
家、電柱、街灯など手に触れた全てをとりあえず破壊し尽くしてはいるが、動作は無駄と隙だらけで真っ直ぐに進むことすらもままならない。
本当にリカを標的にしているのかどうかすらも判然としなかったが、しかしリカの目には、何よりもその巨体だけでそれは十分な脅威に映った。
それだけではない。このような騒ぎに、殺し合いの他の参加者たちが気付かないわけはない。
もし彼らがここに集まってきて、その中の誰かに見つかったら、戦力の無い自分などは圧倒的に不利だ。

「こっち、こっちだ!!」

悪い予感が的中したのかと思い心臓が跳ね上がった。
振向くと、薄汚れた背広を着た中年の男性が手招きしていた。面識は無い男だ。
信用するか、しないか。
迷うのは命取りだと知りながらも、即座に決断できないのは幼さ故だった。
ロボットの足音がこちらに迫ってくる。
恐怖と逡巡により動けなくなっていたリカの体を、疾走してきた部長が抱き上げた。
ロボットはリカを見失ったのか、ピタリと動きを止めた。
その間に、部長はリカを抱えたままマンホールの中へと飛び込んだ。


【六日目・午後十一時】
【下水道】
地下世界の王 [sage] 2012/03/31(土) 17:16:56.04:dugtLwqo
【部長】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・しばらくは地下に潜伏して様子見
1・リカを保護する
2・部下のマスオとアナゴが心配

【リカ】
状態:健康
装備:無し
武装:無し
思考:基本・この殺し合いの「主役」になる

【町の南部】
【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る
参加するカモさん [sage] 2012/03/31(土) 17:23:06.87:dugtLwqo
名簿外キャラも出したいキャラはほぼ出し尽くしたので(あとはヤカマシさんとフネの地元の住職、波平の幼馴染くらいだけど
この人たちは外部勢力向きかなと思うので)今後はどんどん削っていきます
名無しさん@お腹いっぱい。 [] 2012/04/01(日) 16:54:44.53:DarYC2MW
新作キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
投下乙
例えばトイレをどうするかという問題 [sage] 2012/04/03(火) 14:49:21.55:chA2EBJm
伊佐坂家の応接間は、本来であれば老いた作家と中年の編集者が向き合って座り、打ち合わせなどをするための空間である。
しかしこの夜、そこに座っていたのは普段とは随分と違う面子だった。
一人は丈の短い和服を着た少女。
もう一人は、どこで売っているのかもわからない、子供サイズのグレーのスーツを着たやはり少女である。
二人とも顔立ちは人目を惹くほどに整っているが、居住まいや仕草は明らかに子供のものではなく、歳を経た老人のそれである。
そしてその小さな口から出る言葉も、やはり見た目の印象を裏切るものであった。

「つまり、校長先生も私と同じような状況で、というわけですか?」

口を開いたのは和服姿の少女――の姿をした、伊佐坂難物その人である。声と顔は幼女でも抑揚は老人なのでとても違和感がある。
しかし対談相手はそんなことを気にしなかった。

「ええ、私はてっきり自分はもう死んだと思っていました。まさかこんなことになるとは・・・・・」

スーツ姿の少女がそれに応える。
やはり子供らしからぬ口調だが、同じ老人めいた口調でも、やや神経質そうな響きのある伊佐坂とは違って鷹揚さが垣間見える。
その正体はかもめ第三小学校の校長。全生徒の氏名と顔だけでなく、その父兄まで覚えているという模範的教育者である。
彼がいささかに語った内容を要約すると、彼は自分の学校の校長室で何者かにコーヒーに毒を入れられるか何かして死亡したらしい。
とにかく、コーヒーを一口含んだ瞬間に彼は気を失い、次に目が覚めた時は今の姿になっていたというのだ。
事切れた自分自身の肉体はその時すでに校長室から消えうせていた。おそらく波平側が手を回したのだろう。

(それにしても・・・・・・)
例えばトイレをどうするかという問題 [sage] 2012/04/03(火) 14:50:23.49:chA2EBJm
伊佐坂は考える。こうして第三者的な立場で聞いてみてもあまりにも荒唐無稽な話である。
もし自分自身がその当事者で無かったら到底信じることなど出来なかっただろう。
事実は小説より奇なり、か。しかし今の自分がその言葉を使うと、色々とシャレにならない。

「しかし、弱りましたねえ」

校長はため息をついてみせた。

「私と同じ目に遭ったと聞き、伊佐坂先生と話してみたら何かわかるのではないかと思ったのですが・・・・・・」

前の体の時についたクセなのだろうが、しきりにハンカチで額を拭いている。

「校長先生は、この後どうされるのですか?」

伊佐坂の問いに、校長は苦い顔で答える。

「私は何があってもわが校の教職員、および生徒を守る必要があります。
しかし、この姿で出て行って他の教職員に私が校長だとわかってもらうのは骨ですし、それに・・・・・・」
「自分を殺害しようとした誰かに、まだ自分が生きていることを知られてしまう」

校長はうなずいた。
それはもちろん、伊佐坂自身の問題でもある。

「幸い、明日明後日は土日です。その間にどうにかして学校へ潜り込む方法を考えますよ」
「校長先生、もし良かったら今日はうちに泊まっていきませんか? その・・・・・・女の子が一人というのは危険ですし」
「ありがとうございます。しかしその前に寄らないといけないところが・・・・・・」

その時、机の上に並んでいた二人分の湯のみが倒れた。
振動に伊佐坂は腰を抜かし、校長は立ち上がってカーテンを開いた。
窓の外、月の下、木製の巨大ロボットが街灯を揺らしながら歩いていた。
例えばトイレをどうするかという問題 [sage] 2012/04/03(火) 14:51:11.00:chA2EBJm
【六日目・午後十二時】
【伊佐坂家】

【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・動揺

【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る、生徒と教職員を守る
1・ロボットの正体を探る

【磯野家周辺】
【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る
僕たちは家族を守りたかった [sage] 2012/04/30(月) 15:30:18.00:J/L0O84y
今の磯野家の中には、日常と非日常が同居していた。
殺し合いが始まる前と全く同じ生活を送ろうとする、サザエ。
「父さんとタラちゃんは一体どこに行っちゃったのかしら、それにタイコさんに電話しても出ないし」
などと言いつつも家事や買い物をこなす。
彼女に自覚できる変化と言えば、カツオがイタズラをめっきりしなくなったことだった。

「なんか最近不気味なくらい大人しいわよねえ、逆に気味が悪いわ」
カツオの顔を見るたびに、そんなことを言う。
カツオは軽口を二、三言返すくらいで、そんな態度がサザエの疑念をますます膨らませるのだが、しかしそれ以上は追求されなかった。
そして六日目のこの日も、サザエは晩御飯の後片付けを機械的に済ませ、マスオに「タラちゃんをお風呂に入れて」と頼んだ。
自分が風呂から上がった後で、
「タラちゃん、どこなの?」
と家中を探し回る。しかしいつものように、マスオが
「僕が探しておくから、君は先に休みなよ」
と、サザエを寝かしつけた。

カツオは自分の無力さを一日経つごとに強く感じていた。
連日学校もほとんどサボりながら中島や花沢の行方を捜しているのだが、一向に手がかりも見つからない。
前回の波平の放送では名前を呼ばれなかったのだが、すでにあれから丸一日以上経っている。
その間に、どれだけの死者が出ているのかわかったものではない。
それに、中島や花沢と再会した所で果たして何が出来るものだろうか。中島を説得することが本当に可能だろうか。
守ると決めたはずなのに。
家族も、仲間も、みんな守ると決めたのに。
いっそ、食料を買い込んだ上で家族みんなで磯野家に篭城したほうがいいのかもしれない。
自分でも自分らしくないと思うような消極的な戦法が脳裏によぎる。
だが、他の家族たちは、それを許してくれそうに無かった。
僕たちは家族を守りたかった [sage] 2012/04/30(月) 15:31:08.65:J/L0O84y
カツオと同様、一日中家を忙しそうに出入りしているワカメ。殺人と死体処理も身についてきた。
幼児や同級生など、自分の力でも難なく殺せそうな者は一人でも多く殺した。
大人であっても、油断していたりする者は機会を得ればすぐ殺した。イクラとタイコも、先に死ななければ自分が殺していた。
この六日間で十数人はすでに処理している。
問題は、波平の名簿の中にいるメンバーをさほど削れていないということだ。
名簿の中でも最も殺しやすそうなリカは、行方をつかめない。
ハチは住んでいるのが隣家だ。家族に気付かれるリスクの高さから、流石に手を出しにくい。
同様の理由で裏の老夫婦もだ。もっとも、裏のおじいちゃんはしばらく姿が見えないようだが。
それに、あの目撃者探しもある。いつまでも先延ばしにするわけにはいかない。
幸い、夜になるとサザエ、カツオ、フネは完全に眠り込んでしまう。彼女の深夜の外出を咎める者はいない。
怖い父親も、もういない。
いつものように、深夜になってから布団を抜け出す。隣で眠っているカツオを起こさないように、足音を殺してそっと襖を開ける。
しかし玄関の扉を開けようとした時、思わぬ声に呼び止められた。

「ワカメちゃん」

驚いて振向くと、マスオがどこか悲しげな顔で立っていた。
しまった、どういい逃れよう。だがワカメが口を開くより前に、マスオが言葉を続けた。

「もう、いいんだ」

最初は何を言っているのかわからなかった。

「もう、いいんだよワカメちゃん。君はそんなことをしなくていいんだ」

はっとして体ごと向き直るワカメの目をまっすぐに見て、優しく微笑んで言った。

「そんなことは全部、僕がやる。みんなを守るために、僕が全部やるから」

しかしワカメが何かを応えるよりも前に、二人は、何か巨大なものが地を揺らしながら歩み寄ってくるのに気がついた。
僕たちは家族を守りたかった [sage] 2012/04/30(月) 15:32:31.99:J/L0O84y
【六日目・午後十二時】
【磯野家】

【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上
2・サブに代わる手駒を探す

【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する
僕たちは家族を守りたかった [sage] 2012/04/30(月) 15:33:31.26:J/L0O84y
【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……

【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる
さようなら。 [sage] 2012/05/01(火) 15:02:23.08:OUMbDxKO
「ハチー、どこに行ったの?」

街灯と僅かな家の明かり、それに月しか光源のない深夜、伊佐坂家の庭に若い女の姿があった。
この家の娘、ウキエである。
彼女は犬小屋の前で何度も何度も愛犬の名前を呼んだ。しかし返事は無い。
すぐそばにいるのだろうか。怖いと思いつつも、門のほうまで歩いていく。
一人ではもはや家の敷地から出るどころか、屋外に出ることすらも躊躇われたが、あんな状態の家族に同伴を頼むわけにはいかない。

「ハチ……まさか、もう……」

思えば、あんなに賑やかだった隣家から、子供たちの笑い声もカミナリ親父の怒鳴り声も聞こえなくなってからどれだけ経っただろう。
彼女の家庭も、負けず劣らず……などという言い方はどうかとも思うが、とにかくめちゃくちゃになってしまった。
兄、甚六は、気の毒によほど外で怖い思いでもしたのだろう、部屋に引きこもって出てこようともしない。
父、難物は少女の姿に変えられてしまった。どれだけ不安、どれだけ屈辱であろうか。
我が家では最も熱心にこの殺し合いからの脱出方法を探っていたようだが、もはや外を出歩かせるわけにはいかない。
母、オカルは数々の心労が祟って寝込んでしまった。
こうしてみると自分はおそらく一番運がいい。まだ本格的に怖い思いをせずにすんでいる。
だがなかなかハチが見つからないことが不安となり、その不安はウキエの中でどんどん膨張していった。

その時、ウキエの耳にも聞こえた。
巨人がのし歩く足音のような、大きな音と激しい地面の揺れ。

「な、何今の?」

家の中に逃げ帰ろうとしたが、その前にまずは状況を確認しようと思った。
ウキエは十分に用心しながら、門の外にそっと顔を出した。
胸に刃物が突き刺さった。
さようなら。 [sage] 2012/05/01(火) 15:03:15.24:OUMbDxKO
「はあ、あああああ、あなたあああああ、どこにいるのおおおおおおお、あなたああああああああああ……」

ついさっきまで若い娘が立っていた伊佐坂家の庭に、今は別の女が立っていた。
返り血で真っ赤に染まったエプロンで、血がまとわりついた鉈を拭っている。
伊佐坂家の家人たちはみな迫り来るロボットに気を取られ、庭への侵入者には気がつかない。
もっとも侵入者自身、自分が何をしでかしているのかもわかってはいなかった。

「おかしい、おかしい、おかしいいい……こんなにいっぱい、こんなにいっぱい殺したのに、なんで、なんで、あの人はまだ、
なんで、なんで、なんで……帰ってこないのおおおおおお、あなたあああああああ」

そのうめき声も、ロボットの足音にかき消されて、伊佐坂家の人々の耳には届かない。
一方アナゴ婦人は、その足音にすら気付いていない。
それよりも、流石に疲れて眠くなってきた。
ついさっきも、たまたま道に飛び出してきた若い女を殺してバラバラにしたところだ。疲労も限界である。

寝床を求めて、彼女はあまり深く考えもせずに、鍵の開いた出窓から伊佐坂家の中に入っていった。幸い、今にはもう誰もいなかった。

【六日目・午後十二時】
【伊佐坂家】

【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
基本・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする
1・少し休む
2・甚六を殺す

【伊佐坂ウキエ 死亡確認】
残り35人
side C [sage] 2012/05/02(水) 17:21:55.50:qXsnPcKg
殺し合いとかなんとか言われても俺にはとんとわかんなかったが、だがここまで町の連中がバタバタしているとなると俺にも少しは事情が飲み込めてくるってえもんだ。
だれそれが死んだとか、だれだれがどこのだれに殺されたとか、そんなこたあ、俺にとっちゃあ正直たいしたことじゃあねえ。

随分な冷血漢じゃねえかってえ? まあそうさね、あんたらにはそう思われても、まあしょうがねえってとこだな。
だけど、ちょっと考えて見てくんねえか。
例えばあんたは道端で虫が死んでても、悲しく思ったりするかい?
あるいは川の中で魚がいっぱい死んでても、取り乱したりはしねえだろ?
こんなこと言ってる俺だってもちろん、魚を食うときに罪悪感なんざ感じたりはしねえ。

生きものってのはそういうもんじゃねえか。同情できるのはあくまでも自分と同格な相手だけよ。
もっともこないだ死んだ俺の仲間の一人は、そういう考えじゃなかったみてえだけどな。まあそりゃそいつの勝手ってもんだ。

俺にとってそれよりも危急的な問題は、もうここ何日もその魚を食ってねえってことだ。
今までは魚が食いたくなったらあの家に行けばよかったんだが、流石にこうなっちゃあそういうわけにもいかねえ。
俺だってその程度の空気くらいは読めるってもんだからな。
もっともメシには苦労していねえ。奇特な奴がいて、この殺し合いのドタバタの中でずっと宿無しだった俺を家に招きいれてくれた。もちろんメシと昼寝つき。
こいつが何を考えてんだかはさっぱりわかんねえが、まあどうでもいいさ。
それに俺にはこいつらの考えなんかさっぱりわかんねえからな。あんたが虫の考えを理解できないのと同じことだな。

今俺は、この家の主人であるそいつの隣でいつものようにウトウトしている。
周りにはそいつの娘だという女の子と、もう一人別の帽子を被った女の子、それに中年くらいの男がいる。
いかにも神経質そうな中年男は、隣に座った帽子を被った女の子の胸やら尻やらに手を伸ばそうとしてはひっぱたかれている。いつものことだ。
どうもこの男はこのくらいの歳の女が好みのようだな。もっとも、同い年くらいのもう一人の娘には目もくれてないが。
side C [sage] 2012/05/02(水) 17:22:29.80:qXsnPcKg
その時、主人の机の上の電話が鳴った。
主人はすぐに受話器を取って、なにやら話し込んでいた。声のトーンからしたら随分深刻な話みてえだな。内容はわかんねえが。
受話器を置いた後、即座に男は言った。

「岡島さん、中島くん、ちょっと頼みたいことがある」

おーおー精が出ますなあ。でも俺まで巻き込まれるのはゴメンだから、俺は「にゃあ」とあくびをすると、机の上から飛び降りてさっさと退散した。


【六日目・午後十二時】
【駅前・がんこ亭店内】

【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考: 基本・ 殺し合いの中で不動産を売りさばいて利益を上げる
1・中島と岡島を動かす
2・花子の命は最優先で守る

【中島】
状態:健康 女装
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:基本・カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
1:岡島を体で操って人殺しをさせる

【岡島さん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:中島タンハアハア
side C [sage] 2012/05/02(水) 17:23:31.80:qXsnPcKg
【花沢花子】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考:
基本・恋敵は殺す。他の人間は未定

【お魚咥えたドラ猫】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:なし
思考:花沢父の傘下で大人しくしておく
※花沢陣営の一員です
参加するカモさん [] 2012/05/03(木) 21:02:25.00:Ek3Ki0QF
て、新作来てたw
読んでみるかw
参加するカモさん [] 2012/05/15(火) 10:44:31.25:Ob29jpqk
新作キター!乙です
偶然 [sage] 2012/06/28(木) 17:21:12.54:YQnI+kkn
「結局、また一足遅かったみてえっすね……」

割られた窓、荒らされた部屋、そして畳の上に横たわる、血に染まった男の亡骸。
男を殺した者の姿はすでに無かった。
泥棒は、胸を切り裂かれて生涯を終えた男の傍らに座ると静かに手を合わせた。

「まだ数時間と経っていないな……本官たちがもっと早く、ここに来ていれば……」
「おまわりさん……」

泥棒と警官、本来なら決して相容れない立場である二人の男は互いに目配せをして、どちらからともなくよろよろと座り込んだ。
もう何度、こんなことを繰り返しているのだろう。
住人の中で誰が殺し合いに乗っているのかがわからない、いや、今は乗っていない住人でも誰がいつ乗るかわからない以上、地道に町中を回って殺し合いが起きないように目を光らせるしかない。
だが、警官と泥棒が目にするのは、すでに殺された犠牲者の姿ばかりだった。
目にした殺人現場の状況や位置から推測し、次に殺人が起きそうな場所に先回りしたこともあった。
だが、それも無駄に終わった。彼らが到着する時には、例外なくすでに殺人が行われた後なのだ。

「おまわりさん……もう限界じゃねえすか?」

泥棒は腰を下ろしたまま、弱々しく声を吐く。

「やり方を変えませんか? こんなことをいつまでも続けるわけにもいきやせんぜ」

「いや……他にアテがあるわけでもない。しばらくはこのまま続けるしかない」

そう応えながらも、それが無意味な行為に終わるであろうことは警官にもわかっていた。松葉杖の表面を意味も無く撫でる。

「俺たち、あのまま先生と一緒に死んでいたほうが良かったかもしれねえっすね……」

「そんなことを言うものでは無い」

自分たちを救ってくれた麻雀医師を見殺しにしたのみならず、他の人も、誰一人救えていない。何度も続く不運を嘆くことしかできない。
偶然 [sage] 2012/06/28(木) 17:22:03.69:YQnI+kkn
いや、本当に「不運」なのだろうか?

(おかしい。いくらなんでも、ここまで何度も続けて逃げられるものか?
あるいは、こちらの行動が読まれているのか? それとも……)

警官は、職務上の勘から、何かがおかしいということに気付き始めていた。
だが断定するには、根拠が少なすぎる。
それに、心身共に疲弊した今では頭もロクに回らなかった。
もとより、松葉杖とギプスが不要になるまでは本調子は出ない。

「……今日はここまでだな」

警官の宣言に、泥棒は黙ってうなずいた。すでに深夜だ。
いくら町民を守りたいとはいえ、二人だって食事と睡眠は取らないといけない。
今夜の寝床を探そうと、重い体を立ち上がらせた時だった。

二人のいる家の傍らを、一台のバスが走りぬけた。
警官は顔を強張らせた。自らの経験で判ったのだ。
ああいう走らせ方をする運転手は、高い確率で事故を起こす。
その直後、響き渡る衝突音。二人は家を飛び出した。
表の道に出ると、一軒の飲食店にバスが突入しているのが見えた。
その店の看板には、「がんこ亭」と書かれていた。
偶然 [sage] 2012/06/28(木) 17:22:43.84:YQnI+kkn
【六日目・午後十時】
【駅前・がんこ亭近くの路上】

【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1・状況を把握

【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官に従う
参加するカモさん [sage] 2012/07/31(火) 19:15:01.11:PF+OPWtk
    _
   /  \    
  |  ^o^ |      
   \_   ̄\
   _| |     | 
  |    \_/
      _| |_
     |     |

ttp://takes★hi3017.chu.jp/
★を抜いてね
創る名無しに見る名無し [sage] 2012/09/25(火) 00:34:00.62:u8eYRVaq
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る9/30(日)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
参加するカモさん [sage] 2012/09/26(水) 18:13:42.11:6gzUkAGO
ついに波平ロワがロワラジオにw
楽しみにしてます。
R-0109 ◆eVB8arcato [sage] 2012/09/30(日) 20:51:57.96:LoE7h1iT
ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。。
実況スレッド:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1349003896/
ラジオアドレス:ttp://ustre.am/Oq2M
概要ページ:ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします
ユーアンドミーふたり [sage] 2012/09/30(日) 21:03:01.27:H+9zBoWO
町内のその一角は、磯野家周辺の喧騒とも、駅前商店街の騒動とも無縁の深夜に相応しい静けさを保っていた。
もちろんどの家の住人も、六日目を無事に乗り越えられたこと以上に、明日が最期になるかもしれないという不安に苛まれながら、眠れぬ夜を迎えている。
だが、その中で一軒だけ、異質な雰囲気を放つ家があった。

その家の居間では、一人の少年がテレビをつけて見入っていた。
ニュースでは相変わらず、この殺し合いのことなど報じられていない。波平の情報統制は完璧に近い。
(やっぱり磯野のお父さんをどうこうするのは無理だな。磯野と中島を生き残らせるためには、俺が頑張って他の人を殺さないと)
この六日間で果たして何人の人間を殺したのか、彼にはもうわからなかった。

「西原が死んだぶん、俺が頑張るんだ。俺が……」

そううわ言のようにつぶやきながら、少年――西原は、静かにテレビを消した。

ここは彼の家ではない。彼の友人である橋本の家である。
だが橋本家の人間は、殺し合い四日目にして全滅した。本来なら、この家に帰ってくる者などいるわけがない。
だが、自分のことを橋本だと信じる西原は、さしたる苦もなくこの家に帰還し、戸惑うことも無く家の中の道具を使って食事をし、橋本のものだった布団の上で寝ている。
それも当然のことなのだ。彼にとっては、自分自身こそが「橋本」なのだから。

「さて、そろそろ……寝るか」

彼は立ち上がって子供部屋へと向かった。
もうすでに「自分の部屋」としか思えなくなった部屋のドアを開け、間違いなく自分のものである机や野球道具を見やる。
もはや「西原」という人間であった頃の名残など、彼の頭の中には微塵も無かった。

だが……この部屋の中に一つだけ、彼の心にひっかかりを覚えさせるものがあった。
それは机の上に置かれている一枚の写真だ。

その中には四人の少年が写っている。
ユーアンドミーふたり [sage] 2012/09/30(日) 21:04:22.85:H+9zBoWO
中央にいる帽子を被った坊主頭の少年と眼鏡の少年は、彼の親友である磯野と中島。
その両隣にいるのが、言うまでも無くこの自分である橋本と、今はもういない大切な友人、西原だった。

だが、この写真をじっと見れば見るほど、彼の中に疑問が浮かび上がってくる。
この二人の少年のうち、果たしてどちらが自分で、どちらが西原なのか。

自分の顔を忘れることなどあるわけも無い、とわかってはいても、考えれば考えるほど、心の中の焦点がぼやけてくるように、どちらがどちらだったのかが判らなくなる。
無論、今すぐ洗面所に行って鏡を見れば疑問は氷解するだろう。
しかしなぜか、それだけは、してはいけないことであるような気がした。

西原は写真から目を背けると、すでに使い慣れたベッドの上に身を投げた。
わからないことをいつまでも考えていたって仕方あるまい。
それに、大して重要なことでもあるまい。そんな気がした。

【6日目 午前11時】
【橋本家】
【西原】
状態:健康
装備:支給品一式、橋本の服
武装:小型爆弾×4
思考:基本・カツオ、中島を生き残らせるために他の参加者を殺す
※錯乱の末、自分のことを橋本だと思い込んでいます
その背中だけ追いかけてここまで来たんだ [sage] 2012/09/30(日) 21:10:32.24:H+9zBoWO
ジミーの職業は大工である。
だがまだ見習いであり、独立にはほど遠い。
しかし、いくら怒鳴られ、しごかれながらも棟梁の下を離れる気にはならないのは、棟梁の中に自分が欲していたものの存在を見ているからである。
それは、強い父親だった。
ジミーにとって、何よりも欲しかったものはそれだった。
厳しく叱りながらも、行くべき道を指し示してくれる、大きな背中をした父親。
棟梁が目の前に現れたその時から、ジミーにとって棟梁が世界の中心であり、世界の全てだった。

だが一度だけ、あまりの厳しさに音を上げ、棟梁の下を離れようとしたことがある。
その時自分の軽率さを諌めてくれたのが波平だった。
誤った道を行こうとした自分を正しく導いてくれた。
それ以来、波平もまた、彼にとって棟梁と並ぶ父親代わりとなった。


「ん……ここは……」

ジミーが目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。自分の家でもなければ、磯野家でもない。
「おー、気がついたか」
だがそう言って顔を覗き込んでくる男には見覚えがあった。
この町内における重要な食糧供給拠点の一つ、三河屋の店主。
「道の真ん中でぶっ倒れてたからよお、サブにバイクでここまで運ばせたのさ。
何しろほら、ここんとこ物騒だしよお」
思い出した。確か自分はリカの荷物を盗んだはいいものの、その中身が……いや、思い出すのはよそう。
その背中だけ追いかけてここまで来たんだ [sage] 2012/09/30(日) 21:11:57.37:H+9zBoWO
「どうもすんません、お世話になっちまって」
「お前、磯野さんとことかに出入りしてる大工の見習いだろう?」
三河屋の店主はジミーに水を薦めながら言った。
「最初は正直、チャラチャラした気にいらん奴だと思ってたんだがよお。大工仕事はしっかりしてる様だし、なかなかしっかりした若者じゃねえか。
少なくとも、うちのサブなんあよりはなあ」
そういう三河屋の横顔は、なぜかとても寂しそうに見えた。
しかしそれよりもジミーが意外に思ったのは、主人がいつもと同じ、三河屋の店頭に出る時の服装をしていたことだ。
「あの……こんな時でも、お店やってるんですか?」
「ったりめえよ! 俺が店を開かなけりゃ、みんな食うもんに困るじゃねえか」
ジミーは少し感心した。自分なら、その食料を独り占めして篭城しようとでも思っただろう。
水を飲み終えたジミーは、少しためらった後、三河屋にこう質問した。

「三河屋さんはどう思ってるんです? この、磯野さんがはじめたことについて」

三河屋は渋い顔になった。
「そりゃ、磯野さんには日ごろから世話になってるさ。けど、今回のことは許せねえ。
こんなに大勢の人を死なせて、それでたとえ盆栽が戻ってきたとしたって、何になるってんだ」
怒りというよりも、当惑に近い感情を圧縮して吐き出したかのようだった。

「じゃあ……磯野さんのやったこと、間違いだったと思いますか?」
「おお。こんなことはなんとしてでも止めさせなきゃいけねえ。
俺は普段の磯野さんのことを知ってるからこそ許せねえんだ。
あんな今時珍しいくれえまっすぐで正しかった人が、盆栽一つでこうも変わっちまうのかってな」

三河屋は、これ以上はもう話したくないとでも言うかのように、立ち上がってジミーに背を向けた。店番に戻るのだろう。

ジミーは素早く跳ね起きた。そして、いつも首に巻いているヘッドホンのコードを三河屋の首に巻きつけた。
三河屋の抵抗は一瞬の間だけだった。油断しきっていたからか、あるいは、「もう、これでいいさ」とでも思ったのか。
ジミーが力を抜くと、三河屋の亡骸は床の上に崩れ落ちた。
その背中だけ追いかけてここまで来たんだ [sage] 2012/09/30(日) 21:14:11.79:H+9zBoWO
ジミーは知っていた。
波平はいつだって。自分に正しい道を教えてくれることに。
だから波平が言ったことは、いつだって、絶対に、正しい。
そう信じていた。
三河屋の死体を後に残して、ジミーは部屋を後にする。
後悔も、逡巡も無かった。
波平は、絶対に、正しいのだから。

【6日目 午後11時】
【三河屋】

【大工のジミー】
状態:健康
装備:支給品一式×2(リカの分含む)
武装:大工道具一式(カンナ・金槌・釘・ノコギリ) 、斧、出刃包丁
思考:波平に従い、殺し合いを行う

【三河屋店主  死亡確認】
残り34人

君が大人になってくその季節が [sage] 2012/09/30(日) 22:04:05.12:H+9zBoWO
ハヤカワの初恋は、周囲と比べてやや遅かった。
だが、その炎の燃え方は、クラスメートの誰よりも激しかった。

カツオや中島のような同級生には、ハヤカワは全く興味が無かった。
カツオに熱を上げる花沢には、ある種の軽蔑すらも感じていた。
ハヤカワが恋に落ちた相手は、自分の何倍もの年月を生きてきた、初老の異性。
そして、彼女の担任の教師。
そんな相手と逢瀬を重ねることがどんな結果をもたらすのか、生徒であるハヤカワにもわかっていた。
しかし、彼女の情熱は、そんな幼い理性を吹き飛ばした。

「ん……」
殺し合いが始まってから何度目かの逢瀬の後、衣服を身に着けていないハヤカワは、同じく生まれたままの姿の先生の前で目を覚ました。
先生は既に起きていた。が、いつものように甘い声で彼女の頭を撫でようとはしなかった。
優しそうな、それでいて寂しそうな目でハヤカワを見つめている。
「先生、どうかしましたか?」
彼は黙って首を振った。
今日、外出先から戻ってというもの、ずっとこの調子だった。
「先生」
ハヤカワは先生の首に手を回す。
「私に、隠し事をする必要があるんですか?」
先生は答えない。ただ優しい目で彼女を見る。
……彼が他の生徒たちを見るのと、全く同じ目で。

それが、ハヤカワには許せなかった。
「せん――」
しかし彼女が気持ちを吐き出すよりも先に、先生の目から涙が零れ落ちた。
「私は……守れなかったんだ」
それはおそらく、目の前にいる少女に向けての言葉では無かった。
「みんな、みんな、守ってやると誓ったのに……私は……私は……」
「それは先生のせいじゃありません! みんなが死んだのは、磯野君のお父さんが……」
君が大人になってくその季節が [sage] 2012/09/30(日) 22:05:37.72:H+9zBoWO
「違う!!」

ハヤカワの前で初めて、先生は感情を曝け出した。

「命だけじゃない、私は、私は、心も守れなかったんだ!!
死んでいった橋本たちも……生き残った、西原すらも!!
なのに、なのに、なんでこれ以上お前を抱くことが出来る!!」

先生は崩れ落ちるように枕に顔を埋めた。

「……もう、帰るんだ」

ハヤカワは耳を疑った。

「私には、もう、お前を抱く資格は無い」

それ以上の説明は不要だと、その背中が言っていた。
許せなかった。

「……私は、」
だが、ハヤカワの言葉は玄関先から聞こえた声で遮られた。


「ちわーす!! 三河屋でーす!!」
君が大人になってくその季節が [sage] 2012/09/30(日) 22:07:02.64:H+9zBoWO
【6日目 午前10時】
【先生の家】
【先生】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・絶望
1・ハヤカワとはもう別れる

【ハヤカワ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・先生とずっと一緒にいる

【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
町の外にて [sage] 2012/09/30(日) 23:46:17.94:H+9zBoWO
海平とマスオの母はとりあえず空いていたビジネスホテルの部屋を取った。
一日中歩き回って、手に入った情報はほとんどない。
今家族たちの身に何が起きているのか、彼らが無事に生きているのかすらも、全くわからない。
「とにかく明日も続けましょう。もしかしたら、何かを知っている人に会えるかもしれません」
海平はマスオの母にそういい残すと、足取りも重く自分の部屋へと入っていった。
マスオの母の部屋は一階上である。
荷物を床に降ろし、着物の帯を緩めてベッドの上に腰を下ろす。
思うことは一つだけだった。

(マスオ……サザエさん……タラちゃん……どこにいてはるんや……今、何をしてはるんや……)

着替える気にも、風呂に入る気にもならない。
そう言えば、午後になってからは水しか飲んでいない。ルームサービスでも頼むべきだろうか。
そう思っていたちょうどその時、部屋のインターホンが鳴った。おそらく海平だろう。
マスオの母は急いで扉を開けた。
そして、来訪者の顔を確認するよりも先に気を失った。


「気がつきましたか!?」
目を覚ましたマスオの母の前には、彼女と同じく着物を着た女性が立っている。
マスオの母は手を後ろ手に縛られている。
だが闖入者は、強盗というにはどこか様子がおかしかった。
「あなた、マスオさんのお母様らしいですな」
「ど、どうしてそれを……」
「ある人に教えてもらいましてん」
どこか余裕のあるように見えるのは、その協力者の存在のせいだろうか。
町の外にて [sage] 2012/09/30(日) 23:47:07.70:H+9zBoWO
「わ、私をどうする気ですん?」
「安心してください、あなたを殺すとか、どうこうする気はありません。
あなたは大事な人質です」
「人質? そ、そもそもあんたは……」
「申し送れました。私は波野というものです。お会いするのは初めてでしたな?」
「あ……」
言われてみれば、ノリスケに似ている部分がある気がする。
「あなたも息子さんを心配して上京したんでしょう? 私も同じです」
「せ、せやったらなんでこんなマネを?」
ノリスケの母は自信ありげに含み笑いをして言った。
「私はあなたたちとは違います。あくまでも、うちの息子だけ助けたいんですわ。
他の人たちなんかどうなってもいい。マスオさんたちだけやない、あんたも、海平さんも、みんなどうでもいい。
やから私は、あなたたちみたいな悠長な真似はしませんわ。悪の親玉と戦います」
悪と戦う? 一体何を言い出すのか、この女は。

しかし次の彼女のセリフは、それ以上の驚きをマスオの母に与えた。

「私はあんたを人質に取って、このホテルに立て篭もります。
そして、日本政府を相手に交渉します。ノリスケの生きてる町で何が起きてるのか明らかにして、
私の息子だけでも保護するように!!」
町の外にて [sage] 2012/09/30(日) 23:48:42.51:H+9zBoWO
【五日目 午後3時】
【会場外】

【磯野海平】
状態:健康
装備:なし
武装:なし
思考:
1・波平たちの行方を捜す
※殺し合いに参加していません

【マスオの母】
状態:健康
装備:なし
武装:なし
思考:
1・波平たちの行方を捜す
※殺し合いに参加していません

【ノリスケの母】
状態:健康
装備:なし
武装:なし
思考:
1・マスオの母を人質にホテル立て篭もる
※殺し合いに参加していません
名無しさん@天国に一番近い島 [sage] 2012/09/30(日) 23:53:51.65:SWWIdZ4k
投下乙です。
やはり何年経っても親子の絆は切れないものなのですね。
でも自分の息子だけはちょっとひどいwwwwww

ともかく投下乙です!!
参加するカモさん [sage] 2012/10/01(月) 00:14:30.26:vdZoA30d
四連投下乙です!
橋本を誤殺しちゃった西原の心の中がツラい……
そして逆らえないと思ったジミーも何か深みが出てくるキャラに!
三河や店主がかっこいいなあ
とおもったら次の話ではサブちゃんがシリアスブレイカーしてるしw
ロリペド先生は悩む方向が違うような……?
ハヤカワにマーダーフラグも有るし、外部では大変なことが起こってるし!

ラジオから来た勢ですが、本当に面白いです!
応援してます!
名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 2012/10/01(月) 00:16:27.42:q5bXoKlr
乙!
先生、ついに生徒と決別するんだな……
ジミーは波平盲信しすぎや、怖っ、近づかんでおこ
そしてゲーム外で行われる不穏なやり取り
これからも見離せないぜ!
参加するカモさん [sage] 2012/10/01(月) 00:46:07.78:pNSad0TJ
投下乙です
日本政府と交渉wwwww
なんだか凄いことになっちゃったぞ無論良い意味で
作者です [sage] 2012/10/01(月) 12:04:15.24:jprsATbG
皆様、多くの感想本当にありがとうございます
これからも波平ロワをどうか宜しくお願い致します
可愛い奥様 [] 2012/10/13(土) 13:29:01.28:A4tlI0Kn
投下来てたw
参加するカモさん [sage] 2012/11/15(木) 02:04:19.42:54R1En6E
波平 47話(+ 4)  28/39 (- 1)  71.8(- 2.6)
笑顔を見せたかった [sage] 2012/11/17(土) 17:13:27.59:M8ouu0X8
いつからだろう。
人の前で、上手に笑えなくなってしまったのは。

いつからだろう。
自分の料理を食べてくれる人たちに、素直に感謝の気持ちを伝えられなくなったのは。

いつからだろう。
そんなことを、寂しいとすらも思えなくなってしまったのは。


がんこ亭の店内は惨状を極めていた。
几帳面に並べられていた椅子や机はひっくり返り、店主が心を込めて準備した調味料や箸の入れ物が砕けて中身を散乱させていた。
ガラスの破片が床一面に散らばっている。
そして、一台のバスが厨房の真ん前に停車していた。

「……何のつもりだ?」

店をめちゃくちゃにされたがんこ亭店主が、怒りを隠さない口調でバスに乗った二人組に問いかける。
ハンドルを握る唇の厚い男と、鉛筆削りのような奇妙な機械。
殺意を持っているのは明白だった。が、答えようとしない。

「おい大将!!」

テーブルの下に逃げ込んで難を逃れたハチが甲高い声で叫ぶ。

「相手にするな!! この隙に逃げるぞ!!」
笑顔を見せたかった [sage] 2012/11/17(土) 17:14:19.99:M8ouu0X8
戦って勝ち目があるとは限らない、そう判断しての発言である。
そしてそれは、がんこ亭店主にとっても同様だった。バスの力になど敵うわけは無い。
例え悔しくても、ここはバスが追いかけてこれないルートで逃げるのが得策なのは判りきっていた。
相手はバスを降りて追ってくるかもしれないが、そうなればバスの中から引きずり出したも同然、互角以上に持ち込める。
少しの沈黙を挟んでがんこ亭店主は言った。

「店の奥にもう一人いる。そいつは怪我をしてて動けねえ」
「わかった。じゃあ俺がなんとか時間を稼ぐ。あんたはそいつを連れて、裏口からでも逃げてくれ」
「なんでお前が……」

ここには自分が残る、と言おうとして気がついた。
ハチの体格では他の参加者を連れて逃げることは出来ない。ハチがここに残り、自分は全自動卵割り機を連れて逃げるというのが得策なのだ。

(なんで俺はこう、助けられてばかりなんだろうな)

だがそんな悲痛は顔には出さず、店主はハチに目配せだけをして、店の奥へと入っていった。
笑顔を見せたかった [sage] 2012/11/17(土) 17:15:52.84:M8ouu0X8
一方、バスの中の二人、アナゴとグルグルダシトールもまた、相手の出方を窺っていた。
バスを店に突入させるという大胆な行動に出たにも関わらず、店内を荒らしたのみで店内の戦力を削れなかったのは想定外だった。

「どうする、グルグルダシトール」
「知れた事。こうなった以上は打って出るしかあるまい」

彼らがここを標的にしたのは、ここが名簿に記された参加者の溜まり場になるのを恐れてのことだった。
マスオはアナゴと一緒にこの店に来たことがあるし、サザエやタイコらも来たことがあるはずだ。
営業が不可能になるまで店内を破壊することは出来た以上、当初の目的は達成したとも言える。
しかし、

「ノリスケ様の命を奪った者が奴らである可能性がある以上……そうでなくても、奴らが誰がノリスケ様を殺めたかを知っている可能性がある以上、手ぶらでは帰れぬ」
「同感だあ。俺も、目の前に獲物がいるのにおちおち逃げるのは気が引ける」

ノリスケの敵を討つことだけを考えるグルグルダシトールと、マスオを生かすため彼以外を全員始末したいアナゴとの思惑は、利害以外の見解で一致した。

「だけど、車外に打って出るのは賭けになるな。向こうにもどんな武器があるかわかったもんじゃない」

グルグルダシトールもそれには同意する。迂闊に動くことが出来ず、車内でじっとチャンスを窺う二人。
その時、店内に居た店主とハチのうち、店主が厨房の奥へと引っ込んでいった。
残ったのはハチのみ。またと無いチャンスと言っていい。

「殺さず、捕らえて欲しい。ノリスケ様を殺害したのが誰なのか、拷問してでも聞き出したい」
「わかってるさぁ〜」

アナゴはグルグルダシトールを抱えると、バスのドアを開けて車外へと飛び出した。
笑顔を見せたかった [sage] 2012/11/17(土) 17:33:29.51:M8ouu0X8
厨房の奥に戻ったがんこ亭店主は、布団に寝かせていた全自動卵割り機をゆすって起こした。

「おい、逃げるぞ」

細かい説明は後で、という意味も込めた簡潔な言葉だった。
だが帰ってきた返事は、

「もう……ボクなんかほっといてよ。ここで死んだほうが、ずっといい」

「何を言っている?」
「だって、死ねばタラチャンに会える。生きていたって、一人ぼっちになるだけじゃないか。
僕はタラチャンさえ居てくれればいいよ。だから、タラチャンのところに行かせてよ、ねえ、お願いだからさ」

店主は無言で、全自動卵割り機の体を抱き上げ走りだした。

(ったく、俺って奴は。なんだってこんな時に……)


どうして、人と本音で話すことを避けて生きてきたんだろう。
どうして、笑えなくなってしまったんだろう。
どうして、要らぬ意地ばかり張ってきたんだろう。

(こんな時に、気の利いた言葉の一つも言えなくてどうするってんだよ……俺は……俺は……!!)

一人ぼっちはイヤだって?
バカやろう、その歳で俺みたいなことを言うんじゃねえ。

全自動卵割り機を抱えて、がんこ亭店主はただただ走った。
笑顔を見せたかった [sage] 2012/11/17(土) 17:35:37.36:M8ouu0X8
【六日目・午後十時】
【がんこ亭店内】

【がんこ亭店主】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1:全自動卵割り機を連れて逃げる。べ、別にただ怪我をしてるのに放っておけないだけなんだからね!!

【全自動卵割り機】
状態:破損(命に別状なし)
装備:なし(支給品焼失)
武装:なし
思考:
1・………

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:アナゴとグルグルダシトールを足止めする
参加するカモさん [sage] 2012/11/19(月) 23:31:51.16:0DLycEgf
投下乙!
がんこ亭亭主イケメンすぎ。
でもやっぱり普通に喋ってる全自動卵割り機がシュールすぎるwwww
参加するカモさん [sage] 2012/11/21(水) 19:13:54.87:ZYwBXspK
投下乙!
がんこ亭亭主かっこよすぎだろう・・・・・・
いつからだろうな、素直に笑えなくなってしまったのは
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:13:24.48:KJftay7R
家の門の外に出た伊佐坂と校長、およびマスオとワカメは、こちらに迫り来るものを見て絶句した。
それはざっと三十メートルはあるかという巨大な木製のロボットだった。
さらにカツオとフネ、オカルも遅れて家から出てきた。

(棟梁、か!?)

その場にいた全員が思った。こんなものを作れるのはこの町では棟梁しかいない。

「おいおい、反則だろう、こんなの……」

マスオが途方に暮れたような声を出す。こっちは磯野家と伊佐坂家を合計しても大人が四人、子どもが二人に子どもの姿をした大人が二人。こんなロボットとどう戦えというのか。

(いや、待て、サザエは!?)

マスオはそこに集った面々の中に、妻の姿が無いことに気付いた。
何かあったのかと思ったが、貴重な戦力である自分が今この場を離れるわけにはいかない。

「カツオくん、ワカメちゃん、サザエを探してきてくれないか!!」

だがその声に、カツオは首を横に振ることで答えた。

「マスオ兄さんたちは家に戻って、姉さんを連れて裏口から逃げて!! 細い路地に逃げ込めば、こんなでかい奴は手を出せないはずだよ!!」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「僕は出来る限り、こいつをうちから遠ざけてみるよ。足だってそう速いとは思えないし、まず逃げ切れると思う」

マスオは慌ててカツオの肩をつかむ。

「ダメだ、その役目は僕がやろう」
「大人よりも子どものほうが撹乱には向いているさ!! ここは僕に任せて、みんなは早く!!」
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:14:29.40:KJftay7R
ロボットの上が電柱をなぎ倒し、大きな振動が皆を襲った。
その弾みでマスオの力が少し緩んだのを見逃さず、カツオは彼の手を振り払ってロボットに向かって走りだした。

「待ってくれ、カツオく……」
「カツオ、やめなさい!!」

悲痛ささえも含んだフネの声が響き渡ったが、カツオは足を止めることなくロボットに向かっていった。
ロボットの操縦者もそれに気付いたのか、その巨大な腕をカツオに伸ばす。
それは軽々とかわしたカツオだったが、反対方向から伸びてきたもう一本の腕は、彼からは完全に刺客になっていた。

「カ、カツオくん!!」

思わず駆け寄ろうとしたマスオだったが、彼よりも先に足が動いていた者がいた。
少女の姿をした伊佐坂難物である。
伊佐坂はすんでのところでカツオを突き飛ばし、彼の身を守った。
だがカツオを捉え損ねたロボットの腕は、伊佐坂の右腕をしっかりと握った。
骨が砕ける音がカツオの耳にまで聞こえてくる。あの木製の太い指で掴まれたら一たまりもあるまい。
ましてや、製作者はあの棟梁なのだ。
ロボットは少女の腕を絞り上げるように握ったまま、その体を高く持ち上げた。
腕に走る激痛に顔をしかめながら、伊佐坂はコックピットの中を覗き見、そして驚愕した。
彼も操縦者は棟梁に違いないと思っていた。なので、操縦桿を握るホリカワの姿には、

「ど、どうして君が……」

と言うしか無かった。ホリカワは答える代わりに、人形の腕を持って振り回すように伊佐坂を振り回した。
伊佐坂の右腕は千切れ、血を噴出しながらその少女の体はゴミステーションのゴミの山の上に落とされた。
もちろん深夜にゴミを棄てるのは非常識だが、今回はそのゴミがクッションとなって伊佐坂を即死から救った。
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:15:35.65:KJftay7R
「あ、あ、あ、……」

真っ赤に迫るゴミ袋の山を見て、血相を変えたのはオカルだった。

「いやあああああああ、あなたああああああああああ!!」

今まで家族の誰も見たことのないほどに取り乱し、血の海に横たわる夫のもとへと走る。

「あなた、あなた、どうか、どうかしっかりして!! お願いだから生きていて!!
姿なんかどうなったってかまわないから、今の姿のままで構わないから、どうか生きていて!!」

わめきちらしながら駆け寄るオカル。しかしその腕が愛する夫の体に触れるよりも先に、再び歩みを進めだしたロボットが、彼女の体をいともたやすく踏み潰した。


【七日目 午前零時】

【磯野家と伊佐坂家前の路上】

【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・ロボットに対処
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:16:36.48:KJftay7R
【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
基本・家族以外の人間を全員殺害する
1・ロボットに対処

【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・絶対に殺し合いを終わらせる
1・呆然
2・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
3・中島の目を覚ませる

【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・家族を守る
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:17:14.28:KJftay7R
【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの 右腕切断 瀕死
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・不明

【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る、生徒と教職員を守る
1・呆然

【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメ以外の人間は皆殺し

【伊佐坂オカル  死亡確認】
命を救ったマナー違反 [sage] 2012/12/24(月) 17:18:12.41:KJftay7R
それでは皆様、よいクリスマスを。
参加するカモさん [sage] 2012/12/26(水) 21:30:47.81:WC0o5qfX
投下乙
一気に事態が動いてきたような……
因縁と思惑が交差していくなあ
参加するカモさん [sage] 2013/01/15(火) 13:25:02.51:m/Z/soWi
波平 49話(+ 2)  27/39 (- 1)  69.2(- 2.6)
参加するカモさん [] 2013/02/11(月) 00:21:32.50:Cz8cPFll
久しぶりに来たのでまとめ読み
参加するカモさん [] 2013/02/13(水) 16:07:21.10:B9UPPiUj
ssだったのか
点と線 [sage] 2013/02/14(木) 09:49:25.63:d565NVGL
花沢不動産社長は、携帯電話の画面を見て舌打ちした。

「棟梁のロボットと磯野さんちがついに衝突したか……中島くんたちはまだ現場に着いていないようだな。しかし、今から行っても何が出来るか……」

磯野家と駅前で起きている二つの戦闘についての情報は、町中にいる協力者たちから次々に寄せられてくる。
こんな大きく戦局が動く局面を見逃すわけには行かなかったが、大っぴらに出て行くわけにも行かない。
現場については中島たち一味の者に任せて、自分はあくまで「不動産屋」としての仕事をしなくてはいけない。

夜闇と混乱に紛れて花之丞がやってきたのは、ちょっとした知り合い関係にあるリカの家だった。
目的はリカの家族の状況を探ること。
母親は放送で死亡を確認したが、父親とリカについては情報が少なかった。
リカは今日の夕方までは目撃情報があるが、子どもゆえに不確定要素が大きい。

「ここいらで確定させとかないと、今後ちょっと動きにくいからなあ……」

知り合いという者は、味方にもしやすいが一歩間違えば足を掬われかねない存在である。
花之丞は不動産屋社長の特権として手にしている合鍵でリカの家へと侵入した。

足を忍ばせて部屋の中を一つ一つ見て回る。
最初に目にしたのは、リビングルームの中央に横たわる女性の死体。
リカの母親のものに相違なかった。
花之丞は顔色一つ変えずにその死体を検分する。死因は背中からの刺殺だった。
家の中で事切れているところからすると、犯人はもしかしたら……

さらに台所の生ゴミの腐敗具合や埃の量から、丸一日はこの家に誰も帰っていないことを確信した。
そもそも死体をそのまま放置しているくらいなのだから、ここへ戻るつもりもないのだろう。
点と線 [sage] 2013/02/14(木) 09:50:15.42:d565NVGL
リカと父親の向かった先を突き止めようと、さらに家の中を渉猟する。
特に目を引くようなものはなく、花之丞はただ、この家をこの状況下で誰かに貸すとしたらどれくらいの家賃が妥当だろう、ということのみを考えていた。

ある扉の前で、花之丞は立ち止まった。
五感が何かを感じ取ったのか、あるいは単なる勘か。
答えを出すのは後回しにして、その風呂場のドアを開いた。

中にあった二人分の死体を眼にして、花之丞は初めて驚愕した。
人が死んでいたから、ではもちろんない。
そこにあったのは服装からしても体格からしても、リカとその父親のものに相違なかった。

ただ一つだけ不可解なこと――それはその二人分の遺体、殊にリカのものが、どう見ても死後数日以上経っていたことである。
点と線 [sage] 2013/02/14(木) 09:50:51.28:d565NVGL
「花沢さんのお父さんが第一発見者になったか……しかし、果たして真実に気がつくかどうか、見ものだのう」

主催本部にて、椅子の上でモニターでリカの家の様子を見ていた波平は愉しそうに笑った。
その傍らには波平の片腕、磯野藻屑が実体化して経っている。
「雪室先生の世界のデータを用いてリカの偽者を再現するのはなかなか骨の折れる作業だったのだぞ。雪室先生を間違ってこっちの世界につれてきてしまうというオマケまであったしのう。それなりに愉しい結果になってくれんと困るわい」
「わかっていますよご先祖様、ようやくそうなりそうじゃないですか」
波平は藻屑の愚痴に、自信満々な様子で答えた。

そう、「リカ」などという少女は、この世にはもういないのだ。
本物のリカは殺し合いが始まった直後、気のふれた母親によって殺害された。父親も一緒にだ。
今殺し合いに参加しているのは、雪室先生の脳内の情報から再現した、不完全な偽者にすぎなかった。
あまりに早く知り合いが死んだことに気落ちした波平のために、藻屑が急ごしらえで用意したのである。
こんなこともあろうかと、雪室先生を最初に倉庫に集まった参加者の間に混ぜておいたのが結果的には吉と出た。

「しかし、あまり花沢さんばかりを注視しているわけにもいかんのが残念ですなあ」
「左様、今夜は山場になりそうだ」

波平と藻屑は、磯野家前とがんこ亭内部に設置したカメラの映像へと目を移した。


【七日目 午前零時】

【リカの家】
点と線 [sage] 2013/02/14(木) 09:52:09.50:d565NVGL
【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考: 基本・ 殺し合いの中で不動産を売りさばいて利益を上げる
1・リカの家を探索
2・中島と岡島を動かす
3・花子の命は最優先で守る

【主催本部】

【磯野波平】
状態:健康
思考:
1・殺し合いの完遂

【磯野藻屑】
状態:健康
思考:
1・波平をサポートする
※主催側の人物です
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:23:55.04:vS3ThgTw
俺は悪人だ。
いくら泥棒にしては人がいいとか、根は悪い人間じゃないとか言われたって、俺は人の物を盗むことで生計を立てていた以上、何の言い逃れの余地も無く完全な悪人だ。

そんな自分を情けないと思ったことはあっても、後ろめたく思ったことは無かったし後悔だって一度もしなかった。
だがある日、自分を逮捕した警官に言われた一言だけはずっと耳に残った。

「お前は人当たりだっていい。そんな何度も同じ家に入るほどの執念と度胸があれば、まともな仕事にだっていくらでも就けるだろう。なのになんでいつまでもこんなくだらないことをやっている?」

生活のために必ずしも悪事を働く必要は無い。
ならば自分は一体何のために、盗みという悪事を続けるのか。

答えを探していたのかどうかは、自分でも良くわからないが、とにかくまだ答えの出ないうちに思いがけなく命のやり取りなどをする羽目になった。


駅前の店に突っ込んだトラックの後を追って店内に入った俺と警官が見たものは、何もかもが粉々に壊れた店内で向かい合う、一匹の犬とたらこ唇の男と機械のコンビだった。
警官は間髪も入れず言った。

「皆さん、私は警官です。まずは事情を説明してくれませんか? くれぐれも短絡的な行動はしないように!!」

さすがというか、呆れるばかりの公僕魂だ。俺はここまで自分の仕事に誇りを持つことなど、おそらく一生、無いに違いない。

「これはこれは……まともな人が入ってきたと思ったら、案外そうでもなかったな」

口を開いたのは犬だった。

「警官? そんなのが今更この町に何の用だよ。見ての通り、ここは人を殺すことに何の躊躇も無いクズ野郎どもの巣窟さ。あんたの持っている国家権力の権威はなんの意味もないぜ」
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:24:31.17:vS3ThgTw
「そんなことは判っている!!」

警官はやはり、何のためらいもなくそう言った。

「だが本官は国家の権威などと関係なく、あくまで一警官として職務を全うしたい所存であるのみ!!
本官の前で犯罪行為を行うというのなら、直ちに厳正に対処する!!」

誰もが言葉を失い、警官をいぶかしむような目で見る。呆れているとしてもおかしくはない。俺だって呆れている。

まず動いたのはたらこ唇の男だった。機械を抱えると、警官に向かって走り出す。
それと同時に、鉛筆削りを回すような耳障りな音が聞こえた。
次の瞬間、目を疑った。離れて立っていたはずの警官の右耳が、血しぶきと共に千切れた。

さしもの警官もうめき声を上げて耳を押さえる。俺にもわかった。これがおそらく、あの機械の能力なのだ。

「警官だろうが誰だろうが関係ない。ノリスケ様の仇を討つため、全ての敵は滅ぼさねばならん」

機械の声を聞きながら、俺と犬は互いに目配せした。こんな反則的な技を持っている相手だ、こっちも迂闊には動けない。
機械を持っている男のほうをどうにかできればまだ勝機はあるだろう。俺も犬も、それと悟られないように男たちの死角を狙う。

だが、肝心の警官の取った行動はまたしても予想外のものだった。
警官は右耳から流れ落ちる血をそのままに、血のついた手で腰につけた警棒を抜いた。
そして、

「ここは本官が食い止める!! お前たちは逃げろ!!」

と、またしてもバカなことを抜かしやがった。
今度と言う今度は俺もガマンの限界ってもんだっ
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:25:50.12:vS3ThgTw
「お巡りさん、いい加減にしてくださいよ!! いっつもいっつもそうやって一人で戦おうとして……」

だがもちろん、是非を議論している暇など無かった。
機械が風の渦を巻き起こす音が再び響き渡る。次の狙いは警棒を握る警官の腕だった。
冗談のような音がして、警官の右腕から大量の血が吹き出る。しかし、警棒を離しはしなかった。

犬と俺は、機械を持つ男の前後からほぼ同時に走り始めた。当然男の目はまず俺に向けられた。
ほとんど間髪も入れず、左の足首に激痛が走る。機械の起こす風の刃の傷みは想像以上だった。
俺は情けのない悲鳴を上げてその場に倒れこむ。だがそのお陰で、犬のほうは男の背後に接近できた。
今度は男の悲鳴が店内に響き渡る。
犬は男の右足に噛み付いて離れなかった。
男は思わず機械を手から落とした。地面の上に無造作に転がる機械に、俺と警官が同時に手を伸ばす。
こいつを無力化できればこの場は勝ったも同然なのだ。

だが、機械に触れる寸前、風の刃によって俺の指は一本ずつ千切れ飛んでいった。
続けて下腹部に走る激痛。右目も抉られた。

「そこまでだ!!」

警官の棍棒が機械の上に振り下ろされようとしたが、その寸前に空中へと弾き返された。
目に見えない旋風は、想像も付かないほどの威力で俺たちの体を切り刻んでいった。
警官は床に叩きつけられるように頭から倒れこんだ。あの様子ではしばらく動けまい。
犬はまだ、たらこ唇の男の足を咥えたまま離さない。そのことだけが、俺たちに僅かな勝機を残していた。

そして俺はこの時確信していた。なぜ俺が今まで盗みを続け、悪人であり続けたのか。

機械の口から巻き起こる旋風は、店内のあらゆるものを容赦なく破壊していく。
その混沌の中、俺は必死の力を振り絞って、床の上に伸びていた。警官の手から血で濡れた警棒を奪い取った。

「お、おい、何のマネだ!!」
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:27:16.49:vS3ThgTw
息も絶え絶えな警官の声を背中に、俺は機械に向き直る。
チャンスはほんの一瞬しか無いのだ。
そう、機械の起こす風の狙いが、床の上に倒れていた警官から、立ち上がった俺へと移る、その一瞬しか。
俺はとにかく夢中で、警棒を振り下ろした。

手ごたえだけは、あった。
それを自分の目で確認することはできなかった。俺はその時すでに両目を風に潰されていたからだ。
それにもう立ち上がることも、喋ることも出来ないことはわかっていた。
だが、もう風の音は聞こえなかった。
その代わりに、警官が今までとはまるで違う調子の声で叫んでいるのが微かに聞こえた。

「貴様……こんな所で、本官の身代わりになどなったつもりで死ぬなど許さんぞ!!
本官に協力すると言っておきながら途中で放棄するというなら、公務執行妨害で逮捕する!!
それに、いかに本官たちを守る理由があったといえども、貴様のしたことは立派な器物破損だ!!
よって、本官の許可なくこの世を去るなど絶対に許さん!!」

へえ、すいませんねお巡りさん。だけど、今度ばかりは勘弁してくださいよ。
あっしは今、最高に幸せな気分なんですから。今までに働いてきた盗みも、この瞬間のためだと思えば納得できやす。

散々悪事を働きながら、最後は人を庇うといういい事をして死ぬ。
これほどいい気分になれることは、他に無いですよ。
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:31:28.37:vS3ThgTw
【六日目・午後十一時】
【がんこ亭店内】

【泥棒  死亡確認】
【グルグルダシトール  死亡確認】

【警官】
状態:満身創痍
装備:支給品一式、不明支給品
武装:警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1・絶望

【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:アナゴを足止めする

【アナゴ】
状態:軽い負傷
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・マスオ以外は皆殺し
1:この場から逃げる
あなたとワルツを [sage] 2013/03/11(月) 18:32:58.62:vS3ThgTw
今日は以上になります

最後に、宣伝になってしまいますが某所で古生物ロワというのを始めました。
興味のある方は是非参加してください。よろしくお願いします。
参加するカモさん [sage] 2013/03/15(金) 16:15:19.16:MnXs8/3/
月報集計お疲れ様です。
波平 51話(+ 2)  26/39 (- 1)  66.7(- 2.5)
参加するカモさん [] 2013/05/03(金) 15:13:45.18:BX/HTSpE
久々に来たが投下来てたのか
参加するカモさん [] 2013/08/14(水) NY:AN:NY.AN:Bv2LwPvs
久々に来た。スレ主元気かの〜
参加するカモさん [sage] 2014/01/27(月) 17:58:49.07:nnhUMJso
波平の声優さんが……
参加するカモさん [] 2014/05/18(日) 12:21:20.32:eNljuZlB
茶風林か…
参加するカモさん [sage] 2014/08/14(木) 21:17:37.62:z2/10V91
追いついた 続き待ってるよ〜
省略可 [] 2014/08/15(金) 20:52:16.90:Mr4fdCPQ
: 北大村上祐章教授完璧な段取り神奈川県川西市議相模原市. 名前:積極的な心構え
を手にする方法 日付:2010/4/3(土) 14:21. 1.否定的な言葉を口にださない (面倒、
大変、だるい、嫌…など) 2.陰の部分を紙に書き出し、陽な考え方に ...

: 北大村上祐章教授完璧な段取り神奈川県川西市議相模原市. 名前:積極的な心構え
を手にする方法 日付:2010/4/3(土) 14:21. 1.否定的な言葉を口にださない (面倒、
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